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<北海道 移住者たちの選択 十勝東北部編>外科医から畑作農家へ 異色の転身

 北海道へ移り住んだ人たちの選択を探るシリーズ<北海道 移住者たちの選択>。十勝東北部編の4回目は、鳥取県米子市から十勝管内本別町へ家族4人で移住した医師の荒井陽介さん(42)。「狭き門」と言われる十勝の畑作農家として昨年デビューし、注目を集めました。外科医を志して着々と歩んできた、絵に描いたような医師人生。にもかかわらず、ゆかりのない北海道で農家への転身を決めた理由は何だったのでしょうか。「自分や家族にとって、悔いのない人生を北海道で送りたい」。節目節目に強いリーダーシップを発揮する夫と、その選択を優しくそっと後押しする妻の美代子さん(40)―。物静かな夫妻と子どもたちの「第2ステージ」が始まりました。(文/本別支局 岡田圭史、写真/帯広報道部 北波智史)

鳥取県から新規就農した荒井陽介さん(左)、美代子さん夫妻=2021年4月21日、本別町
鳥取県から新規就農した荒井陽介さん(左)、美代子さん夫妻=2021年4月21日、本別町

■40代畑作農家デビュー

 「日本一の豆のまち」で知られる十勝管内本別町。市街地から西へ10キロほど離れた西仙美里(にしせんびり)地区に、新規就農した荒井陽介さん(42)の畑が広がる。2018年3月末、鳥取県米子市から妻の美代子さん(40)ら家族4人で移住。畑作農家として2年間の研修を積み、昨年から独り立ちした。

 この1年、約22ヘクタールの畑では試行錯誤を重ねる姿があった。特産の小豆を3ヘクタールほど作付け、昨年9月に初めて収穫。早朝から豆刈り機で茎を倒して乾燥させた後、脱穀機で拾い上げる作業を黙々と繰り返す。農機の操作に慣れてきたとはいえ、少しぎこちない。「効率悪くて、もどかしいですね」と苦笑い。それでも「まずまずの収穫にホッとしています」と笑顔を見せた。

 その約2カ月前の7月、最も作付け面積の広い秋まき小麦7ヘクタールを収穫。平年並みで、まずまずの畑作農家デビューを飾るも、続くインゲンマメの「大正金時」で厳しい現実に直面する。

 多くの農家が、大雨などの影響で変色して品質が下がる「色流れ」の被害に遭った。幸運にも通常の等級で本別町農協に引き取ってもらえたが、順調に成長していた農作物が、一夜にして台無しになりかねない自然災害の怖さを痛感。「作物の出来が、こんなに一変するなんて」。そんな中、3作物目の小豆が順調に収穫を終え、自信を深めた。

 だが、つかの間の喜びに水を差したのが、新型コロナウイルスの感染拡大だ。人口7千人に満たない本別町の農村にも確実に影響を及ぼす。道産の7割を占める十勝産小豆は和菓子などの高級食材だが、訪日外国人ら観光客の減少で需要が落ち込む。10月は60キロ当たりの価格が前年同月より7500円も値下がりし、4年ぶりに2万円を切った。

 一昨年までは供給が追いつかず、価格が高騰。作付面積を増やす農家も多かっただけに、急激な価格の乱高下に生産現場は悲鳴を上げ、厳しい洗礼を浴びた。

 それでも淡々と表情を崩さないのが「荒井流」。「農業をやっていれば、これからいろんなことがあると思います。市場の変動はどうしようもないですし、どうしようもないことで悩んでも仕方ない。なので、今は品質の高い作物を安定して作ることを考えるだけ」

 冷静さを失わない姿勢は、本別に移り住む前、外科医として過酷な状況下、臨機応変の対応を迫られる医療現場で培われた。農閑期に医師との「二刀流」を―との期待も地域で高まるが、「畑作農家として一人前になるのが、今の目標」と、地に足着ける。

土壌診断を基に、トラクターで肥料をまく荒井陽介さん=2021年4月21日、本別町
土壌診断を基に、トラクターで肥料をまく荒井陽介さん=2021年4月21日、本別町

■シリーズ<北海道 移住者たちの選択>
 北海道に移り住んだ人たちが、移住前に何を思い、葛藤し、どんな希望を持って「北海道」を選んだのか、その一端を紙面で紹介しつつ、決断の舞台裏を電子版で詳しくお伝えします。
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