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核ごみ処分研究の最前線 地下350メートルの実験施設 幌延深地層研究センターに潜った


 北海道北部の幌延町にある地下350メートルの坑道で着々と進む「核の模擬ごみ」埋設試験や、核廃棄物をくるむ「人工バリア」の性能試験…。北海道西部の寿都町と神恵内村で高レベル放射性廃棄物(核ごみ)の最終処分場選定に向けた文献調査が2020年11月に始まった。設置から約20年、核ごみの処分方法を研究している日本原子力研究開発機構・幌延深地層研究センター(通称・深地層研)で何が行われているのか、現場に潜った。(編集本部・奥天卓也)

PR施設「ゆめ地創館」の展望階から見た幌延深地層研究センターの地上施設
PR施設「ゆめ地創館」の展望階から見た幌延深地層研究センターの地上施設


■埋設条件下に近い環境で研究

 人口約2300人の幌延町の市街地から車で約10分。牧草地が広がる丘陵地の高台に深地層研の施設が見える。深地層研は西、東、換気の3本の立て坑と、3本の調査用水平坑道からなっている。

 最深部の地下350メートルにある坑道は、高さ147メートルあるさっぽろテレビ塔二つ分以上もの深さ。8の字状で全長760メートル。核ごみを実際に処分する場合、安全性を確保するため地下300メートルより深い場所が設置の前提となっている。坑道を地下350メートルに設けたのは、岩盤内にある地下水の性質や岩盤の圧力など、より本番に近い環境下で研究するためという。

地下350メートルにある水平坑道の地図(日本原子力研究開発機構提供)
地下350メートルにある水平坑道の地図(日本原子力研究開発機構提供)


地下350メートルの水平坑道に降りるエレベーター
地下350メートルの水平坑道に降りるエレベーター


 つなぎに着替え、ヘルメットや長靴を身に着けた後、佐藤稔紀副所長の案内で西立て坑の入り口に入った。2つのエレベーターを乗り換え地下350メートルにある調査用水平坑道へ。5分ほどで到着した。エレベーター内には外部を映すモニターがあり、穴の中を降下していく様子を見ることができた。

坑道内は8の字型で周回するように歩く。壁面はコンクリートで覆われている
坑道内は8の字型で周回するように歩く。壁面はコンクリートで覆われている


 初冬の11月の寒風が吹く外の気温に比べ、坑道内は暖かい。高さ3メートル、幅4メートルの坑道内の壁面や天井には、空気や工事用の水を送るための複数の管が取り付けられている。8の字状の坑道を時計周りに周回するように歩き進んだ。

深地層研 2001年4月、核燃料サイクル開発機構(当時)が設置した。現在は日本原子力研究開発機構が運営し、原発から出る使用済み核燃料の再処理で生じる高レベル放射性廃棄物の埋設技術を研究している。地下140メートル、250メートル、350メートルの位置にそれぞれ3本の水平調査坑道があり、さらに500メートルまで掘削する計画がある。
 20年1月には、当初計画で01年から「20年程度」としていた研究期間を、「必須の課題についてさらに研究継続が必要」として28年ごろまでに延長。施設設置にあたって道と幌延町、同機構は2000年、「放射性廃棄物を持ち込まない」「将来とも最終処分場にしない」「研究終了後は地下施設を埋め戻す」などと明記した3者協定を結んでいる。正職員数は40人(2020年12月時点)。年間予算額は2020年度で約33億円。


■地震による地下の揺れはわずか

 最初に着いたのは、岩盤を見るためにつくられた通称「幌延の窓」。坑道は地圧に耐えられるよう壁面がコンクリートで覆われているが、この部分だけ約50センチ四方の大きさに窓のようにくり抜かれている。稚内層と呼ばれる約400万~500万年前に堆積した地層で、茶色や白色、灰色などが入り混じったまだら模様を晒している。

坑道内の壁をくり抜いた「幌延の窓」。稚内層と呼ばれる岩盤を見ることができる
坑道内の壁をくり抜いた「幌延の窓」。稚内層と呼ばれる岩盤を見ることができる


 掘削に使った重機などが置かれた坑道をさらに進むと、地震観測場所にたどり着く。深地層研では地表部と深度250メートル、同350メートルにそれぞれ地震計を設置して常時、地表と地下との揺れの違いを観測している。

 大きな地震は少ない北海道北部だが、19年12月12日に宗谷地方北部を震源とするマグニチュード4.2の地震が発生。幌延町で震度4、隣の豊富町で震度5を観測した。北海道北部で震度5以上の地震が起きたのは、稚内地方気象台が1938年(昭和13年)に震度の観測を開始して以降、初めてだった。

 この時、地下250メートル、350メートルでは震度2程度の揺れだったという。佐藤副所長は「基本的にどんな地震も地上に比べて地下の揺れは小さく、(埋設する核ごみが地震で受ける影響については)あまり心配ない」と話した。核ごみを地下深くに埋設しようとする理由の一つとなっている。

