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<デジタル発>「大阪弁は通用しない」北海道で抗った 落語家・桂枝光さん 移住30年 貫いた笑いの魂

 「北海道にいたからこそ今の自分があるんやと思うんです」。札幌を拠点に活躍する上方落語家の桂枝光さん(62)。笑いの本場、大阪から北海道に移住して今年30年を迎えた。常設の寄席もなく、「落語文化不毛の地」とされた北海道で小さな落語会を重ね、話芸を磨いた。ファンを開拓し、そしてファンに支えられた30年。新型コロナウイルス禍の逆風が吹いても、北海道に深く根を張る噺家(はなしか)は、ひた向きに笑いを届けている。(報道センター・門馬羊次)

表情豊かに小話を披露する桂枝光さん
表情豊かに小話を披露する桂枝光さん


 9月上旬の夜、札幌市時計台(中央区)2階のホールにお囃子(はやし)が響いた。枝光さんが2005年から月1度、札幌で開いている「さっぽろ市民寄席 平成開進亭」は、この夜で214回目。マスクを付けた来場客が手の消毒と検温をして、入場した。緊急事態宣言下の制限により、集客は定員150席の半分に抑えた。満場ではなくても大きな拍手が響き、枝光さんが高座に上がった。

■「落語不毛の地」で寄席200回超

 1席目。枝光さんは持ち味のハイトーンな声で「えー、私、北海道移住30年なんです」と切り出した。「忘れもしません。支笏湖の横を車で走っていると、エゾシカが5頭出て参りました。『うわ、エゾシカや』と驚くと、向こうは『うわ、噺家や』と言うたんです」。北海道にちなんだ小話を連発し、会場を温めた。

 軽妙な「マクラ」(導入の話し)から古典落語「酒の粕(かす)」に入った。赤ら顔の酔っ払いを座布団から転げ落ちながら全身で表現し、地元客に身近なエピソードも組み込んだ。

 「なんで(酒を)飲んでんのって昨日、(プロ野球の)日ハムが勝ったからやないか。昨日勝たんといつ勝つんや。(東京五輪)金メダリストの伊藤(大海投手)が投げたんやぞ」。前日、ファイターズが5試合ぶりに勝利した話題を古典に肉付けし、また会場を沸かせた。

 この日はゲストで東京落語界きっての売れっ子、桃月庵白酒さん(52)と枝光さんが交互に2席ずつ演じた。白酒さんが小気味よい1席目で盛り上げた後の枝光さんの2席目。マクラを入れずに古典の名作「ねずみ」を情感たっぷりに披露した。マクラを省いたのは、開進亭の席亭(運営者)としての判断。緊急事態宣言下、札幌市の要請でイベントは午後9時までに終了しなければならない。白酒さんの2席目の時間を考えていた。

小気味よい高座を披露した桃月庵白酒さん
小気味よい高座を披露した桃月庵白酒さん


 演者として席亭として。寄席の盛り上がりと進行を同時に考える枝光さん。開進亭に毎回、足を運ぶ清田区の女性(81)が魅力を教えてくれた。「枝光師匠は毎回、違うネタを披露してくれるんです。それも汗だらけになって、全力で」

 枝光さんは開進亭で毎回2席から3席演じており、披露したネタはこれまで150本ほど。楽屋には過去の高座の演目を記したネタ帳を置いていて、ゲストも目を通す。「だから手を抜くわけにはいかんのです」と枝光さん。演者の手配も自身でしており、枝光さんを慕う柳家さん喬さん、柳家権太楼さん、春風亭昇太さんらビッグネームが定期的に出演している。

 白酒さんも10年ほど前から開進亭の常連だ。「枝光師匠が会場のセッティングから全てを自分でやって、その上で高座にも上がる。それを毎月でしょ。本当にエネルギッシュな師匠。頭が下がる思いです」

楽屋に置いている開進亭のネタ帳
楽屋に置いている開進亭のネタ帳


 時計台の公演が終わると、枝光さんはマネジャーの妻・千賀子さんや地元の支援者と一緒に高座やイスの撤収作業に取りかかった。裏口の暗がりで資材を車に積み込みながら枝光さんがぽつりと言った。

 「北海道に移住した時、よく『北海道では大阪弁は通用しない』って言われたんです。『北海道では』っていう、その言葉がすごく嫌やったんですよね」

◇   ◇

 桂枝光さんは豪華ゲストを招いた「来道三十周年記念公演」を9月27日から12月まで毎月、札幌市中央区の共済ホール(北4西1)で開催する。詳しくは、開進亭ホームページへ。

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