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7年前の性的暴行 声を上げる 迫る時効「陰に隠れたくない」

 7年前の性的暴行事件が、札幌市に住む女性の日常を奪った。被害に遭った道央圏のマチから子どもを連れて転居したが、仕事を抱える夫は残り、離ればなれのまま。犯人の男は捕まっておらず、大きな心の傷を受けながら、立ち直れない自らを逆に責めることもある。「性暴力が相手をどれほど長く苦しめるか、犯人は知っているのか」。来月6日に公訴時効が迫る中、再発防止への願いも込めて女性が胸中を明かした。

 2014年7月6日未明。道央圏にあるアパート1階の居間のソファで寝ていた時、人の気配を感じて目を開けると、男が女性を見下ろしていた。手で口をふさがれ「大声を出すな」と脅された。死と同時に、隣の寝室で寝ている夫と幼い子どものことが頭に浮かんだ。「私が抵抗したら、2人も殺される」。男に口での行為を強いられた。

■子ども連れ転居

 犯行後の男の隙を突いて夫に助けを求めたが、男は窓から逃げた。逆光と恐怖で顔は覚えていない。現場検証に来た警察官に窓を閉めるよう頼むと、「そんなことを言っている場合か」と怒鳴られた。周囲に知られたのでは―。その日のうちに、子どもと実家のある札幌へ移った。以来、一度も戻っていない。

 転居後は、育児のため過去を振り返ることもなくなっていた。「被害を乗り越えた」。しかし、事件から2年目の夏、異変が起きた。気持ちが落ち込み、体をうまく動かせなくなり、はうようにして子どもの食事作りやおむつ替えをした。夜、風で枝が鳴る音を侵入者と勘違いし、通報したことも。心療内科に通ったが人間関係を築くのが苦手になり、職場を転々とした。

■消えぬ自責の念

 「自分に起きたことなのに自分で解決できない。やり場のない怒りを常に抱えていて、感情をコントロールできなくなった。事件を逃げ道にしたくなくて、トラウマからはい上がれないのは自分の弱さのせいだと、自分を責めた」

 警察からは5年目の夏に捜査の打ち切りを告げられた。犯人に負けた気がして「心が折れた」。口腔(こうくう)性交は17年の刑法改正で強制性交罪(時効10年)に含められた。しかし、女性が被害を受けた当時は強制わいせつ罪に当たり、時効は7年。さかのぼって適用されないことも、被害者に冷たいと感じた。

■現場周辺で被害

 今年1月、事態は急転した。刑事から突然、電話で「(現場の)近くで性犯罪があった。同一犯の可能性がある」と告げられた。女性の他にも被害が「十数件ある」と知らされ、あぜんとした。犯人を逮捕しなければ被害は止まらない。女性は時効を迎える前に、「被害者だからと陰に隠れたくない」との気持ちを強め、声を上げようと決めた。

 夫との別居生活は今も続く。被害の内容を全て話した後も、夫は変わらず女性に寄り添い、7年間毎週末、数時間をかけて女性と子どもの元へ通ってくれている。「事件がなければ、家族3人でずっと暮らせた。2人目が生まれて、子どもに弟や妹ができていたかもしれない。私が巻き込まれた事件に、夫と子どもの人生も巻き込んでしまったことが一番つらい」(松下文音)


 <ことば>性犯罪の被害 警察庁によると、全国では2020年に強制性交事件が1332件、強制わいせつ事件は4154件発生した。また同庁が18年に犯罪被害者らに行った犯罪類型別調査によると、被害で「精神的影響を受けた」とした人は性的被害者のうち41.4%に上った。警察への通報率は20.1%にとどまり、相談しなかった理由は「他人に知られたくないから」が最多を占めた。

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