PR
PR

<林瑞絵のカンヌ国際映画祭報告>上 通常開催で進化を示す

 昨年は新型コロナウイルス禍で通常開催を見送ったカンヌ国際映画祭。第74回の今年は、例年5月の日程を7月に移して開催へ。変異株の脅威に屈さず厳しい衛生対策で臨み、6日から17日まで、12日間の映画の祭典を乗り切った。

 柱のコンペティション部門に選ばれたのは24本、うちフランス映画は7本と最多を占めた。ロックダウン中も仏政府が映画制作を奨励したことで新作が豊富にあるのだ。ウェス・アンダーソン、ポール・バーホーベン、ナンニ・モレッティら昨年出品予定だった人気監督の作品も持ち越され、映画ファン垂涎(すいぜん)ものの豪華なラインアップとなった。

 審査委員長はスパイク・リー。カンヌ映画祭史上初の黒人審査員長のもとに女性5人、男性3人の審査員が集った。女性が多いのはジェンダー平等への取り組みの表れである。

 最高賞パルムドールはフランス人ジュリア・デュクルノーの「チタン」に授与された。女性監督の同賞受賞は「ピアノ・レッスン」のジェーン・カンピオン以来28年ぶり。ただしカンピオンは「さらば、わが愛/覇王別姫」のチェン・カイコーと同時受賞であり、単独での女性の最高賞受賞は史上初の快挙だ。昨年のベネチア国際映画祭でも「ノマドランド」のクロエ・ジャオが金獅子賞を受賞しており、世界三大映画祭で女性監督が立て続けに偉大な足跡を残す時代に入った。

 「チタン」は、幼少期の事故で頭に金属を埋め込まれた連続殺人犯が主役のスリラー。リスクを恐れず野心的な表現に挑む監督の姿勢が、審査員の心を捉えた。スパイク・リーは「(車の)キャデラックに妊娠させられる女性を初めて見た。天才と狂気が共存する」と称賛した。

 レオス・カラックスのミュージカル映画「アネット」は監督賞を獲得。色彩と音楽に溢(あふ)れたドラマチックな映像オペラで、往年のファンの期待にしっかり応えた。カラックスは記者会見を途中退出したり、授賞式を「歯の問題」で欠席したりと、終始マイペースを貫いた。

 批評家から熱狂的な支持を受け「パルムドール候補」の呼び声も高かった浜口竜介の「ドライブ・マイ・カー」は脚本賞を受賞。現地では村上春樹の原作も話題になった。浜口は脚本家として参加した「スパイの妻」(黒沢清監督)が昨年のベネチアで銀獅子賞を、3月のベルリンでは監督作「偶然と想像」が銀熊賞を獲得しており、世界三大映画祭を制したとも言える。

 時代とともに進化を続ける世界最高峰の映画祭の場で、日本映画もまた、確実に新しい世代が映画史を更新する時代に入っていることを実感させられた。

 フランスのカンヌで開かれた第74回カンヌ国際映画祭。札幌出身、パリ在住の映画ジャーナリスト林瑞絵さんが、コロナ禍の中の映画祭の模様を報告する。

<略歴> はやし・みずえ 札幌市生まれ。大学卒業後、映画会社勤務を経て渡仏。映画や子育て、フランス文化全般について執筆。著書「フランス映画どこへ行く」「パリの子育て・親育て」。

【関連記事】
(下)「完走」支えた感染対策

PR
ページの先頭へ戻る