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暮らしと法律

やっと買ったマイホームに欠陥…不動産売買の決まりが新しくなりました

 人生で最も大きな買い物の一つ「マイホーム」。やっと手に入れたついのすみかなのに、敷地から大量のゴミが出てきたり、欠陥が見つかったりしたら…ショックを受けるだけでは済みません。2020年4月の改正民法施行で、不動産を含む売買契約の決まりは大きく見直されました。コロナ禍で心地よい自宅のニーズが高まる中、新しい不動産売買の決まりや、もしもの時に買い主が取り得る手段について、札幌弁護士会の田中康道弁護士に聞きました。(聞き手 中秋良太)

写真はイメージです  Photo by iStock
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■不動産売買の決まり改正

――民法の改正で、不動産売買に関する決まりが大きく見直されたと聞きました。どのように変わったのですか?

 売買の目的物に不具合があった場合には、改正前では「瑕疵(かし)担保責任」によって規律されていましたが、改正後には「契約不適合責任」によって規律されるようになりました。

――法律用語を聞くと、何だか難しそうです。

 そうですね。見直しを理解するため、まず従来の瑕疵担保責任とは何かを詳しく説明しましょう。改正前、売買契約につき、目的物に隠れた瑕疵があったとき、買い主は契約の解除または損害賠償請求ができると定められていました。

――「瑕疵」とは何ですか?

 通常なら当然に備えている性能や品質、または買い主と売り主で特別に約束していた性能や品質を欠く状態を指します。マイホームの購入で説明すると、前者は例えば、法律で定められた耐震基準を下回る状態。後者は、買い主が基準以上の耐震性能を求め、特別に柱の太さや本数を指定していたのに、足りなかった場合です。こうした瑕疵が隠れて存在していた場合、契約の解除または損害賠償請求ができました。

――「隠れた」とはどんな意味でしょう?

 瑕疵の存在が一見して分からず、買い主が気づかなくても仕方のない状態です。例えば、建売住宅を買おうと内見した際、天井に明らかな雨漏りの染みが広がっていたとします。雨漏りすることは一目で分かるので、気づかずに購入した買い主の落ち度とみなされ、「隠れた瑕疵」に当たらない可能性があります。

 他方、住んで初めて分かった雨漏りは隠れた瑕疵に該当する可能性が高いと言えます。他にも、壁に断熱材が入っていないとか、耐震強度の不足も、売買契約当時には判明しにくい事柄ですので、隠れた瑕疵と判断される可能性が高いと言えます。

――つまり、従来は隠れた瑕疵に限り、買い主は売り主に責任を問えたのですね。

 そうです。そして従来は責任を問う手段が、①契約の解除、②損害賠償請求―の2通りでした。それぞれ効果や、行使するための条件に違いがあります。

――詳しく教えてください。

 まず①は言葉通り、契約を解消することです。マイホームは手に入りませんが、代金を支払う必要はありません。ただし解除できるのは、瑕疵のせいで契約の目的を達成できない場合だけです。例えば住宅の床が大きく傾いているなど、立て直さないと住めないような状態の場合が考えられます。少しの雨漏りなら補修すれば住めるので、解除は認められない可能性が高いでしょう。

――②はどうでしょう。

 隠れた瑕疵のせいで買い主が被った損害を、売り主に金銭で支払ってもらうことです。ただし、賠償を請求できるのは、瑕疵がないと信じたために被った損害に限られます。「信頼利益」と言い、例えばどこにも欠陥がないと信じて住宅を2千万円で買ったのに、実際には雨漏りがして補修に500万円かかった場合、補修費の500万円は信頼利益として請求できます。でも住宅を3千万円で転売する計画だったのに、雨漏りを理由にご破算になっても、得られるはずだった転売利益1千万円を請求することはできません。

 買おうとした住宅はこの世に1軒しか存在せず、したがって隠れた瑕疵のない当該住宅を転売して利益を得ることは想定できないからです。また、対価に見合った交換価値を売り主に保証させるという瑕疵担保責任の目的からも外れてしまいます。

――どんな時に買い主は請求が可能なのですか? 例えば、建築業者がこっそり手抜き工事をした場合、売り主である住宅メーカーに非はないと思います。相手に非がないと、責任は問えませんよね。

 いえ、売り主に非があるかどうかは問題になりませんでした。なぜなら瑕疵担保責任の目的は、先ほど述べた通り、支払った対価に見合った交換価値を保証することにあったからです。売り主に非があるか否かを問わず、売り主が対価に見合った商品を提供できていない以上、対価に見合う交換価値を保証する限りで責任を負うこととなります。

――なるほど。だとすれば、従来も売り主には重い責任が課されていたように思います。にもかかわらず、なぜ決まりの見直しが必要だったのでしょう?

