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暮らしと法律

いまだ根強い偏見 性的少数者が抱える課題とは

違憲判決を受け、札幌地裁前で「結婚の平等へ大きな一歩」と書かれた横断幕を抱える弁護士ら=2021年3月17日午前11時30分、中川明紀撮影
違憲判決を受け、札幌地裁前で「結婚の平等へ大きな一歩」と書かれた横断幕を抱える弁護士ら=2021年3月17日午前11時30分、中川明紀撮影


 近年、LGBTなど性的少数者を巡る課題に注目が集まっています。ただ、同性同士のカップルを公的に認めるパートナーシップ制度を導入する自治体が増えるなど、社会的な理解が進む一方、「知らない」ことからくる偏見はいまだに根強く残っているのが現状です。2021年3月、札幌地裁で同性同士の結婚を認めないのは「違憲」とする初判断が示されました。この訴訟の原告代理人を務めた皆川洋美弁護士に、札幌訴訟の解説とともに、性的少数者が抱える課題について聞きました。(聞き手・根岸寛子)

――LGBTなど性的少数者が抱える課題とはどういうことでしょうか?

 性的少数者についての認知度は、近年、だいぶ上がってきました。「LGBT」は性的少数者を表す言葉としてよく使われますが、
・Lはレズビアン(Lesbian:女性であると自認し、その上で女性が恋愛対象となる女性の同性愛者を表す言葉)
・Gはゲイ(Gay:男性であると自認し、恋愛対象も男性となる男性の同性愛者を表す言葉)
・Bはバイセクシャル(Bisexual:自認する性にかかわらず、恋愛対象が男性にも女性にも向いている両性愛者を表す言葉)
・Tはトランスジェンダー(Transgender:自認する性と体の性に違和感を持つ人を表す言葉)-を意味します。

 つまり、LGBTは、三つの性的指向(どの性別を好きになるか=LGB)と一つの性自認(=T)、が組み合わさってできた言葉です。性的少数者はLGBT以外にも、男女どちらにも恋愛感情がない人や、自分の性を決められない、または分からないという人など、さまざま。民間調査では、日本における性的少数者の割合は8・9%で、左利きの人の人口とほぼ同じだと言われています。

 性的少数者の課題とは、性的指向や性自認が少数であるがゆえに出てくる問題だと考えると理解しやすいと思います。性的指向や性自認は多様であって、差別されることではありません。本来なら、差別的な扱いを受けることなく、平等に、かつ、ありのまま生きられる社会でなければいけませんが、実際は、就労や仕事、結婚のほか、税金や医療など公的なサービスでさえ、さまざまな問題に直面しています。

■扶養家族になれない同性パートナー

――具体的には、どんなことですか?

 例えば、同性カップルの場合、法律で認められた結婚ではないため、不利益が生じる場面が多々あります。具体的には、パートナーを扶養家族にできない。特別養子縁組を受け入れることもできない。パートナーが死亡した場合に財産を相続できない…等々。つまり家族として一緒に生活をしていても、「なかったこと」にされてしまう。

 医療の場面においても、パートナーの治療方針について、家族として直接聞いたり、意見を言ったりすることや、緊急時にICUに入れるかという問題に、直面することがあります。実際、同性婚訴訟の東京原告の男性1人が今年1月に急逝しましたが、その際、入院した病院で、その男性のパートナーは医師から「親族ではない」と病状説明を受けるのを拒まれました。

 本来、治療方針はその人にしか決められない問題ですが、本人の意識がない時に、治療するかどうか、その人の生き死にに関して、意見を求められるのは、配偶者や親・きょうだいが通例となっています。パートナーに決めてほしいと思っていても、病院側が、法的には赤の他人である同性のパートナーにその判断をゆだねてしまっていいのか、その後、法的な親族からクレームを言われたりしないか、などから躊躇(ちゅうちょ)することが多いようです。

■結婚より効力弱いカップル認証制度

――皆川弁護士は、道内の同性カップル3組が婚姻の自由を求めて札幌地裁に提起した「同性婚訴訟」の原告代理人です。全国で広がる、同性カップルを自治体が公的に認証する「パートナーシップ制度」と結婚との違いを教えてください。

