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暮らしと法律

「生命保険金」は遺産分割の対象? 活用で相続税対策になります

 家族・親族間の遺産争いは今も、あちらこちらで繰り返されています。中でも「生命保険金」が絡み、訴訟にまでもつれ込むケースが少なくありません。生命保険金が一部の例外を除いて遺産分割の対象にならないのが大きな要因ですが、活用の仕方によっては相続税の減額につながるというメリットもあります。相続と生命保険金の基本的な関係やトラブルの回避方法、節税対策などについて、札幌弁護士会の山本賢太郎弁護士に解説してもらいました。(聞き手 梶山征広)

写真はイメージです  Photo by iStock
写真はイメージです  Photo by iStock


■遺産分割の対象外

――相続における生命保険金の位置づけを教えてください。

 生命保険金は故人が生前、保険会社と契約を結び、保険料を支払った結果として得られる対価であり、あくまでも、その契約で定められた受取人の固有の財産です。このため、故人が生前に所有していた預貯金や株、土地・建物などとは異なり、遺産を分割する際の対象にはなりません。これは判例で確立しています。

 別の言い方をすると、遺言を作らずとも、生命保険金の金額や受取人を誰にするかによって、特定の人に多くの財産を残すことが可能ということになります。

――具体例を交えて、今の話を説明してもらえますか。

 亡くなったAさんの法定相続人がBさん、Cさんの2人で、Aさんの財産が預貯金5000万円、受取人がBさんの生命保険1000万円のケースについて考えてみましょう。

 預貯金5000万円は、BさんとCさんにそれぞれ2500万円ずつ分けられます。これに対し、生命保険金1000万円はBさん1人に支払われます。

 上記の結果、Bさんの合計取得金額は3500万円、Cさんの合計取得金額は2500万円になります。

 この遺産が預貯金6000万円だった場合、Bさん、Cさんはそれぞれ、3000万円を手にすることになります。Bさんが生命保険金を得るケースと比べると、Bさんが手にする金額は500万円減ってしまうことになります。


――生命保険金の額によっては、不平・不満を持つ遺族が出てきてもおかしくないように感じます。

 確かにその通りで、生命保険金の取り扱いを巡って過去、多くの裁判が行われてきました。その過程の中で、最高裁が2004年10月29日、ある決定を出しました。これは「生命保険金が遺産分割の対象にならずとも、民法の趣旨に照らし、保険金の受取人である相続人とその他の相続人との間に著しい不公平が生じた場合には、残る遺産を分割する際に生命保険金の金額が考慮される」という内容です。

 言い換えると、生命保険金の額が遺産の大半を占めるようなケースでは、保険金の受取人が、生命保険金以外の遺産を相続できない場合もあり得るということです。

■生命保険金が遺産の大半を占める場合

――もう少し詳しく教えてください。

 Aさんが生前、Cさんより多くの財産をBさんに譲りたいという前提で考えてみましょう。ここで、Aさんは遺産総額6000万円を所有していたところ、このうち、3000万円を生命保険金としてBさんを受取人とする保険契約を結んだと仮定します。

 そうすると、生命保険以外の残った遺産が3000万円で、「生命保険金」対「残った遺産」の比率は1対1となります。生命保険金を分子、残った遺産を分母とした割合は100%になります。

 過去の裁判などを参考にこのケースを考えた場合、Bさんは、残る遺産の分割分を受け取ることができない可能性が大きいでしょう。

 既に法定相続分2分の1に当たる3000万円の保険金を入手しているため、新たな遺産を取得することができません。つまり、残る遺産3000万円はCさんが取得することになります。

――そのような結論に至る根拠があるのですか。

 名古屋高裁が06年3月27日に出した決定が分かりやすいかと思います。このケースは、生命保険金が5154万円、残った遺産が8423万円で、先ほどのモデルと同様の方法で算出した割合は61%になります。高裁はこのケースで「生命保険金を遺産に戻して再計算すべき」と判断しました。

 一方、同様の比率が26%の裁判では、生命保険金を遺産に戻して計算すべきではないと判断されました。

 相続対策のため、生命保険に入ることを検討されている方に対し、私がアドバイスをする時はこの二つの裁判を参考にしています。

――先例は、判断の目安になりますね。

 ただ、これで万全かというと、注意が必要です。二つの裁判は最高裁の判決・決定ではありません。例えば、基準となる割合が50%(「残る遺産2」対「生命保険金1」)なら不平等にならないかというと、明確な根拠はなく、「これで大丈夫」とは断言できません。

