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読者の信頼あってこそ 旭川医科大問題の報道と本紙記者逮捕 私の新聞評者懇談会<1>

 北海道新聞の報道について「私の新聞評」(毎月第1火曜掲載)筆者に意見を聞く本年度1回目の「私の新聞評者懇談会」が8日、札幌市中央区の道新本社で開かれた。旭川医科大の吉田晃敏学長の進退を巡る一連の報道と旭医大で取材中の道新旭川支社報道部の記者が逮捕された問題の事実関係と経過について、小林亨・常務取締役編集局長と加藤雅毅・旭川報道部長が説明し、執筆を依頼している外部の評者4人と論議した。新型コロナウイルス禍の中で開催された東京五輪・パラリンピックの報道についても評者に意見を求めた。新型コロナの感染予防のためオンラインで行った。

■小林亨編集局長の説明

 旭川医科大で取材中の本紙記者が逮捕されたことは、紙面作りの最高責任者として重く受け止め、二度と起こしてはならないと思っている。逮捕の経緯やその対応について、7月7日の朝刊に掲載した社内調査報告を補足する形で説明する。

 6月22日の学長選考会議は現場責任者であるキャップを含め4人が取材した。逮捕されたのは4月に入社したばかりの新人記者で、旭医大での取材はこの日が初めて。会議の内容について、旭医大のしかるべき立場の人が報道陣の前で説明し、質問に答える「ぶら下がり取材」があった時の録音要員だった。自分で原稿を書く予定がなく、こういう原稿を出すという、その日の予定を載せる「出稿メモ」にこの記者の名前はなかった。このため、旭医大からぶら下がり取材に応じることと、構内立ち入り禁止を知らせるファクスが旭川報道部に来ていたが、紙面作りの責任者であるデスクからその旨を伝えるメールが記者へ送られていなかった。キャップはメールの立ち入り禁止の部分を読み忘れ、「経験を積ませるため」として、会議が開かれている校舎につながる2階の渡り廊下へ行くよう新人記者に指示していた。

 新人記者は会議が開かれている校舎4階まで立ち入り、ドアの前でスマートフォンを使い、録音した。大学職員に見つかり、身分を聞かれてもあいまいな返答を繰り返し、後ずさりするような行動をしたため取り押さえられた。常人逮捕の形になり、警察に引き渡された。校舎4階へ行く指示を誰が出したのかは、この日に取材に行った複数の記者の説明が食い違い、確定できていない。

 ただ、新人記者が4階まで行ったことを把握した時点で、キャップは「会議が終わりそうな雰囲気になったら、さっと離れてください」と指示していた。こうした指示の内容についても、慎重に捜査しているとみられる。

 新人記者が名乗らなかったのは、キャップや先輩記者から「誰かに会ったら、迷ったなどと言えばいい」と言われたためだという。ただ、これは大学の先生や学生から尋ねられるというレベルの想定で、学長選考会議の委員や職員ら会議に関わる人に見つかる状況を想定したものではなかった。

 逮捕される4日前の6月18日、道新を含む報道各社と旭医大職員との間で、複数の記者が校舎4階まで入ったことを巡ってトラブルになっていた。その場にいた道新の記者は、キャップに「大学の事務局長が激高したので、あのフロアにはもう近寄れないと思う」と伝えていたという。しかし、キャップは「気を付ける必要があるレベルの話ではない」と考え、認識には差があった。22日に一緒に取材に行った先輩記者もトラブルの話は知らず、「聞いていたら新人記者にそこまで行かなくていいと言っていたかもしれない」と話している。

 新人記者は本人の判断で会議の内容を録音していた。ただ、校舎に立ち入る前の待機中に、別の先輩記者から過去の取材中に録音した事例を聞かされていた。道新は記者の倫理上、無断録音は原則しないと決めている。新人研修では、そう指導している。しかし、記者は研修の際に業務で録音する方法を指導されたことは記憶にないという。

 取材方法などに関するデスクの記者らに対する指導は不十分で、部長もデスクやキャップらとのコミュニケーションを積極的には取っていなかった。

 6月23日の朝刊で、新人記者の逮捕を実名で報じた。道新は、取材や記事執筆の基準・ノウハウを記した編集手帳を記者全員に配布している。実名・匿名の判断は手帳にあり、事件の報道は原則実名としている。実名報道は国民の知る権利に応え、記事の正確性を保ち、事実関係の検証も可能にする。事件の当事者への社会的影響や人権、報道の価値を検討し、実名か匿名かを判断する。

 記者逮捕の一報を受け、本社編集局幹部は建造物侵入罪が成り立つ状況だったのか、不当逮捕ではなかったのか、その情報収集に全力を挙げた。その結果、記者が校舎4階まで深く入り、会議の内容を無断録音(盗聴)したことが分かった。刑法に盗聴罪の規定はないが、建物の中に深く入って盗聴することは、建造物侵入罪が成立するなかでも悪質との法的な解説もあり、外形的事実に争いがないと判断した。新聞記者は業務で他者を批判する立場にあり、私たちが社会的に支持を得るには厳しい職業倫理が求められる。どんな取材方法でも許されるということにはならない。このため、実名で報道する判断をした。

 7月7日の社内調査報告では、本来は匿名とするものを実名にした異例の判断ではないため、その理由については説明しなかった。一般論として、不当逮捕と判断できるケースならば、匿名で報道した上でその根拠を記事で示す方法があった。その後、社内外から疑問の声が寄せられたので、この場でその判断について説明した。

 このような事実関係を踏まえた上で、できることから研修などで改善していきたい。

■加藤雅毅旭川報道部長の説明

 北海道新聞は昨年12月以降、旭川医科大の学長の不適切発言やパワーハラスメント疑惑から文部科学相への学長解任の申し出にまで発展した問題を精力的に取材してきた。旭医大病院は、病床数が約600床ある基幹病院で道北では最大となる。道北は離島や過疎地域があり、旭医大はITを駆使した遠隔医療に力を入れており、この中心となってきたのが今回の問題となった学長だった。

 旭医大が新型コロナウイルスの感染患者の受け入れを拒否したのを発端に一連の報道が始まった。紙面では、学長の他病院への中傷と思われる発言やパワハラ、不正支出問題、病院長との確執、これらに対する学生や市民の反応などもまとめ、学内の立て直しをどう進めるのかも報道してきた。

 学長解任の適否を審査する学長選考会議を取材するために6月22日、旭医大の校舎に入った旭川支社報道部の記者が建造物侵入の疑いで逮捕された。道新は、逮捕された記者を電子版で実名報道し、翌23日朝刊でも実名で報じた。7月7日の朝刊には、当日取材した他の記者や報道部長らに聞き取りした社内調査報告を掲載した。

 旭医大は現在、学長任期に上限を設けることを打ち出すなど、新体制の移行へ動きだしている。ていねいな取材を積み重ね、報道を続けていく。

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