 札幌市などで導入する「パートナーシップ制度」は、国の制度ではありません。法律に基づく制度ではなく、あくまで自治体の制度です。ビザや税金、公的サービスなど、結婚と同じ権利や義務が認められているわけではありません。制度のない自治体に引っ越してしまえば、関係は「同性パートナー」でもなくなってしまう。結婚と比べ、もろい制度と言えます。

 「パートナーシップ制度を法制化して、同性カップルには、結婚と別の制度を創設したらいいではないか」との声もあります。でも、制度を別々にするということは、本当の意味での平等とは言えません。米国での黒人と白人の差別の歴史を考えると理解しやすい。米国では、黒人奴隷の解放後、形の上では黒人にも平等な権利が与えられたものの、学校や公共施設等は、白人用と黒人用に制度的に分離されました。人種は分離されていても同等の設備を提供されている以上、平等であるという考え方に基づいたものですが、これは「分離すれども平等」と呼ばれ、今では差別の典型と考えられています。ですから、札幌市の女性カップルと男性カップル、帯広市の男性カップル計3組6人は、パートナーシップ制度の法制化ではなく、婚姻を平等に認めてほしいという訴えを裁判所に起こしたのです。

■「差別的扱い」 初の違憲判決下した札幌地裁

――2021年3月17日の札幌地裁判決は、同性カップルの結婚を認めない現行制度を、憲法に反すると初の判断を示しました。

 この裁判は、2019年2月に始まった「結婚の自由をすべての人に」訴訟の一つです。全国で計14組の同性カップルが「同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の規定は違憲」だとして、国に慰謝料を請求する訴訟が全国5地裁(東京、大阪、名古屋、札幌、福岡)に係属しました。

 札幌地裁は、原告側の損害賠償請求は認めなかったものの、判決の理由の中で、同性愛者に対して、婚姻によって生じる法的効果を認めない民法及び戸籍法の規定は、憲法14条1項に違反するとの判断を行いました。一連の訴訟で最も早い判断で、同性婚についての日本初の司法判断となりました。

 この訴訟における原告が主張した争点は、次の三つです。
1 同性間の婚姻を認めない民法・戸籍法は、憲法24条(婚姻の自由)に反するか
2 婚姻について、同性愛者と異性愛者とで異なる取り扱いをする民法・戸籍法は、憲法14条1項(法の下の平等)に反するか
3 民法・戸籍法が違憲であるとした場合、国会がこれらを改正しないことが国家賠償法上違法であるか


 判決では、「性的指向は人の意思で選択、変更できない。同性愛者が婚姻によって生じる法的効果の一部すら受けられないのは、立法府の裁量の範囲を超えた差別的な扱いだ」と指摘し、争点2の法の下の平等を定める憲法14条に違反すると結論づけました。

 ただ、争点3については、「国会がただちに(違憲状態を)認識するのは容易ではなかった」として、国会が同性婚を認める立法措置を取ってこなかった立法不作為の違法性は認めず、原告の請求を棄却しました。

――憲法24条違反は認められませんでした。

 私たちは、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」と定める憲法24条は、同性婚を禁止しておらず、望む者同士の合意のみで結婚ができる自由をすべての人に権利として保障しているのに侵害されたと主張しましたが、判決では、認められませんでした。理由は、「両性」「夫婦」という文言が用いられている24条は、異性婚について定めたものであって、同性婚を認めていなくても同条違反とは言えない、というものでした。

 一方の国側は、憲法24条の「両性」は男女を表し、憲法は同性婚を「想定していない」と主張。婚姻制度の目的は、夫婦が子を産み育てながら共同生活を送る関係に法的保護を与えるものだとして、同性婚を認めないことは差別にはあたらないという反論内容でした。

■法制化に消極的な政府・国会を動かすために

――裁判長が判決文を読み上げる中、皆川弁護士が涙を流していたのが印象的でした。判決をどう受け止めていますか。

 国に賠償責任が問われないなど残念な点はありましたが、憲法14条違反をきちんと正面から論じた判決は、「画期的な判決で、実質的な勝利」と高く評価しています。性的指向は、病気ではなく、自分の意思では変えられないという点、同性愛者と異性愛者との違いは性的指向以外に変わらないという点を、裁判所の言葉できちんと言ってくれたことに、個人的に安堵(あんど)しました。