 先ほど説明した04年の最高裁決定は、生命保険金と残る遺産の比率のほか、①生命保険金の額②被相続人との同居の有無③介護に携わるなど、被相続人に対する貢献の度合い-などを考慮すべき事項として挙げています。

 仮に、残る遺産を分母とした生命保険金の割合が高くとも、生命保険金の額が少なく、相当の介護行為をしているなどの事情によっては、違う判断になる可能性が十分あり得ます。

■相続税対策としても活用

――生命保険金については、相続税の減額につながるケースもあるそうですね。

 相続時の生命保険の非課税枠は、法定相続人1人当たり500万円になります。相続人2人であれば生命保険金のうち1000万円分について、相続税がかかりません。財産の多寡や、相続人の数によって変わってきますが、節税対策になり得ます。

生命保険金の非課税枠
500万円×法定相続人の人数

――節税効果はどれぐらいあるのでしょうか。

 具体的に見ていきましょう。

 まず、相続税の基礎控除額(21年1月現在)の計算式は「3000万円+(法定相続人の人数×600万円)」です。

相続税の基礎控除額の計算
3000万円+600万円×法定相続人の人数

 相続人が2人である場合の基礎控除額は、3000万円+(2人×600万円)=4200万円となります。この場合は,債務等を控除した遺産総額のうち,4200万円を超えた部分に相続税がかかります。

 相続人2人に対して遺産が5000万円、債務が100万円あった場合、基礎控除額4200万円を除いた700万円に相続税がかかることになります。

 これに対し、相続人が2人で、遺産5000万円のうち生命保険金が1000万円というケースを考えてみましょう。この場合、基礎控除額4200万円に加え、生命保険金の非課税枠が1000万円となります。つまり、生命保険金と残る遺産を合計した5200万円までは相続税がかからず、税務署への申告が必要ないことになります。

 これはあくまでも一例ですが、生命保険金が節税対策になるということが分かってもらえるのではないかと思います。

■受取人が相続人以外の場合

――生命保険を節税対策で使う場合に注意しなければならないことはありますか。

 まず、生命保険の非課税枠は相続人自身が生命保険金を受領しない限り使えません。相続人の夫や、相続人の子供などが受取人の場合は使えないので、要注意です。

 2点目は、生命保険の契約者と、保険金を支払いの対象者となる被保険者、そして、保険金の受取人の関係をしっかりと確認しておく必要があります。生命保険が相続税の対象として考慮されるためには、契約者と被保険者が故人で、死亡保険金の受取人が相続人であることが必要です。

 古い契約の中には、受取人が相続人ではないケースがあります。このような場合は相続の際、生命保険の非課税枠が使えません。生命保険証券を確認し、非課税枠が使えるのか否か、今のうちにきっちりと確認しておくことが大切でしょう。

――生命保険と相続の関係を知っておくことは、極めて重要ですね。

 私見ですが、相続の中で生命保険金を活用するメリットを整理すると①相続税対策②遺産をより多く残したいと考える人のためにしておく事前対策(遺留分対策)③迅速な現金確保対策-になるかと思います。

 現金確保についてですが、遺産の中に土地や建物がある場合、すぐに現金化することはなかなか難しいと思います。生命保険であれば、被保険者の死後に受取人が保険会社に対して請求すればよく、現金を比較的早く手にすることができるかと思います。

山本賢太郎(やまもと・けんたろう)弁護士>1991年、渡島管内七飯町生まれ。函館ラ・サール高を卒業後、明治大法学部を経て、中央大法科大学院へ。司法試験合格後、2016年の弁護士登録時から、朝日中央綜合法律事務所札幌事務所に所属。札幌市中央区内で1人暮らし。歴史好きで、三国志やローマ史などの読書を楽しむ一方、昨夏にたまたま見たテレビの深夜番組をきっかけに、アイドルグループのライブ鑑賞のとりこに。「乃木坂46」「櫻坂46」などの「坂道シリーズ」が中心で、「推し」が最近、「櫻坂46」の守屋麗奈さんに変わったという。

山本賢太郎弁護士
山本賢太郎弁護士

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