PR
PR
暮らしと法律

家族が賠償責任? 高齢の親の免許返納どう説得する

 東京・池袋で2019年に乗用車が暴走して母子が死亡した事故など、高齢ドライバーによる交通事故が目立っています。高齢の親に運転免許の返納を納得してもらうのは難しいとの声も多いようですが、事故が起きた時、家族が法的責任を負わなければならない可能性もあります。免許返納のやり方やメリット、受け入れやすい説得の仕方について、札幌弁護士会の石塚慶如(やすゆき)弁護士に聞きました。(聞き手 玉木健)

イラストはイメージです  Photo by iStock
イラストはイメージです  Photo by iStock


――運転免許証の返納の方法を教えてください。

 運転免許の返納は、有効期限内に自らの意思で免許の取り消しを申請する制度です。申請者の住所地を管轄する運転免許試験場または警察署で申請します。

 本人による返納が原則ですが、病気などにより介助なしで行動することができない場合、代理人申請が可能です。道警のウェブサイトによると、代理人になれるのは申請者の3親等以内の親族、成年後見人、介護施設の管理者(申請者が入居している場合に限る)とされています。

■交付の証明書提示 協賛店などで特典

――返納によるメリットはありますか。

 道内では、65歳以上で運転免許証を自主返納し、「運転経歴証明書」を交付された人が、協賛店などで証明書を提示すれば、さまざまなサービスを受けられるようです。

 具体的には、自家用車を売却した際に商品券を贈られたり、タクシー料金が割引になったりする車関連のほか、飲食店でのサービスなどもあります。

――返納を渋る親などに、どうやって説得したらよいでしょうか。

 家族が親にそろそろ免許証を返納してほしいと思っても、本人は「まだ大丈夫」と拒むケースは少なくないでしょう。地方にいて車を利用しないと移動が不便だったり、身分を証明できるものがなくなったりと、返納に消極的になる気持ちは理解できます。

 こうした場合、強制的に返納させるのではなく、本人が運転免許証を返納すべき状態なのか、なぜ免許証を必要としているのかについて、家族で話し合うことが重要です。

 例えば、身分証明書として利用したい人には、2012年4月1日以降に交付された運転経歴証明書であれば公的な本人確認書類として使えることを伝えるとよいと思います。これで安心できる高齢者もいるはずです。

 また、安全運転能力が低下しているのに、本人が気付けないケースもあります。こうした時、家族が本人に危険な運転をしていることをとがめるのは問題の解決にならず、逆に家族の溝を生むことも多いのです。この場合、客観的に本人の運転能力を評価してもらう方法があります。独立行政法人自動車事故対策機構で運転者適性診断を実施しています。主に職業運転手を対象にしていますが、これ以外のドライバー向けの一般診断もあります。

イラストはイメージです  Photo by iStock
イラストはイメージです  Photo by iStock


■JR振替輸送費請求の判決が参考

――高齢の親などが事故を起こした時、家族が法的責任を負う可能性はありますか。

 他人に損害を与えた本人に責任を認識できる能力がない場合、本人は民法上の責任を問われないとされる一方で、法律上の監督義務のある者が責任を負う場合があるとされています。

 事故を起こした高齢者の家族が監督義務を負うかについては、認知症の高齢者が列車にはねられて死亡し、家族がJR東海から振替輸送費などを請求された訴訟の最高裁判決が参考になります。

 この裁判では、一審が妻と長男に、二審は妻だけに監督義務を認め賠償を命じましたが、最高裁は二審判決を一部破棄しJR側の請求を棄却しました。ただ、この判決は「監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情」がある場合に、法律上の監督義務者に準ずる者(準監督義務者)として賠償責任があることを認めています。

 この最高裁判決では、認知症の夫と長年同居し介護していた要介護1の妻や、同居していないものの、事故直前の時期に月3回本人宅に来ていた長男について、準監督義務者にはあたらないとしています。

 ただ、家族の介護が手厚いほど準監督義務者と判断されやすい構図になっている可能性があります。熱心に介護した家族が結果的に責任を問われやすくなるというジレンマも抱えていますが、その範囲はかなり限定されると解釈できます。

 事故以外でも、認知症高齢者の家族の責任を補う取り組みが各方面で進んでいます。保険会社が家族の責任をカバーする損害保険商品を販売していますし、SOSネットワークと呼ばれる見守り制度に登録された高齢者が他人の物を壊した場合などに対応するため、地方自治体の予算による賠償責任保険で補う仕組みもあります。

 日本の高齢化率は今後も高くなると予測されています。認知症高齢者とともに生活する社会を前提に、制度設計するべきだと思います。

■過疎地に公的支援の拡充必要

――交通の便が悪く、車を運転せざるを得ない過疎地の問題がクローズアップされています。

 買い物や通院などで公共交通を利用できるものの、車を利用した方が便利な地域は数多くあると思います。また、歩行が困難な人や過疎地域で公共交通の利用が困難な場合、悩みはもっと深刻です。バスのような公共交通機関を充実させることは収益に見合わず、効率も良くないのでしょう。

 そこで、許可や登録のいらないボランティア輸送の仕組みが考えられ、これに対応する損害保険も発売されています。また過疎地域で既存のバス・タクシー事業者による輸送サービスが提供されない場合、登録を受けた市町村やNPO法人などが自家用車で有償運送する自家用有償旅客運送の仕組みもできています。

 ただ、ボランティアの支援をベースに施策を講じることは、将来的に地域住民の負担を増大させることになりますし、仕組みが整わない地域が取り残される懸念もあり、公的支援の拡充が求められます。

石塚慶如弁護士
石塚慶如弁護士

 <石塚慶如(いしづか・やすゆき)弁護士>。札幌市生まれ。立命館慶祥高校、立命館大法学部(大学院飛び級のため中退)、同大大学院法務研究科修了。2009年に弁護士登録し、札幌総合法律事務所に入所。18年、札幌市中央区に「ゆいと法律事務所」を開設した。高齢者や障害者の権利を守るための活動や児童・生徒向けの法教育活動を積極的に行い、「今後もライフワークにしていきたい」と意気込む。趣味は料理。36歳。

PR
ページの先頭へ戻る