 同性婚に否定的な意見は一定数あります。そこをどのようにとらえるかという部分においても、判決では、「圧倒的多数派である異性愛者の理解がなければ、同性愛者のカップルは婚姻によって生じる利益の一部であっても受け取れないとするのは、自分の意思で同性愛を選択したのではない同性愛者の保護に、あまりにも欠ける」と指摘しました。

 多数決による民主制の過程では、少数者の人権侵害は容易に改善できないものですが、少数者の人権侵害に対して判断するのは裁判所の役割だというのが憲法の大前提です。それを、すごくわかりやすく裁判官は書いてくれたなと、判決を聞きながら心が揺さぶられました。

――原告は、この札幌地裁判決に対し、控訴しています。

 地裁判決で違憲とされても、同性婚を認める法律が自動的に出来上がるわけではありません。いつ、どのような法律を作るのかは国会に裁量があります。この判決が、同性婚の法制化への大きな原動力となることは間違いありませんが、国会を動かさなければ同性婚は進みません。原告が控訴を決めた一番の理由は、国会は動かないという姿勢が明らかだったからです。札幌地裁判決直後の記者会見で、加藤勝信官房長官は、「婚姻に関する民法の規定が憲法に反するものとは考えていない」と発言しました。政府の同性婚に対する消極的な態度からすれば、政府・国会の後押しをするためには、高裁、さらには最高裁レベルでの、より踏み込んだ判決が必要になると思ったからです。

■高まる認知度 企業がすべきことは

――性的少数者への認知度も少しずつ高まり、職場などでも対応する企業が増えてきました。法的なルールはどのようになっていますか。

 渋谷区や世田谷区が同性パートナー制度を導入した2015年は「LGBT元年」とも呼ばれ、性的少数者への社会の認知度が高まったきっかけになりました。最近では、配偶者に適用される福利厚生を同性パートナーにも適用するといった制度の整備や、採用活動で使う履歴書やエントリーシートの性別欄の廃止などに取り組む企業も少なくありません。

 国は15年以降、セクハラ防止指針やモデル就業規則を相次ぎ改正し、20年6月からはパワハラ(職場での嫌がらせやいじめ)防止法が施行されました(中小企業は22年4月から)。国の指針では、労働者の性的指向や性自認に関するハラスメント「SOGIハラ」や、性自認や性的指向を本人の許可なく他人に知らせる「アウティング」もパワハラにあたると位置づけ、企業に防止策を講じることを義務づけました。

――パワハラを防止するために、企業はどんな対策を講じなければならないのですか。

 パワハラ防止法では、事業主に対し、以下の項目の対策をするよう示しています。


 事業主は、「パワハラはダメだ」ということを明確にし、従業員にしっかりと伝えること。パワハラに関する相談窓口をつくり、適切に対応できるようにするなどが求められます。

――企業内で性的少数者への理解が進むのは良いことですが、カミングアウトには配慮が必要ですね。

 アウティングはもちろんですが、カミングアウトの強制、強要も問題となります。カミングアウトをするかしないかはあくまで自分で決めるものです。周りが「われわれは理解しているから、カミングアウトしなさい」というのはおかしいわけです。異性愛者の人が、どのようなタイプの異性を好むか、どういった性交渉をしているかなど、職場で公表することが求められないのが当たり前であることを考えれば、理解しやすいかと思います。「普通の人は…」など、無自覚な差別意識に基づく発言をしてしまうことは、あると思います。そんな時、その発言はまずいよと、気づいた周囲の人も言ってあげる環境も必要だと思います。自分で「いまの発言は差別的でよくなかったな」と自覚・反省し、改めていくことの繰り返しが必要です。ひとりひとりの一歩一歩の努力が職場や社会全体を変えていくことにつながると信じています。


 <皆川洋美(みながわ・ひろみ)弁護士>札幌市生まれ。北大法学部・同法科大学院修了後、2011年に札幌で弁護士登録。17年に「きたあかり法律事務所」を設立。結婚の自由をすべての人に訴訟北海道弁護団、過労死防止北海道センターなどに所属する。化粧品と刀剣乱舞をこよなく愛する。コロナ禍で買い物に行けず化粧品在庫が増えないのは良い傾向だと家族に言われていることに納得がいかない。刀剣乱舞は親友に勧められて始めたが、今では弁護士会の会報に書くほど沼に浸かっている。推しは薬研藤四郎。柄まで通されたい36歳。

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