PR
PR

<検証 北海道新幹線>(1)乗客減、打開策探る 東京頼み、見えた限界

 北海道新幹線開業5周年を迎えた26日、新函館北斗駅(北斗市)では地元関係者らが節目を祝い、到着した新幹線客を横断幕などで出迎えた。隣の木古内駅(渡島管内木古内町)でも周辺の町を紹介するパネル展などが開かれていたが、多くの人が集まるようなイベントはなく、いつも通りに落ち着いていた。

 津軽海峡に面する木古内町。2016年3月26日の北海道新幹線開業は人口減に苦しんでいたマチを大きく変えた。だが、この4月、町役場で15年前にできた「まちづくり新幹線課」から「新幹線」の文字が消え、「まちづくり未来課」に改称される。担当者は「新幹線によるまちづくりの一定の役割を終えたので」と説明する。

 「新幹線の開業は、マチが生まれ変わるチャンスだと思った」。00~20年に木古内町長を務めた大森伊佐緒さん(67)は、新幹線駅前に立つ道の駅「みそぎの郷きこない」を見上げて当時を振り返る。

 「みそぎの郷」は新幹線開業の2カ月前にオープン。それ以来、周辺自治体を含む広域観光の拠点となり、同町の観光客は、15年度の15万人から16年度には62万人に急増した。その後も年間観光客は新型コロナ感染拡大前の19年度まで50万~60万人台を維持。木古内町は北海道新幹線開業に伴う数少ない成功例だ。

 しかし、北海道新幹線新青森―新函館北斗間は利用客の減少が続き、開業間もない16年度でこそ乗車率は32%だったが、17年度以降は20%台に低迷。一方、15年に金沢まで開業した北陸新幹線は5年目でも上越妙高―糸魚川間の乗車率が40%を超え、沿線の観光振興などにも大きな役割を果たしてきた。この違いはどこにあるのか。

 市民から親しみを込めて「おみちょ」と呼ばれる近江町市場は、金沢市街地の真ん中に位置する。今年で開設300年になる「市民の台所」は、6年前の北陸新幹線金沢開業を機に首都圏などから多くの人が訪れる石川県を代表する観光スポットになった。

 「それはもう劇的な変化でしたよ」。市場の青果店「フルーツ坂野」専務の坂野浩章さん(41)はこう振り返る。店内にはテレビのロケで訪れた芸能人との記念写真が20枚ほど。新幹線開業前は郊外への大型スーパーの進出などで、人がまばらだったが、開業後は観光客であふれ、新型コロナの感染が拡大する前は「地元客が来づらくなるほどだった」(同市場商店街振興組合)という。

 石川県開業企画課によると、北陸新幹線(上越妙高―糸魚川間)の利用者数は金沢開業後の1年間で926万人にのぼり、開業前の在来線特急に比べ2・9倍に急増。5年目でも2・6倍を維持している。それに対し、北海道新幹線は開業1年間が1・6倍だったのが、4年目の2019年度は1・2倍程度に縮小。金沢との比較で見えてきたのは、北海道新幹線の利用者増加を阻む高い「壁」だ。

■空路なお優勢

 北陸新幹線で東京―金沢間は2時間28分。新幹線の金沢駅は市内中心部にあり、県内の小松空港は中心部から車で50分ほどかかる。国土交通省の調査によると、石川県と首都圏間の交通手段の利用割合(分担率)は、飛行機が開業前59%だったのに開業後には20%台に低下。逆に鉄道は35%から70%台に「飛躍」した。新幹線開業で首都圏への交通手段の主役は飛行機から鉄道に交代した。それに伴い小松空港の羽田便は開業前の12往復から10往復に減り、通常航空運賃も最大1割強下がった。

 一方、新函館北斗駅は函館市街地から車で40分ほどかかり、逆に空港は車で20分と近い。東京―新函館北斗間は最速3時間57分。飛行機との競争を制する目安となる「4時間の壁」は切るものの、函館市街地から新幹線駅までの移動時間も含めると東京―函館間は4時間半程度かかる。飛行機で羽田―函館間は約1時間20分で、空港までの移動を含めても時間競争では飛行機にはかなわない。

 同じ国交省の調査では首都圏と道南間の分担率は、新幹線開業で航空が88%から60~70%台に減り、鉄道は12%から20~30%台に増えたが、変化はわずかだ。競合がない分、航空運賃も下がらず、JR北海道の関係者は「飛行機との価格競争が起きなかった国内初の新幹線」と自嘲気味に話す。

■途中下車多く

 さらに、新幹線で首都圏などからの人を道内まで呼び込めていないことを示すデータがある。東北新幹線東京―新青森間の19年度の輸送密度(1キロ当たりの1日平均輸送人員)は、東京―大宮間の約17万人に対し、福島―仙台間は約7万人。仙台―一ノ関間は約4万人と大きく減り、八戸―新青森間ではさらに約1万人に減少する。東京からの乗客は途中下車が大半で、北海道新幹線に乗車する客が少ないことは明らか。新幹線開業で首都圏からの集客を期待していた道南の自治体関係者は「もともと無理ゲー(無理なゲーム設定)だったんです」と無力感を漂わせる。

 開業5年で見えてきたのは、新幹線で東京や首都圏から人を呼び込むという戦略の限界だ。全国の新幹線に詳しい青森大の櫛引素夫教授は「東京とつながることは経済的に重要だが、新幹線がかえって東京従属を強めている」と話し、首都圏だけでなく、東北などとの交流にも価値を見いだすべきだと指摘する。

 30年度末を予定している北海道新幹線札幌延伸まであと10年。新幹線を北海道の活性化のために生かすにはどうすればいいのか。開業5年の教訓を踏まえ、再考する時期に来ている。(徳永仁)

 北海道新幹線(新青森―新函館北斗間)が26日に開業5年を迎えた。道民の夢と期待を乗せて実現した新幹線は北海道の経済や観光、暮らしに何をもたらしたのか。札幌延伸への展望とともに考える。(7回連載します)

【関連記事】
<検証 北海道新幹線>
(1)乗客減、打開策探る 東京頼み、見えた限界
(2)経済効果 急な息切れ
(3)青函連携の熱 どこへ
(4)残土処理 消えぬ不安
(5)在来線問題、結論避け
(6)広がる通勤圏 好機に
(7)人と物 流れ変わるか

PR
ページの先頭へ戻る