写真はイメージです  Photo by iStock
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 一つは「唯一無二の商品は替えが効かず、現状のまま引き渡せば足りる」という考え方が、時代に合わなくなってきたためです。工業化が進み、住宅も大量生産の部品を現地で組み立てる工法が増えました。もし住宅の一部に欠陥があっても、該当部分の部品を交換すれば欠陥は解消される場合もあります。

 つまり、不動産は唯一無二の商品ではあっても、替えが効くこともあり得るものと理解されるようになりました。家電量販店で購入した家電製品に不具合があり、店側に修理や交換を要求するのとさほど変わらないケースもあります。にもかかわらず、建物については、瑕疵担保責任によって規律されているため、民法上当然には買い主が部品の交換を請求することはできませんでした。

――確かに同じように交換可能なのに、買う商品によって買い主の取れる手段を変える必要はないですね。

 加えて、買い主が売り主に契約の解除や損害賠償を請求するには、一定の期間制限があり、請求のハードルとなっていました。

――どんな制限ですか?

 買い主は隠れた瑕疵の存在を知ってから、1年以内に権利行使をしなければならないと定められていました。では「権利行使」とは何をすればいいのか。訴訟を起こすまでは求められないですが、原則として、瑕疵の具体的内容、自分が受けた損害額とその算定根拠を明示し、売り主に権利行使の意思を伝える必要があったのです。再びマイホームの雨漏りで例えると、雨漏りの場所や原因、補修に必要な金額を、全て伝えなければいけませんでした。

――非常に手間がかかる印象です。

 そうですね。売り主に重い責任を課す代わりに、買い主の権利に一定の制限を設け、バランスを保つ意図でしたが、現実には買い主の権利行使を阻む高いハードルとなっていました。こうした問題点があり、見直されたのです。

――新しい不動産売買の決まりは、従来とどのように違うのですか?

 いろいろありますが、まず「契約不適合責任」との名称が表すように、買い主は商品が「契約の内容に適合しないもの」(民法562条)であるとき、売り主の責任を問うことができると定められました。

――従来の瑕疵担保責任における瑕疵とどう違うのでしょう?

 「契約の内容に適合しない」とは、商品の①種類、②品質、③数量、④権利―が、契約の内容に適合しないことを指します。「契約の内容」とは、売り主と買い主が合意した内容や、契約書の記載だけでなく、当事者が契約をした目的、契約締結に至る経緯など、契約を巡る一切の事情に基づいて判断されます。④はイメージしにくいかもしれませんが、例えばマイホームを購入したら、マイホームに他人の賃借権が設定されていて、買い主が居住することができなかった場合が考えられます。この場合、住宅に問題がなくても、買い主が居住することができないので、契約不適合と判断されるでしょう。

 また、契約不適合は、契約当時「隠れた」ものか否かは問わないこととなりました。買い主の救済は買い主に落ち度があるだけで一律に否定するべきではなく、目的物の損傷がどこまで売買契約に織り込まれていたかを踏まえ、判断すべきであると考えられたからです。

■売り主への請求手段 4通りに増加

――買い主が取り得る手段も変わったのですか?

 ①追完請求、②代金減額請求、③契約の解除、④損害賠償請求―の4通りになりました。従来は③と④だけだったので、手段は増えたことになります。

――それぞれどのような内容でしょうか?

 順を追って説明します。まず①の追完請求(562条)とは、完全な商品になるよう、修理や交換、補充を求めることです。ただし、買い主に過度な負担を課さない内容であれば、売り主は買い主の要求とは異なる方法で対応できます。例えば、車庫のシャッターがへこんでいた場合、売り主は買い主に交換を要求されても、板金で補修可能なら、どちらの方法で直しても構いません。もちろん、費用を買い主に負担させることはできませんが。

――次に②は。

 ②の代金減額請求(563条)とは、商品の不具合の程度に応じ、代金を安くするよう求めることです。先ほど2千万円で購入した住宅に雨漏りがあり、補修に500万円かかる事例を出しましたが、補修費を引いて「住宅の代金を1500万円にして」と求めるのが代金減額請求です。原則として、期間を定めて①の追完請求をしてからでないとできません。つまり、買い主は売り主に対し、まずは一定期間内に雨漏りを補修するよう求め、直してもらえなかった場合に初めて、代金の減額を請求できるということです。

――順序があるのですね。

 そうです。ただし、不具合の性質上補修ができない場合や、売り主が補修を拒否している場合など、追完の実現が期待できないなら、買い主は追完請求を経ずに代金減額を求めることができます。③の解除(564条・541条・542条)もほぼ同様の流れです。

――③は従来からあった手段ですが、何か違いがあるのですか?

