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映画界、ハラスメント防止へ 撮影前にスタッフら研修 人材流出加速に危機感

 国内の映画制作現場で、ハラスメント対策がようやく進み始めた。撮影前に監督や俳優、スタッフらを対象に研修を実施したり、被害者の相談窓口を設けたりする取り組みが導入されている。男女差別や上下関係の意識が根強く残り、長時間労働が常態化している映画界では、若手や女性へのハラスメントが少なくない。こうした労働環境を改善しない限り、人材流出が加速し、業界全体の衰退につながるとの危機感が背景にある。

 「映画業界には厳しい縦社会が残り、監督が若いスタッフを怒鳴ったり暴力を振るったり、そういう場面を何度も見てきた。ハラスメント行為が『巨匠の武勇伝』のように語られ、受け継がれてきた」

 8月に全国公開された映画「孤狼の血 LEVEL2」の白石和彌監督(旭川出身)は、助監督時代をこう振り返る。緊張感を高めるため、わざと怒声を上げて空気をぴりつかせる監督もいた。「でもそれは違いますよね。プロなんだから、緊張感あるシーンでも普通に撮ればいいだけです」

 昨年9~11月に広島県内で行われた同作の撮影入り直前、監督や俳優、スタッフら約50人が「リスペクトトレーニング」と呼ばれるハラスメント研修を受けた。白石監督の提案で、東映が国内の映画会社としては初めて実施し、撮影期間中は実際に被害に遭った場合の電話相談窓口も設けられた。

 トレーニングは約1時間。企業のハラスメント対策などをサポートする「ピースマインド」(東京)の社員が講師を務めた。「この発言はハラスメントに当たるから駄目」と一方的に線引きするのではなく、発言や行動に相手へのリスペクト(尊重、敬意)があるかを考えさせるのが特徴だ。

 例えば「スタッフをあだ名で呼ぶ」「監督が新人俳優を一対一で演技指導する」といった場面。どうすれば互いの気持ちを尊重できるか、どんな言動だとリスペクトが欠けていると感じるのかなど、意見を出し合う。同社の田中秀憲研修部長は「協調し合い、関係をより良い方向に持っていくために『リスペクト』というフィルターを使う」と説明する。

 国内の映像制作におけるハラスメント対策は、米動画配信大手ネットフリックスが先行する形で始まった。白石監督がトレーニングを提案したのも、同社の取り組みをニュースで知ったのがきっかけだという。

 ネットフリックスは2015年に米国で初めてトレーニングを行い、ハリウッドの大物プロデューサーによる長年の性暴力やセクハラ行為が告発された17年以降は国外にも拡大した。日本ではプログラムをピースマインドと共同開発し、18年の自社オリジナル作品「全裸監督」で初めて導入。現在、100カ国以上にある制作拠点全てで行っている。

 プログラムは各国の文化や業界のしきたりに応じて調整するといい、同社フィジカル・プロダクション部門日本統括の小沢禎二さんは「飲み会の強要といった日本でよく見られる場面を設定し、さまざまなバックグラウンドを持つ関係者に分かりやすく伝えることを重視している」と話す。

 トレーニングの効果はあったのか。白石監督は「スタッフの笑顔が増え、誰かが声を荒らげたりしても『リスペクトが足りないのでは?』などと言いやすくなった。自分自身も精神的なコンディションを意識したり、周囲とよくコミュニケーションをとるようになった」。今年6~7月に行った新作の撮影前もトレーニングを導入したという。

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