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暮らしと法律

身寄りないおひとりさま 死んだ後の手続きどうなる?

写真はイメージです  Photo by iStock
写真はイメージです  Photo by iStock


 自分や身近な人が亡くなった後に必要な手続きを進めてくれる人がいない場合、どのような準備をしておけばいいのでしょうか。葬儀や火葬、行政への届け出、各種サービスの解約や支払いなどの「死後事務」を巡り、生前に委任契約を結ぶ動きが徐々に広がっています。どんな人に、どのように依頼すればいいのか。費用はいくら掛かるのか。札幌弁護士会の山本賢太郎弁護士に尋ねました。(聞き手 梶山征広)

――死後事務には、どのようなものがありますか。

  実は、死後事務について明記している法律はなく、用語も含めて正式な定義がありません。一般的には
① 関係者に対する当事者死亡の連絡
② 葬儀や火葬などに関する諸手続き
③ 死亡届や未支給年金の支給などの行政手続き
④ 自宅の家賃や光熱費、有料老人ホームの諸費用、入院費など支払い-
などが挙げられるかと思います。

■道内でも増える高齢単身世帯

――内容を聞いていると、それらの諸手続きは亡くなった方の家族や親族の役割ではありませんか。

  これらの手続きは確かに、家族や親族が担ってきました。これに対し、第三者に死後事務を任せようと考える人は、子供のいない方が多いほか、兄弟やおい、めいがいても疎遠なため、死後の手続きを期待することができないという状況を抱えておられるようです。

 これから先を見据えても、死後事務を委任する人が減ることはないでしょう。高齢化の進展とともに、一人暮らしのお年寄りが増えていくからです。国立社会保障・人口問題研究所が昨年4月に公表した世帯数の将来推計によると、道内に住む65歳以上の単身世帯は2040年に約43万世帯に上ります。これは15年比で約32%増という数字です。

 札幌弁護士会もこうした状況を踏まえ、死後事務委任契約に関する勉強会を内部で開催しています。

――死後事務委任契約の仕組みを教えてください。

  弁護士に裁判の提訴を依頼するのと同様、一定の業務を契約相手に任せる形になります。一般的には、亡くなる前の高齢者本人が、個人・法人を含む第三者に対し、亡くなった後の諸手続について代理権を付与し、それらの事務を委任する形です。依頼する方が「死後事務委任者」、依頼される方が「死後事務受任者」と呼ばれています。

 なお、受任者となるのに特別な資格は必要ありません。ただ、法的な手続きや交渉が必要な場合もあるので、弁護士や司法書士、行政書士などの法律職が受任するケースが多いようです。


■トラブル防止は公正証書作成が安心

――契約はどのように結ぶのでしょうか。

  特に決まった形式はなく、口頭でも構いません。ただ、トラブルを防止するためには、契約書を作成した方がいいでしょう。

 まず、実際に死後事務の委任先と依頼内容について打ち合わせた後、契約書を作成するという流れになります。

 方法としては①賃貸借契約書のように契約当事者のみが契約書に署名押印する②公証役場の公証人が公正証書を作成する-の2種類があります。
法的には、一般的な契約書と公正証書の効力に違いはありません。ただ、死後事務委任契約は世間一般的にまだなじみが薄いことから、関係者に契約書を提示し、交渉する観点では、信用性のある公正証書を作成する方法がいいかもしれませんね。

――どれぐらいの費用がかかりますか。

 比較的新しい契約ということもあり、基準がある訳ではありません。契約費用として数万円から20万、30万円ほど掛かるでしょうか。公正証書で契約する場合は、公証人の手数料1万1000円と謄本の製本代約3000円も発生します。

 さらに実費と、報酬が必要になります。実費で言えば、大がかりな葬儀を取り行う場合は数百万円が掛かることもあるでしょう。これは委任者の考えによるのではないでしょうか。

 報酬については、専門職によって違いがあるほか、あくまで私の感覚ですが、40万、50万円から200万円ぐらいまでの範囲になるかと思います。道内では、葬儀と納骨などを行って報酬が40万~50万円という例を複数聞いています。

 ただし、報酬については、どのようなことをどのような範囲で依頼するかによって変わるため、仮にその金額が300万円だったとしても一概に不当とは言えないと思います。専門家の労力によっては、それだけの価値があるかもしれません。