 契約を解消するとの効果は前と変わりませんが、代金減額請求と同様、まずは追完請求を行う必要があります。従来は追完請求がなかったので、変更点ですね。代金減額と同様、追完の実現見込みがない場合は、直ちに解除を請求できます。

――まとめると、買い主は原則としてまず①を行い、果たされなかった場合に②か③を取り得るということですね。

 そうです。ただし、買い主が無条件で手段を選べるわけではありません。商品の不具合が軽微だった場合、解除はできないと定められています。解除すれば、売り主は全く代金を得られません。減額より重い負担を課すことから、行使できる場面が限定されているのです。ただ、契約不適合が軽微かどうかの具体的な判断基準は条文に書かれておらず、これから裁判例を積み重ねることで固まってくるはずです。

――買い主はどんな時に何ができて、何ができないのか、よく理解しておく必要がありそうですね。

 はい。あと、三つの手段に共通していることですが、売り主の落ち度があってもなくても、買い主は権利を行使できます。逆に、契約不適合の発生について買い主に落ち度があれば行使できません。

――①から③の内容は良く分かりました。ところで④は何か変わりますか?

 ④の損害賠償請求(564条・415条)は、請求するに当たり、不具合のある商品を引き渡した売り主に落ち度があることが条件になりました。落ち度の有無は問われなかった以前からの変更点で、先に説明した三つの手段とも異なる部分です。代わりに信頼利益だけでなく、転売利益の賠償も請求できるようになりました。

 住宅を2千万円で買ったのに、雨漏りを生じさせる不具合で補修に500万円かかった例だと、従来は補修費の500万円のみ請求できましたが、今は住宅を3千万円で転売する計画が雨漏りを生じさせる不具合のせいでなくなったら、転売利益の1千万円も請求できる余地が生じました。また、他の三つの手段と違って、買い主に落ち度があっても請求が可能です。ただし、得られる金額は買い主の落ち度の程度に応じ、本来の金額から減るでしょう。

――見直しの理由には、期間制限の問題もあったと思いますが、この点はどのように改められたのでしょうか。
 
 契約不適合の内容によって異なり、種類、品質、数量、権利の不適合のうち、種類と品質の場合、短期の期間制限は維持されました。具体的には、不適合を知ったときから1年以内に、売り主に対して、不適合を通知する必要があります。種類や品質の契約不適合は、一見して売り主にとって明らかでないものも多い。期間制限がないと、売り主はトラブルに備えて契約に関する資料を長期間保存しなければならず、過度な責任を負わせかねないと考えられたからです。

 ただし、「通知」とは、不適合の大まかな内容を伝えれば足り、瑕疵担保責任のように、瑕疵の具体的内容や損害額、算定根拠を示し、売り主に権利行使の意思を伝えることまでは求められません。制限期間は1年で変わらないものの、買い主の負担が軽減され、より権利を行使しやすくなりました。通知をした後は、契約不適合を知ってから5年、もしくは契約の目的物の引き渡しから10年のいずれか早い期間内に、実際に賠償請求などの権利を行使しなければ、一般的な民法の「時効」によって権利が消滅してしまいます。ただし、売り主が目的物の引き渡しの時点で契約不適合を知っていたか、重大な過失によって知らなかった場合には1年間の期間制限の規定は適用されず、一般の時効のみによって規律されます。この場合には、売り主を保護する必要より、買い主保護を優先すべきだと考えられるからです

――数量や権利の不適合はどうでしょうか。

 この場合は、1年間の期間制限の規定は適用されず、一般の時効のみによって規律されます。数量が不足していたことは外見上明らかであることが多く、また、目的物に担保物権などの権利が付いていたとしても、登記などで比較的容易に判別できます。買い主の制限期間を設けなくても、売り主に過度の責任を負わせることにはならないと考えられるからです。

■購入前、契約書よく読んで

――新しい不動産売買の決まりについていろいろと伺いましたが、最後に実際にマイホームを購入する人が注意すべきポイントについて、教えてください。

 決まりをよく理解した上で、何と言っても契約書をよく読むことです。先ほど制限期間の話をしましたが、契約書には民法の定めより短い期間で権利が消滅する旨が書かれていることがあります。よく読まずに契約して、後から「知らなかった」と訴えても、簡単には通りません。契約前に、民法より不利な内容になっていないか、よく確かめる必要があります。後は、契約の目的や交渉経過についても書面などに残しておくことです。

 打ち合わせ議事録を作成したり、メールで相手に送信したりする方法でもいいでしょう。特に建物の使用目的にこだわりがあるような場合には、こだわるポイントは明示的に記録を残しておくべきでしょう。そうしておけば、売買の目的物に買い主のこだわりが反映されていなかった場合には、売り主に対して契約不適合責任を問える余地が出てきます。自分ではよく分からない場合、弁護士に相談するのも有効です。マイホームは、一生に一度の買い物。後から後悔しないよう、十分に注意を払う姿勢が欠かせません。

田中康道(たなか・やすのり)弁護士>1980年、札幌市生まれ。2004年、中央大法学部卒。07年に横浜弁護士会に登録。10年に札幌弁護士会に登録替えした。弁護士法人札幌英和法律事務所に所属。不動産のトラブルを巡る訴訟を数多く取り扱っている。夏は自宅の庭でガーデニングに精を出し、アジサイだけで10種類以上を育てているという。「自然とふれあうのが好きなんです」と笑う。

田中康道弁護士
田中康道弁護士

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