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<デジタル発>80歳現役続行へGO SL冬の湿原号 (下)整備の日々、そして改修へ

 「経営難の当社にとっては『清水の舞台』から飛び降りる思いだが、SLは1度途絶えてしまうと、運行技術の継承もできなくなる」。JR北海道の島田修社長は2月10日の記者会見で、冬の湿原号をけん引するSLの8年ぶりの大規模な検査(全般検査)と、客車5両を全面改修することを明言した。総額4億円のうち、全般検査は1億円。この蒸気機関車は1975年、働き盛りの「35歳」で一度は引退したが、1999年、「59歳」で現役に復帰した。「80歳」の現在も走る今や道内路線で唯一のSLだ。大きなボイラーを支える台枠、台車など主要な部品に摩耗やひびが発生し、日々の運行後も整備や点検作業の一つ一つに神経を使う。今季、冬の湿原号の安全運行を支えた整備の現場を訪ねた。(文/厚岸支局 山村晋、写真/釧路報道部 加藤哲朗)

運行を終えて釧路運輸車両所に戻り、茶色い客車5両と切り離されるC11-171=午後3時58分(以下、いずれも2月22日撮影)
運行を終えて釧路運輸車両所に戻り、茶色い客車5両と切り離されるC11-171=午後3時58分(以下、いずれも2月22日撮影)

■すすだらけの顔

 午後3時42分、SL冬の湿原号はバック運転のまま釧路駅のホームへ滑り込んだ。焦げ茶色の客車5両から乗客が次々と降りた後、ドアが閉まる。煙突からは黒煙と蒸気がもうもうと上がり、高らかな汽笛を響かせて車輪が動き始めた。向かうは釧路運輸車両所。冬の日暮れは早い。C11-171は家路を急ぐ勤め人のように、シュッ、シュッ、シュッと小気味よいドラフト音を従えて走り去った。

 釧路運輸車両所のエリアに入り、徐々に速度を落とす。湿原号は決められた場所に止まり、客車とつなぐ連結器とブレーキ管が外された。単機(機関車だけ)となったSLはゆっくりと客車から離れ、いつもの居場所である仕業庫(車庫)に向かった。ひと仕事終えたSLは後ろ向きのまま、車庫の中に消えた。

身軽な単機となり、釧路運輸車両所内にある仕業庫(車庫)に入っていくC11-171=午後4時
身軽な単機となり、釧路運輸車両所内にある仕業庫(車庫)に入っていくC11-171=午後4時


 車庫内、SLが定位置に止まると、菜っ葉服の機関士と機関助士は急に忙しくなる。「火床整理」を担う機関助士はマスクを付け、長い棒状の道具「ポーカー」をたき口から火室に差し入れた。ガチャガチャと動かし、帰路で投炭してたまった灰を火室の下にある灰箱から、ピットの間に落としていく。飛散を防ぐため、灰箱には大量の水が流れる。その間、機関士は「帰区点検」の仕事がある。運転室をはじめ、ボルトの締まり具合や足回りに異常がないか順番に見ていく。

 灰落としの後、機関助士は再び石炭を火室に投げ入れ始めた。翌朝までの間、火種を保つ「保火(ほか)番」に引き継ぐためだ。

 機関助士の佐藤学さん(45)は菜っ葉服も顔も黒ずみ、鼻を3、4回かいだ後、こう話した。

 「灰をかき出した煙を頭からかぶってひどい。カマかえる作業はすすだらけになり、一番大変です」

 「カマかえる」とは、いったん灰を捨てて、新たに石炭をくべることだ。

運転室を点検する機関士(左)と、たき口からポーカーを火室に差し入れて激しく動かす機関助士=午後4時3分
運転室を点検する機関士(左)と、たき口からポーカーを火室に差し入れて激しく動かす機関助士=午後4時3分

■「激熱」に注意せよ

 武骨な構造の運転室だが、実はデジタル機器がある。1999年の運行開始の際、当時の他の一般車両と同じ装備「防護無線・乗務員無線の装置」とその運用に必要な電源装置を新たに搭載している。そして当時の「ATS(オートマチック・トレイン・ストップ)装置」も積んでいる。ATSは列車の運転士の確認漏れや意識消失などにより信号機の停止信号を行き過ぎた場合、列車を自動的に停止させる装置だ。車体構造の古いSLといえども、この装置がないと線路や駅構内を走ることは許されない。

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