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暮らしと法律

「あおり運転」「ながら運転」していませんか? 厳罰化進み代償大きく 高額賠償の可能性も

 「ながら運転」の罰則強化に、「あおり運転」の罰則新設と、2019年昨年から20年にかけ、車の危険な運転に対する厳罰化が進みました。交通事故で相手を死傷させた場合の損害賠償額も、以前より多額になる可能性が生じています。道民にとって車は生活に欠かせない移動手段ですが、利用機会が多いだけに、違反や義務の内容をよく理解してハンドルを握る必要があります。近年、重さが増しているドライバーの責任について、札幌弁護士会の三春裕嗣弁護士に聞きました。(聞き手 中秋良太)

写真はイメージです  Photo by iStock
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■あおり運転とは

――車を運転する際の責任が重くなったと聞きますが、中でも新しく罰則ができた「あおり運転」とはどんな運転を指すのでしょうか。

 20年6月30日施行の改正道路交通法(道交法)で新たに規定された危険な運転方法です。法律上は「妨害運転」と呼ばれます。該当する具体的な運転は10類型あり、次の通りです。
①対向車線の逆走(通行区分違反)
②理由のない急ブレーキ(急ブレーキ禁止違反)
③車間距離を極端に詰める(車間距離不保持)
④急な車線変更(進路変更禁止違反)
⑤左からの追い越しや無理な追い越し(追い越しの方法違反)
⑥執拗なパッシングやハイビームの継続(減光等義務違反)
⑦執拗なクラクション(警音器の使用制限違反)
⑧幅寄せや蛇行(安全運転義務違反)
⑨高速道路での低速走行(最低速度違反)
⑩高速道路での駐停車(高速道等駐停車違反)


■一発で免許取り消し

――全てもともと違反だった運転方法のようですが。

 確かにいずれも道交法改正前から違反行為でしたが、法律にあおり運転という定義はありませんでした。改正後は「他の車などの通行を妨害する目的」で、上記10類型の違反を行うことが、あおり運転と定義されています。つまり他のドライバーの運転を邪魔しようと意図的に上記の運転をすると、あおり運転と判断され、処罰の対象になるということです。

――どんな処罰ですか?

 違反をしたら、刑事罰として「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科されます。加えて、行政処分として違反点数25点が加算され、一発で運転免許が取り消されます。再取得できない欠格期間は最低2年です。

――非常に重い内容ですね。

 さらに高速道路であおり運転をし、他の車を停車させるなどの「著しい危険」を生じさせたら、「5年以下の懲役または100万円以下の罰金」です。違反点数も35点で、欠格期間は最低3年と、より重く罰せられます。あおり運転をした結果、事故を起こして人を死傷させてしまったら、その処罰も加わります。


■深呼吸、心にゆとりを

――あおり運転をしないためには、どんなことに気を付ける必要がありますか。

 あおり運転は、他のドライバーに対する怒りやいらだちがきっかけになっています。加害者にならないためには、自分の基準で考えないことが重要でしょう。一口にドライバーと言っても、技量や性格は人それぞれです。例えば、自分にとっては急な割り込みに感じても、相手は十分に安全確認をしたつもりかもしれません。自分と相手では判断や感覚が違うと意識すれば、怒りやいらだちを抑えられるのではないでしょうか。

――それでもいらいらしてしまったら。

 他人の運転に腹が立つことは誰でもあります。もしイラッとしたら、深呼吸をして、あおり運転をした場合に自分が被る不利益を考えてみてください。説明したように、あおり運転をすれば非常に重い処罰が待っています。いらだちを相手にぶつけると、かえって自らが損をする。そう考えれば、思いとどまる動機付けになります。心にゆとりを持ち、些細なことにいら立たないよう、時間に余裕を持って外出することも大切でしょう。

■ながら運転とは

――次に「ながら運転」ですが、どんな行為が当てはまるのでしょうか。以前、この「暮らしと法律」欄で扱ったことがありますが、改めて教えてください。

(参考)ながら運転厳罰化 運転中なのにスマホを持ったら違反?

