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<デジタル発>台湾IT大臣と考える北海道の未来 NoMapsオープニング・セッション

(NoMaps提供)
(NoMaps提供)


 北海道を舞台に、IT関連の最新技術やカルチャーを融合して開かれた複合型イベント「NoMaps(ノーマップス)」。4回目の今年、オンラインによるオープニングセッション(10月14日配信)に、台湾のIT担当大臣で、天才プログラマーと称されるオードリー・タンさん(39)が登場した。テーマは「市民生活とテクノロジーの調和」。地域の課題解決に取り組むエンジニアグループ「Code for Sapporo」(札幌)をけん引する古川泰人さん(46)を進行役に、石狩市などでデータセンターを展開する「さくらインターネット」(大阪)社長の田中邦裕さん(42)も交えた対談は、社会を深く考察し、豊かな未来の創造につながる視点を提供した。濃密な1時間を振り返る。(報告/報道センター・デジタルチーム 岩崎志帆)

 オードリーさんは、新型コロナウイルス対策として、台湾の薬局や市民エンジニアらと協力し、マスクの販売店舗の在庫状況をリアルタイムで示す地図アプリを開発。大きな反響を呼び、その手腕が世界に注目されました。古川さんの「トーク解説」を交え、セッションのポイントを紹介していきます。

【写真左】オードリー・タン(唐鳳) プログラマー。2016年、台湾史上最年少の35歳で閣僚に就任。心と体の性が一致しない「トランスジェンダー」であることを公表している

【写真中央】田中 邦裕(たなか・くにひろ) 1996年、舞鶴工業高専(京都)に在学中の18歳で「さくらインターネット」を起業し、2015年に東証1部上場。沖縄県でリモートワーク(遠隔勤務)するなど、新しい働き方にも取り組む

【写真右】古川 泰人(ふるかわ・やすと) ITを活用して地域課題の解決に取り組む「シビックテック」を実践。地図情報システム開発「MIERUNE(ミエルネ)」(札幌)取締役

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1.地方とデジタル
  ▼トーク解説 テクノロジーは何のため?
2.伝統と先進技術を考える
  ▼トーク解説 「インクルーシブ」とは
3.開かれたコミュニティー
  ▼トーク解説 キレのあるアンサー
■オープニングセッションを終えて


1.地方とデジタル

オープニングセッションで進行役を担った古川泰人さん(NoMaps提供)
オープニングセッションで進行役を担った古川泰人さん(NoMaps提供)


 セッションは、古川さんのこんな言葉で始まった。「地図なき領域を開拓するという狙いのNoMaps。これからの社会をどうすれば良いのかについて、人々は本当に地図を持たないまま歩き回っている状況です。こんな状況下で、北海道という『中央ではない地域』ならではの視点を一緒に考えられたら良いのでは―」。古川さんは、台湾の先進的なIT政策をけん引するオードリーさんの思考を、北海道というローカルの視座に落とし込んでいく―ということを意識して対話を展開した。

 古川さん 地方に住む私たちにとって、イノベーション(技術革新)は遅れる傾向にあります。例えば、地方自治体のスタッフ(職員)は、日々の伝統的タスク(業務)に追われ、(誰でも自由に利用・加工ができるよう、インターネット上などに必要な情報を公開する)「オープンデータ」について、あまり積極的ではありません。オードリーさんは、「ソーシャル・イノベーション(社会変革)ツアー」で、台湾の地方のさまざまな人々とコミュニケーションや意見交換をしていますが、その後、彼ら自身が自発的にプロジェクトを推進するための支援やモニタリング(追跡調査)は行っていますか?

 オードリーさん 台湾では「総統杯」というハッカソン(ソフト開発イベント)を開催していて、毎年優秀な5チームに総統自らトロフィーを渡します。今年は約300組の応募があり、最終的に受賞した5組は、全てオープンデータを活用したアプリの開発チームでした。中央政府からの選出は1組だけで、他の4組は全て地方のソーシャルセクター(社会課題の解決に取り組む組織)やローカルグループです。これは、地方のソーシャル・イノベーションの地位を向上させる出来事であり、とても小さな地域からでもプロジェクトをスタートできることが証明されました。

 総統杯ハッカソンで授与されるトロフィーにはマイクロプロジェクターが内蔵されていて、スイッチを入れると総統が映し出され、彼らが過去3カ月に行ったことを次の12カ月間で正式に国の政策として取り入れることを約束します。これはほんの一例ですが、行政府がハッカソンを通じ、(得られた研究成果を社会の課題解決に応用していく)「社会実装」も含めた形で公約に掲げれば、それに追従する人々が現れるのは明白です。

 田中さん 非常に素晴らしいなと思ったのが、総統自らがコンテストを主催し、それに対してガバメントセクター(政府組織)も含め、みんなが応募をして、それが最終的に政府のプロジェクトになる―と。日本でもできるはずなのにやってないので、これは、ぜひ政府に提言したい。「ものごと」を継続・拡大していくためには国の力ってすごく重要なんだけれども、「ものごと」を始めるのは常に市民からだ、ということを実感しました。

 古川さん 北海道は1次産業がとても盛んな地域です。台湾では1次産業のイノベーションはありますか?

