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山本教授の学生への助言詳報 #選挙に行く?行かない?

 「自分の一票では何も変わらない」「高齢者向けの政策が中心でモチベーションが上がらない」―。選挙をめぐる大学生の疑問に対し、現代日本政治論が専門の山本健太郎北海学園大法学部教授(43)に助言を聞いたインタビュー取材の詳報を掲載します。(編集委員 長谷川賢)

■推しメン選びと同じ感覚で

 若い人たちには、あまり真面目に考えすぎず、イメージで判断して問題ないと伝えたいですね。テレビでもネットでもいいので、たとえば党首やリーダーのイメージ、しゃべっている雰囲気、信用できそうかどうか、そういうのも判断する際の大事な要素です。プロ野球でもアイドルでも最初から詳しい人はいません。たまたま友達に誘われたのがきっかけで好きになり、その後で選手の特徴だとかアイドルのメンバーの推しメンがどうのという話になってくるのだと思います。選挙も一度投票してみると、票を入れた政治家がその後どうしているかが気になるものです。次の選挙で評価すればいいのです。

■自分が大事にするテーマで選ぼう

 LGBTなどのジェンダー問題、気象変動などの環境問題、同性婚や夫婦別姓など、自分が気にしているものがあれば、それ1個で選ぶというのも悪いことではありません。全体を見ようとすると「争点の束」という古くから知られた政治学の言葉がありますが、政策の整合性がとれずに選べなくなってしまいます。ですから、自分が好きなテーマ、大事だと思うテーマ1個に絞って投票先を決めるのは有力なやり方です。すぐやってくれるのはどの党かという一点突破で決めるのも全然「あり」です。

■教科書的な有権者像の押しつけ

 政策を真面目に比較検討しなければならないという教科書的な有権者像をあまり押しつけないほうがいいと思います。確かにニュース報道などで政策の違いを見極めるのは大事なのですが、若年層にとっては面白くなかったり関心が持てない場合もある。若い頃は私自身もそうでしたが、自分がどのような政治・政策を好むかというのがまだ定まっていないわけです。分配がいいのか成長がいいのかと言われてもよく分からないというのが正直なところだと思います。まだ政治的な信念や信条が固まっていなくてもよくて、それは社会経験を積む中で自然に決まっていくものです。ただ、決まってないから選べないというようにはなってほしくない。理念がなくても投票して構わないのです。

■政治課題の時間軸によるミスマッチ

 高齢者向けの施策は即効性の強い短期的なものが多くなります。つまり政治の時間軸が短い。一方で若年層が求めている政治への期待は長期的なもの。自分が年寄りになったときに年金がもらえるのかや、二十歳になると年金を払わなければいけないので若者にとっては金銭的な支出、負担が大きいこと、さらに、この国はこの先も大丈夫か、就職した企業は長く存続するのだろうかとか、長期的な時間軸で考えなければならないのです。しかし短期的に成果が出る政策、目先の利益が出る公約に目が向いてしまう。実はここにミスマッチがあるのです。

■コロナ禍で短期的な課題に終始

 今、SDGsが言われ、持続可能性がキーワードのようになっています。環境問題などは長期的な時間軸の問題ですが、先のドイツの総選挙でも若者の関心が高かった。日本でもそうしたところを語る必要がある。にもかかわらず、コロナ対策で即効性を求めて、困っている人が目の前にいるわけですから、何とか支出して助けなければいけないということで短期的な政治課題が前面に出てきてしまっています。これから長く生きていく若者は長期的な課題に目を向けるのだけど、そこに政治がフォーカスできていないという点が実は非常に問題なのかもしれません。

■学費が高いことへの不満

 今、学生たちの間で一番関心が高いのは、コロナ対応の中でオンライン授業なのに学費が高いという問題です。ある種の不満ですね。学費を安くする、補助するという政策を、今回の選挙では各党が掲げると思いますが、しかしそれはどの政党も恐らく同じようなことを言うでしょうから、それで区別するのは非常に難しい。それでも、先ほど言ったように、どこの党なら本当にやってくれるかという視点で選んでほしい。