 携帯電話やスマートフォン、タブレットなどの機器を使いながら運転することです。あおり運転と同様、道交法で定義されており、より具体的には次の2類型が該当します。
①通話すること
②画像をじっと見続ける(注視する)こと

――厳罰化されたそうですが、どんな内容でしょうか?

 19年12月の改正道交法施行で、罰則が強化されました。機器を手に持って通話や画像の注視をした場合は「6カ月以下の懲役または10万円以下の罰金」で、違反点数は3点。5万円以下の罰金、違反点数1点だった改正前より厳しくなっています。

――懲役刑が設けられるなど、かなり重くなった印象です。

 さらに手に持って通話や画像の注視をし、事故を起こすなど「交通の危険」を生じさせた場合はより処罰が重くなります。「1年以下の懲役または30万円以下の罰金」で、違反点数は6点です。改正前は3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金、違反点数は2点でした。また、画像の注視で交通の危険を生じさせた場合は、機器を手に持っていなくても同じ処罰を受けることになります。例えば、車内に取り付けたカーナビやタブレットを見続け、事故を起こしたケースが該当します。

――やはり近年、車を運転する際の責任は重くなっているのですね。どんな理由や背景があるのですか。

 ながら運転の罰則強化は、携帯やスマホの普及とともに、操作しながら運転をすることが原因の事故も増えてきたことが要因でしょう。あおり運転の罰則新設は、神奈川県の東名高速道路で17年、前をふさがれたワゴン車が後続車に追突され、一家4人が死傷した事故が直接の契機とみています。以後、あおり運転に関するニュースが盛んになり、厳罰化を求める世論が高まって、法改正につながったと思います。

■ドラレコ、SNSで表面化

――確かに最近、あおり運転のニュースを目にする機会が増えたと感じます。乱暴な運転をする人が増えたということなのでしょうか。

 あおり運転そのものが増えたというより、表面化する事例が増えたのだと考えています。あおり運転をする人は、恐らく昔から一定数いたでしょう。しかし、加害者や被害者以外が知る機会は少なかった。今はドライブレコーダーや会員制交流サイト(SNS)が浸透し、個人が発信できる時代になりました。あおり運転がより大勢の目に触れるようになり、「悪質だ」という社会の意識が高まったのでしょう。

――時代の移り変わりが厳罰化に影響しているということですね。ところで、主に刑事責任についてお尋ね聞きしてきましたが、車の運転には民事の損害賠償責任もありますよね。

 もしも車を運転して事故を起こしてしまったら、相手に与えた損害を賠償する必要が生じます。事故の加害者なら誰もが負う責任です。賠償の対象は、大別して「物的損害」と「人身損害」の2種類あり、物的損害は相手の車の修理費用や代車費用、レッカー費用などが代表的です。人身損害は、けがをさせた相手の治療費や通院交通費、慰謝料などです。

■損害賠償の金額は

――いくらぐらいの金額になるのでしょうか。

 一概には言えません。というのもドライバーは発生した損害に対し、自身の過失割合に応じた賠償責任を負いますが、過失割合が低ければ賠償額も低いとは言い切れないからです。車の修理費用を例に挙げると、もし相手の車が高級車や、入手困難で貴重な車だった場合、修理費用自体が高額になります。総額が高ければ、その一部を負担するだけでかなりの金額です。数百万円になることもあります。

――人身事故だと、賠償額がさらに高額になる事例も多いですよね。

 相手に歩けなくなるなどの後遺障害が残った場合や、相手が死亡した場合、その人が将来にわたって働き、得られたはずの収入を賠償する必要があります。法律上は「逸失利益」と呼び、億単位になることもあります。今年4月の改正民法施行で逸失利益の計算方法が一部変わり、一層高額になる可能性も生じました。ドライバーの責任強化を目的とした改正ではありませんでしたが、結果的に責任が重くなったとは言えるでしょう。

