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<書評>ブラック・ライヴズ・マター回想録

パトリース・カーン=カラーズ、アーシャ・バンデリ著

「黒人の命も大事」創設女性の半生
評 梁英聖(NGO「反レイシズム情報センター」代表)

 本書は前オバマ政権の2013年にフェイスブックの投稿から生まれたブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命も大事だ)運動の共同創設者の黒人女性3人の1人であるパトリース・カーン=カラーズの半生をつづった回想録である。現代史の記録と社会運動の優れた分析が、1983年生まれのセクシュアルマイノリティーの黒人女性の自伝と見事に一体化した本書は、歴史に残る名著だ。

 読者が圧倒されるのは何よりも、奴隷制以来の米国の資本主義と不可分のレイシズム(人種差別)が黒人に強いる失業や貧困や病気や薬物そして死が、いかに人間をむしばむかだ。10代で著者を妊娠し家を追い出され1日16時間働きづめの母や、何度も逮捕収監される兄や父、そしてその度家族知人皆の人生がどのように狂わされるかを著者は記録する。米国は世界人口の5%だが囚人人口では25%を占め、そこに非白人が不釣り合いに多いという統計は、このような破壊の無数の積み重ねに他ならない。

 また、本書は日本では軽視されがちな、社会運動や活動家を組織するオルガナイザーの重要性を真正面から説く。著者は「社会正義運動中心のカリキュラム」をもつクリーブランド高校時代に活動をはじめて開始する。友人とセクシュアルマイノリティーであることをカミングアウト(公表)して家出した著者らを、活動家の美術史教員がなんと2年間も自宅を提供し生活と活動を支えた。優れた活動家との出会いを通じて、著者はマルクスやベル・フックスなどの理論を学び、社会運動を組織するための具体的な訓練を受ける。黒人解放や反差別闘争の蓄積でもある、手厚い活動家養成とサポートは、他のBLM共同創設者アリシア・ガーザ著「世界を動かす変革の力」(明石書店)も強調する通り、決定的に重要だ。日本の反差別運動を再生させる上でまず見習うべき点だ。

 他に、恋愛から社会連帯まで妨げる異性愛規範への批判や、血縁によらず意識的に助け合う家族の実践など重要な内容が満載。在日やアイヌ民族差別ほか日本のレイシズムと闘う上で学ぶべき必読書である。(ワゴナー理恵子訳/青土社 2860円)

<略歴>
カーンは米国のアーティスト、社会活動家。ブラック・ライヴズ・マター運動の共同創設者のひとり。バンデリは米国のジャーナリスト、社会活動家

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