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<書評>アクティベイター

冲方丁著

国際情勢を交えたサスペンス
評 池上冬樹(文芸評論家)

 冲方丁といえはSFハードボイルドの「マルドゥック」シリーズ、天文暦学者の渋川春海の生涯を描いた時代小説「天地明察」、集団自殺をテーマにしたミステリー「十二人の死にたい子どもたち」が有名だろう。新たなジャンルに挑戦して傑作を送り出しているが、本書はデビュー25周年を飾る作品で、今回は国際サスペンスである。冒頭から読者をつかんで離さない。

 国内外の特殊部隊畑を渡り歩いた真丈太一は、総合警備会社の警備員。通報を受けて裕福な中国人クライアントの自宅に駆けつけると、血まみれで倒れており、「三日月計画に、介入」とつぶやいて意識を失う。

 同じころ、羽田空港に突如、中国のステルス爆撃機が飛来して、女性パイロットは亡命を希望する。警察庁の鶴来(つるぎ)が事情聴取に当たると、「積んでいるのは核兵器だ」と知らされる。彼女は護送中に何者かに拉致されてしまう。核起爆の鍵を握る彼女を巡って中国、ロシア、米国、韓国の工作員が入り乱れ、真丈もまた巻き込まれる。三日月計画とは何か。謀略の行方は?

 作者はあるインタビューで、「現代日本を舞台に『007』や『ミッション:インポッシブル』のようなストーリーを展開してみたい」と狙いを語っているように、シリアスな活劇のなかにも余裕があり、重い話にもかかわらず軽快に物語が進む。実は真丈の義弟が鶴来という設定であり、作りすぎている嫌いもあるが、それによって物語の背景が深まり、ぐんぐんと前に進み、対立や葛藤が見えてくる仕掛けでもある。

 迫力に富む活劇の場面では解説がやや気になるものの、一コマ一コマに躍動しながら同時に披歴される知識で興奮するようなマンガ的な体験を覚える読者もいるだろう。先のインタビューで「単なるアクションではなく、政治的にも“攻めた”作品にした」というように、各国の政治的思惑を厳しく批判しながら対立の図式を超えたところに真相(これには驚く)を求めているのもいい。洗練された切れのある謀略小説だ。(集英社 2090円)

<略歴>
うぶかた・とう 1977年生まれ。2003年「マルドゥック・スクランブル」で日本SF大賞、10年「天地明察」で吉川英治文学新人賞や本屋大賞など、12年「光圀伝」で山田風太郎賞を受賞

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