■必ず任意保険に加入を

――ドライバーはどんな対策を取るべきですか。

 1億円を超えるような賠償額を、全て自費で賄うのはほぼ不可能です。自賠責保険の加入は義務付けられていますが、決して十分とは言えません。当たり前と思われるかもしれませんが、車を運転するなら必ず任意保険に入ることです。

――運転する際の責任が重くなったことはよく分かりました。一方で、自賠責保険に代表されるように、車は「持つ」だけで責任や義務が付きまといます。

 その通りです。持つ責任は自賠責保険の加入だけでなく、自動車税の納入や車検などさまざまです。車検に限らず、車両の定期的な点検と整備も義務付けられています。ちなみに自分の車を他人に貸した場合、借りた相手が起こした事故でも、賠償責任を負う場合があります。友人知人に貸した場合も該当する可能性がありますが、他人が運転した場合の事故は適用対象外になっている保険もあるので、気になる方は一度、内容の確認をお勧めします。

――分かりました。しかし義務だと理解していても、軽い負担とは思えません。

 確かに、保険料や税金、車検費用の支払いは決して安い金額とは言えないですね。加えて車を持つには購入費用が必要ですし、マンションなど借家の場合は駐車場の費用もかかります。運転するなら、ガソリン代やタイヤなど消耗品代の出費もあります。車は所有するだけで、重い責任とコストを負う道具なのです。

写真はイメージです  Photo by iStock
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■「カーシェア」都市部で拡大

――だから「車を持たずに運転する」新しい利用方法が登場したのですね。

 「カーシェアリング」のことですね。自分で車を所有せず、他人と「共有」する利用方法で、コインパーキングの運営会社やレンタカー会社がサービスを提供しています。会員登録をした上で、使う日時や時間を事前に予約し、決まった場所にある車を利用するのが一般的です。毎月定額を支払うものや、使った時間に応じて代金を支払うものがあるようです。

――最近は札幌市内でもよく見かけるようになりました。

 高額な車の維持費が敬遠され、他人と共有してコストを下げようとの考えが広まり、普及しているのだと思います。確かにカーシェアリングなら車の購入費や税金、駐車場代が不要になり、ガソリン代の割り引きなど特典を受けられることもある。車を使う頻度が高くなく、使っても短時間で、近くに利用できる車がある人には利点が多いでしょう。他方、日常的に車を運転する人には不向きな側面もあります。利用できる地域も都市部が中心で、今のところ道内全体に広がる状況ではなさそうです。

■何歳まで運転するか

――道内ではまだまだ自分で車を持ち、運転する必要のある人が多いということですね。ハンドルを握る責任が増す今、ドライバーが心がけるべきはどんなことでしょうか。

 道内は自家用車以外の移動手段に乏しい地域が多く、車なしには生活できない人が多い。一方で処罰だけでなく、ドライバーに注がれる社会の目は厳しさを増しています。他人の立場に立ち、余裕を持って運転するという当たり前の心がけがとても大切であり、事故に遭う危険を減らすことにもつながります。特に北海道では高齢でもハンドルを手放せない人が少なくないでしょうが、年齢を重ねれば視力やとっさの判断能力は衰える。事故を避けるため、何歳まで運転するのか周囲と話し合っておくことも重要でしょう。

三春裕嗣(みはる・ゆうじ)弁護士
1979年、札幌市生まれ。北大法学部卒。札幌での司法修習を経て、2005年に札幌弁護士会に弁護士登録した。同市内の弁護士事務所に所属後、10年に独立し、三春法律事務所を開業。交通事故の損害賠償請求訴訟を数多く取り扱っている。最近は仕事のため、休日も事務所で過ごす時間が長く「趣味らしい趣味を持てていない」と苦笑いする。

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