■米国のサンダース現象に注目

 米国で民主党のバーニー・サンダースが若者に支持されたのは、学費が高いことへの不満が背景にあります。学費を払えず大学へ行けないのはおかしいと。これは社会全体のことを深く考えた結果ではなくて、自分の人生を何とかしてくれという話なのです。米国の若者が日本の若者より政治的な意識が高いからそうなったのではなく、自分が今こうしてほしいとか困っていることを口に出すか出さないかの差だと思います。

■もっと自分勝手に振る舞っても…

 選挙を機に若者はもっと自分勝手に振る舞っていいのかもしれません。政治は最終的にはどこまで行っても自分事なので、自分にとって一番いい政治をしてくれるのは誰であり、どこの党かということ。何か上から言われてそれに従うのが当たり前みたいなことでいいのか。もっと自由に、もっと自分を解放して政治と付き合ったほうがゆくゆくいいのかなと思います。選挙というのはそのための一つの入り口になるでしょう。

■気づきのきっかけはSNS

 1学期に学生と話をしていて興味深かったのが、黒川検事総長の定年延長の問題で、それに反対するハッシュタグが話題になりました。それが学生の心を非常に捉えていて、理由を探ってみると、有名なアイドルが普段はあまり政治的な発言をしないのに、TwitterなどのSNSで発言したようです。社会問題に目を開くきっかけがSNSというのが非常に興味深いと思います。

■不在者投票~住民票を移さない学生

 不在者投票や期日前投票なども含めて、投票をよりシンプルにしていく努力は必要だと思います。不在者投票は郵送で請求して、届いたものをもう一回役所に持って行かなければならないというように、請求の手続きがアナログです。そこはデジタル化する余地はあるでしょう。マイナンバーカードもあるわけだし、投票用紙を電子化するぐらいはそんなに難しくないはずです。大学生の場合は実家から離れて大学のあるところで独り暮らしをしていて住民票を移していないケースがかなりあります。その場合は実家に戻って投票するか、不在者投票をしなければなりません。

■期日前投票でハードル下がる

 一方、期日前投票は簡単にできるようになっています。何も持たずに手ぶらで行っても大丈夫です。免許証などの身分証明書は必要ですが、投票のはがきを持って行かなくても本人確認さえできれば投票できるようになっています。好きなときに行けるという意味でもお勧めです。大学キャンパス内に投票所を設ける取り組みも一部実施されています。ただ、そこで投票する学生は思ったより少ないようで、投票率を上げるまでにはなっていません。学生が投票しやすくなるのは間違いないのですが、周知の仕方を含めて考えていかないとなりません。

■ネット投票を望む若者たち

 若者の意見で最近よく聞くのが電子投票、ネット投票の導入を期待する声です。技術的には可能で、実際にエストニアなど実施しているところもあります。日本もやってやれないことはないでしょう。ただ、なぜ一歩踏み出せないかというと、一番大きいのは動員的なものをやってしまう恐れです。たとえば認知症の方がたくさんいる高齢者施設で施設の職員が入所者の個人情報を悪用して、スマートフォンで特定の候補や政党に入れてしまうかもしれない。それを防ぐ手だてがまだないのです。

■トランプ陣営「不正が行われている」

 投票管理の難しいところは、ある程度厳しくしないと結果に信頼性が生まれないことです。緩くして誰でも簡単に投票できるようにしてしまうと不正が起きやすくなる。まさに先の米国大統領選挙があれだけもめたのは、コロナで郵便投票を簡単にできるようにしたことでトランプ陣営が「不正が行われている」と騒いだわけですね。あまり簡単にしてしまうと民主政治の正当性が揺らぎかねない。そこはジレンマで、なかなか答えが出ません。ネット投票をやるとしたら確実に第三者が介在する仕組みがないと難しいでしょう。

■国民的議論を

 確かに若い世代からはネット投票してくれれば絶対に投票率は上がりますよという声はあります。不正を前提にしていない、いわば性善説ですが、実際は1%でも不正の可能性があれば結果に影響を与えてしまいます。ネット投票導入の是非は国民的な議論をする中で決めていかなければいけない問題です。

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