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慰安婦記述変更 国の「圧力」が疑われる

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 慰安婦問題を巡る中学校や高校の教科書の記述について、複数の出版社が「従軍慰安婦」などの表現を訂正すると文部科学省に申請し、認められた。

 政府は4月、この表現は誤解を招く恐れがあり「慰安婦」とするのが適切とする答弁書を閣議決定した。軍の強制性を想起させるとして「従軍」を外したいようだ。

 今回の訂正の動きは、2014年改定の教科書検定基準による。これは政府の統一的な見解に基づいた記述にすると定めている。

 一連の経過を見れば、国の見解に従うよう出版社側が事実上の圧力を受けた疑いが拭えない。

 だが教育の場で最も大切なのは多面的な視点を提示し、自由に論じ合うことである。そのためにも教科書は研究上の通説を重んじ、学術的な検討を重ねて編集しなければならない。

 時の政権の見解次第で記述が変われば、教科書のみならず教育自体への信頼を揺るがしかねない。

 訂正の対象となったのは、教科書会社5社が発行する中学社会、高校地歴公民の計29点である。

 「いわゆる従軍慰安婦」との記述をなくしたり、「従軍」を削ったり、注釈を加えるなどした。

 第2次世界大戦中の朝鮮半島からの徴用についても、「強制連行」という記述を「徴用」「動員」などへ変更する。

 慰安婦問題を巡っては、1993年の河野談話が旧日本軍の関与を認め、「いわゆる従軍慰安婦」との表現を用いた。今回の答弁書も河野談話は継承を明記した。

 にもかかわらず「従軍」という表現を嫌う政府の姿勢は、軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた慰安婦問題の本質を覆い隠す恐れがある。

 文科省は訂正申請に先立ち、出版社に対して政府見解の説明会を開いている。異例の開催だった。

 萩生田光一文科相は訂正を求める圧力ではないと説明している。

 しかし、出版社側は今後の検定で不利になることを恐れ、国の意向を忖度(そんたく)して記述の訂正を申請したのが実態ではないか。

 今回の訂正申請の対象となった教科書は、いずれも既に検定に合格していたうえ、多くが発行済みだった。この事実は重い。

 戦前の日本は「国定教科書」によって全体主義的な教育を進め、国民を戦争へと動員した。

 過去の反省に立ち、戦後の教育は自由で多様な言論を重んじてきた。その積み重ねをないがしろにしてはならない。

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