■報酬の支払い方 遺言書に明記を

――実費や報酬が発生するのは、依頼者当人が亡くなった後になります。どのように支払えばいいのでしょう。

 実費や報酬の支払いについては、受任者が実際に死後事務を行う時に契約した当人がいないので、契約時に定める必要があります。

 前もって実費と報酬を受任者に預ける方法もありますが、受任者による横領や破産のリスクがどうしても残ってしまいます。そこで、報酬や実費の支払い方法や金額などについて、遺言で定めておく方法があるかと思います。例えば、故人の遺産を受け取る「相続人」が報酬と実費を支払うことを明記しておくと安心ですね。

 報酬については、受任者によって自由に決められることがないよう、契約書の作成には重々注意してください。

終活をテーマに出版された本や雑誌類。ブームが続く終活には死の準備以外の側面も
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――遺言の話が出てきました。死後事務と似ている感じがしますが。

  遺言は、主に死後の財産の処分について、遺言者の意思に法的効果を与える制度です。確かに死後の諸事務の処理という点からみれば、死後事務と似ている部分がありますが、死後事務は財産の処分というより、葬儀や行政手続を対象としているので、業務範囲が異なると考えれば、分かりやすいでしょう。

 遺言と同じように死後事務と似ている仕組みに、成年後見制度があります。これは、お年寄りらの財産管理や、身体に関して「成年後見人」が支援する法的制度ですが、死後事務と大きく異なるのは文字通り、対象者が生きているか、亡くなっているかという点です。

 ただ、成年後見人も近年は、民法改正により、一定の費用の支払いや火葬費用の支出、住居の退去手続きなど、一部の死後事務を行うことができるようになりました。また、義務はありませんが、サービスの延長線上で葬儀を行う後見人もいるようです。

■死亡届提出には注意を

――遺言と成年後見制度と比べると、死後事務委任には権限に関する明確な規定はないようです。そうすると、死後事務の作業を進めていく中で、トラブルに見舞われるケースもあるのでは。

  死後事務受任者の地位については確かに、遺言執行者や成年後見人ほど、明確なものがありません。そのため、死後事務委任契約で法律的にどこまで実行することができるのか、あいまいな点が残ります。

 死後に当事者の自宅の電気水道代などを支払ったり、葬儀を主宰したりするケースを例に挙げれば、請求者や葬儀会社は代金を回収できれば問題ないので、通常は死後事務受任者に対応してくれることが多いかと思います。

 しかし、死亡届については、戸籍法87条に規定されている提出権利者に死後事務受任者は含まれていません。権利者は家族や親族、地主や家主、後見人などに限られています。また、未支給年金の給付、年金の死亡届についても国民年金法105条4項の規定で、死後事務受任者が手続きを行うことはできません。

 現場を見ていると、死亡届の届け出の段階でつまずくケースが多いように思います。例えば、生前に財産管理を任されていた弁護士が依頼者の死亡により、葬儀や納骨などを行ったケースでは、弁護士が後見人ではなかったため、死亡届を提出できず、親族捜しなどで苦労したという話を聞いたことがあります。私自身も、依頼者の親族から届け出を拒否されるなどした事例に直面したことがありました。

――なかなか思い通りにはいきませんね。

 死後事務については委任契約を結ぶことができても、法律面から実行可能な業務範囲に限界があるのが実情です。現状は、遺言や成年後見制度の中でサービス的に取り扱われている例が多いように感じます。

 私の経験で言えば、遺言執行者として家財道具を遺品整理業者に処分してもらったり、遺言者の水道・光熱費などの債務を返済したりした後、残りの金銭を寄付先や関係者に交付したことがあります。

 ただ、死後事務に対する需要は日本の社会的状況を考えれば、今後大きくなっていくのは間違いないでしょう。そうした事態を見越して、死後事務の定義や死亡届の提出の在り方などを見直し、現実に即した法律を整備することが必要だと思います。

 <山本賢太郎(やまもと・けんたろう)弁護士>1991年、渡島管内七飯町生まれ。函館ラ・サール高を卒業後、明治大法学部を経て、中央大法科大学院へ。司法試験合格後、2016年の弁護士登録時から、朝日中央綜合法律事務所札幌事務所に所属。札幌市中央区内で1人暮らし。歴史好きで、三国志やローマ史などの読書を楽しむ一方、昨夏にたまたま見たテレビの深夜番組をきっかけに、アイドルグループのライブ鑑賞のとりこに。「乃木坂46」「櫻坂46」などの「坂道シリーズ」が中心で、中でも「日向坂46」の小坂菜緒が「推し」という。

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