地震の測定について説明する看板。地上に比べて地下は揺れが少ないことが分かっている
地震の測定について説明する看板。地上に比べて地下は揺れが少ないことが分かっている


 そして、最後にたどり着いたのが「人工バリア」の性能確認試験が行われている坑道だ。

人工バリア 放射性物質とガラスとを混ぜてステンレス製容器内で固めた「ガラス固化体」を、鋼製容器「オーバーパック」に収納し、放射性物質の漏れを防ぐ特殊な粘土「緩衝材」でくるんだもの。オーバーパックは少なくとも放射線量が急激に減る1000年間は腐食に耐えてガラス固化体を完全密閉できるとされている。さらに緩衝材の効果と、地下水の動きが極めて遅い岩盤のため、数万年、人間の生活圏に影響を与えない状態を保てるとしている。


■模擬の廃棄物を使い実験

 試験では、ガラス固化体の代わりに加熱用電熱ヒーターを内蔵させた模擬オーバーパックを使用している。ヒーターを使うのは、熱を持つ放射性物質とガラス固化体の性質を再現するためだ。それを緩衝材でくるんだ模擬人工バリアを「試験孔」と呼ばれる深さ4.2メートル、直径2.4メートルの縦穴に入れ、埋め戻し材をかぶせて埋め戻す。その後は、巨大なコンクリートの壁でふたをして遮断するため、見ることができるのは壁だけだ。

 壁には注水装置やセンサーが刺さっており、試験孔まで通じている。時おり「カチッ、カチッ」と機械の作動音が聞こえた。試験孔に地下水を送り込み、水や熱さらに地圧によってバリアにかかる力の大きさや作用する方向といった応力、化学反応を再現する。約200のセンサーを通して人工バリアに損傷はないか、緩衝材の変化、周辺の岩盤の変化を観測している。

 2014年に人工バリア1個を埋め、2015年から加熱試験を行っている。時期は決まっていないが、試験終了後は人工バリアを掘り出し、緩衝材やオーバーパックがどのように変化したかを詳しく分析するという。

人工バリア性能確認試験が行われている坑道。コンクリートの壁の向こう側に人工バリアが埋められている
人工バリア性能確認試験が行われている坑道。コンクリートの壁の向こう側に人工バリアが埋められている


人工バリアの模型。ガラス固化体をオーバーパックと呼ばれる鋼製容器に入れ、特殊な粘土で作られた緩衝材で覆う
人工バリアの模型。ガラス固化体をオーバーパックと呼ばれる鋼製容器に入れ、特殊な粘土で作られた緩衝材で覆う


 佐藤副所長は「研究の成果は、将来の処分事業に反映されることになる。研究者としては(寿都や神恵内の)文献調査の進展を見守るだけ。与えられた課題をクリアしていくことが目標であって、地層処分の確立のために深地層研でどんな研究が行われているのか、多くの人に知ってほしい」と締めくくった。

■研究期間延長「必要な成果得る」

 日本の地下は、マグマが冷え固まった花こう岩などの結晶質岩と、土砂が押し固まった比較的軟らかい堆積岩に分かれる。結晶質岩での処分技術は岐阜県の瑞浪超深地層研究所で研究され(2019年度で終了。22年1月までに埋め戻す予定)、幌延の深地層研では堆積岩を対象に研究している。これまでの20年で、放射性物質を覆う人工バリアの性能、堆積岩の透水性や地殻変動に対する堆積岩の緩衝能力など、核ごみ埋設に関する多岐にわたる課題を調べている。

 20年8月に道と町、深地層研による研究状況を共有する確認会議で配布された資料によると、「人工バリア」については、作り方や埋め戻し材、埋設する処分孔の掘削方法についての研究は終了した。

 今後は、さまざまな温度下や地下水の量、圧力によって「人工バリア」の性質がどのように変化するかデータを蓄積していくという。堆積岩の研究については、人為的に掘削を進めた岩盤内で水分がどのように動くか、また核ごみを埋める処分孔の湧き水発生を予測し、回避するための手法開発などが課題になる。

 深地層研を巡っては、80年代に幌延町が核のごみ施設の誘致に動いたものの、全道的な反対運動を受けて撤回。「核抜き」研究施設設置に着地したものの、反対の声は一部で根強い。

 「20年程度」とした設置当時の計画通り、研究を終えて埋め戻すべきだとの声もある。一方、国内には大量の使用済み核燃料が存在し、その処分技術はいまだに確立していないため、研究は進めるべきだとの指摘もある。

 増え続ける核ごみをどうするのか国民的な議論を深めていく上でも、幌延町の地下施設で行われている研究を関心を持って見ていく必要があるのではないか。

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