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暮らしと法律

高齢者施設からの望まぬ退去 対抗手段は?

 終(つい)の住まいだと思っていたグループホームや有料老人ホームなどの施設から、介護度の重度化や不穏な症状で面倒を見切れないなどの理由で退去を求められる例が珍しくありません。別な施設を探す当事者能力を本人に求めるのも無理な話。そうなると家族が泣き落としでしばらく置いてもらいながら、八方手を尽くして探すという理不尽な目に遭うのが普通です。法律的な対抗手段はないのでしょうか? 高齢者問題に詳しい札幌弁護士会の高橋智美弁護士に聞きました。(聞き手 石原宏治)

イラストはイメージです  Photo by iStock
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■契約前に退去条件の確認を

――高齢者施設から望まぬ退去を求められた時の基本的な考え方を教えてください。

 入居契約には、事業者からの解除条項で介護度の重度化や医療依存度が高くなった場合、入居者に問題行動があった場合などの規定が置かれていることも多いです。それを根拠に、退去を求められることがあるので、契約締結前に、契約書や重要事項説明書で、退去条件を確認しておくことが重要です。

 ただし、厚生労働省の「有料老人ホームガイドライン」では、契約解除の条件は「信頼関係を著しく害する場合に限るなど入居者の権利を不当に狭めるものとなっていないこと」が求められています。解除条項があるとしても、介護度の重度化や問題行動が「契約解除を正当化するほどのやむを得ない事情」かどうかがポイントになるでしょう。

 グループホームや有料老人ホームに入居する方に、認知症の症状やそれに基づく行動があることは、ある程度、織り込み済みです。グループホームについても、解除が認められるかは、問題行動等の程度によると言えるでしょう。仮に事業者から、明渡請求訴訟を起こされても、裁判所が強制退去を認めるとは限りません。

 退去勧告に納得がいかない場合は、高齢者問題に詳しい弁護士や、市町村の高齢者相談窓口、国民健康保険団体連合会の介護保険についての苦情窓口、全国有料老人ホーム協会の苦情窓口などに相談することが考えられます。社会福祉協議会の福祉サービス運営適正化委員会に苦情を申し立てる方法もあります。札幌弁護士会の相談窓口は高齢者・障害者支援センター「ホッと」です。予約電話は☎011・242・4165へ。

■契約解除は問題行動の程度で決まる

――グループホームは在宅介護扱いで共同生活を送る場という名目もあるためか、入居時の重要事項説明で、介護度の重度化や徘徊(はいかい)で共同生活が難しいという理由にされることもあるようですが、認知症の人を受け入れる前提の施設でそのような方便がまかり通るものなのでしょうか。

 認知症高齢者向けグループホーム(認知症対応型共同生活介護)は、老人福祉法、介護保険法上の制度です。介護が必要な認知症について、共同生活を営む住居で介護その他の日常生活上の世話及び機能訓練を行うという介護サービスです。施設ではなく、地域にある在宅サービスの位置づけです。少人数制で、5~9人程度の人数構成でスタッフからサポートを受けながら、共同生活を営みます。

 グループホームについても、介護度の重度化や医療依存度が高くなった場合、入居者に問題行動があった場合など、契約で退去条件が定められていることがあります。グループホームは共同生活を目的としていることや、スタッフの数が少ないこと、看護師配置の義務もないことから、症状によっては対応が困難で退去がやむを得ないケースもあると思われます。しかし、グループホームの入居者に認知症の症状があるのは当然の前提ですので、契約解除が認められるかは、問題行動等の程度によると言えるでしょう。

イラストはイメージです  Photo by iStock
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■入居一時金の返還 どう求める

――有料老人ホームでは施設側からの要請で、本人や家族の希望ではない退去なのに高額の入居一時金がわずかしか戻ってこないこともあるようですが、自己理由でもないのに、敷金的な位置づけの一時金が全額戻らないのは法的な対抗ができないのでしょうか。

 敷金と、入居一時金は、性質は異なります。2011年の「高齢者住まい法」改正で、入居一時金は、将来の家賃とサービス対価(介護や食事など)の前払いとし、権利金等は認めないことになりました。この改正以前は、退去時の入居一時金の精算方法が不明確なケースがありました。しかし法改正により、有料老人ホームが入居一時金を受け取る場合は、前払い金の算定方法を書面で明示しなければならず、平均余命までに退去する場合、入居一時金に残額がある場合は返還しなければならないことになりました。

 入居一時金がいつまでの分のどのような費用の前払いなのかを、入居前にしっかり確認しておくことが重要です。入居した期間に応じて、ルールに従って精算されることは、法律上許されています。

――病院も急性期から回復期、慢性期と転院はケアワーカーが担当しますが、私が父親を介護していたときは、「あなたの父親のせいで迷惑を被っている。すぐに来て家族が面倒を見て」「自宅に引き取って」などと何度も看護師から電話が来て、結局、自分で探し出した老人ホームに移すことになりました。そのときは目の前の現実に対応するだけでしたが、後で考えると憤りを感じました。

 このようなケースは実際には多くあります。退院勧告については、医師法第19条1項の、「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」、いわゆる応召義務との関係が問題になります。

 厚労省の見解では、①「医学的に入院の継続が必要ない場合には、通院治療等で対応すれば足りるため、退院させることは正当化される」②「診療・療養等において生じた又は生じている迷惑行為の態様に照らし、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合には、新たな治療を行わないことが正当化される」とされています。①入院継続の必要性の判断については、医師の裁量が大きいのが現状です。②の迷惑行為による信頼関係喪失については、故意の迷惑行為ではなく、認知症の症状の場合は、慎重に考えるべきでしょう。

 本来は、医学的に入院継続の必要がある間は入院させ、転院や退院先を探す際は病院の医療ソーシャルワーカーがサポートすべきです。

 患者が病院からの退院要請に応じずに入院を続け、最終的に、病院から訴訟を起こされたという事例はあります。その場合は、裁判所が正当事由の有無を判断します。


高橋智美弁護士
高橋智美弁護士


 <高橋智美(たかはし・ともみ)弁護士>1981年生まれ。札幌市出身。札幌南高を経て京都大学法学部卒業。2006年に弁護士登録。諏訪・高橋法律事務所所属で、父、夫、弟も弁護士。札幌弁護士会では高齢者・障害者支援委員会の副委員長を務める。趣味はストリートピアノを弾くことで、男の子を2人育てる母親でもある。

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