 オードリーさん 春の農薬散布のように、必要な人手を集めるのが困難な分野では、特に関心が持たれています。日本でも、幕別町農協や帯広農業高校、それに帯広工業高校などが、共同でドローンを使った農薬散布の実験をしたそうですね。(中略)台湾では、まず初めに漁業や農業の盛んな地方を中心に、5G(ファイブ・ジー=第5世代移動通信システム)の導入を始めました。5G無線技術の設計や業務委託をする際、通信事業者には多額の予算をあらかじめ先払いするようにしています。今年からより多くの地方に再投資を始めます。地域の協同組合や社会的起業家が通信事業者と共同事業を行うことに対して奨励金を出すとともに、自動運転車や遠隔医療、遠隔教育などを含めた5G導入のサンドボックス(試行錯誤できる制度)に取り組みたい。

 古川さん 地方から優先的に5Gを導入するという台湾の政策は、デジタルデバイド(情報格差)を解消するため、優先的にとった判断なのでしょうか?

 オードリーさん そうですね。台湾のサンドボックス制度は、「解決すべき社会的問題や課題がある」という前提で導入しており、とても実践的です。5Gは「あれば便利なもの」ですが、地方では「なければ困る必要なもの(マストハブ)」で、その具体例がたくさんあります。そのような「マストハブ・シナリオ」においては、5Gを「単なる光ファイバーや他の接続手段と同様の選択肢」と考えるのではなく、社会投資家たちが「課題のある地域をより良い場所にするために」という発想を持ち、そこに資金を投資しよう―という議論になりやすい。ですから、特に医療や教育、そして通信の分野では、「ある種の平等性が地方にもたらされる」ということが明確になり、長期的には投資の社会的リターンがとても高くなるという、現実的な視点でもあります。

古川さんのトーク解説 テクノロジーは何のため?
 高速通信サービスを受けられるのが都会だけだと、人口の一極集中を招いてしまう可能性があります。地方にどのように展開するのか。特に広大な北海道では、どのように通信網を整備していくのか、という課題につながる話でした。一方で、テクノロジーはあくまで脇役です。「地域にどんな課題があって、そこに暮らす人たちに何を提供すべきなのか」といった利用者目線での対話と、サービス設計がますます重要になっています。その土台を踏まえた上で、テクノロジーに力を借りながら試行錯誤することが大切です。

2.伝統と先進技術を考える

多様性と包摂性について語る田中邦裕さん(NoMaps提供)
多様性と包摂性について語る田中邦裕さん(NoMaps提供)


 「ローカル」についての話題が展開される中、その土地に生きる先住民族の文化や、多様な視点を、社会にどのように反映させるか―という議論に及んだ。デジタル技術が果たせる役割とは?

 古川さん 北海道では、アイヌ民族の文化継承について、さまざまな課題やチャレンジがあります。台湾には多くの先住民族の方が生活しており、オードリーさんも先住民族の言葉を収録した「Moedict」(萌典)というオンライン辞書のプラットフォーム(基盤)を開発されてます。先進的なデジタルと、伝統的な文化を守り、そしてオープンにして利活用を促進させるという姿勢は、一種の「インクルーシブ(包摂的)」だと考えます。

 「インクルーシブ」は、「包摂的・包み込むような」を意味し、「排除」の対義語でもある。分け隔てなく、共に過ごす―というイメージを持つこの言葉をキーワードに、対話が展開していく。

 オードリーさん 先住民族の視点から「包括・包摂(インクルージョン)」について話をするのは、とても興味深いトピックスですね。根本的に、いわゆる「市民参加」の話とは考え方が異なります。例えば、年齢が若すぎるために投票することができなくても、いつか投票できる年齢になることは分かりますよね。また、「女性の参政権」の話とも違います。現代社会では(多くの地域で女性にも)参政権があります。一方で、「インターセクショナリティ」(差別は性別や人種など、さまざまな属性が複雑に関係するという考え)の概念も知られてきました。投票権は、女性が自分自身を表現できる基本的な権利だということを私たちは知っています。これは自然な進歩といえるでしょう。

 年齢制限のために投票権のない「若者」や、歴史の中で参政権を獲得してきた「女性」を事例に挙げながら、オードリーさんは「多様な立場」について、さらに説明する。

 オードリーさん アジアには法治国家がいくつもあり、それぞれに独自の歩みがあります。「市民参加」という点については、多少の意見の違いはあれど、われわれはさらに「包摂的(インクルーシブ)」にならなければならない、という共通認識はあると思います。私たちは皆、10代の思春期を、そのうちの半分は女性として(私を含めてですが)経験します。つまり、世界にはとても大勢の人がいるということなんですね。

 しかし、アイヌ民族や、(台湾の)アミ族、そして他の言語を話す先住民族にとっては、全く事情が異なります。国民投票を行っても、彼らの存在は非常に少数派で、その声はなかなか社会に届きません。時間の経過とともに、彼らが「国民投票へ直接参加する」「代議士を国会に送り出せる」―という環境になる保証もありません。むしろ、状況は悪化しており、伝統文化について記憶している人は減少し、また、先住民族に対し、観光向けの誇張した仕事であったり、文化的外交の役割を押し付けたりするようなことも起こっています。そうすると結果的に、先住民族である彼ら自身の力や行動意欲を奪うことになってしまうのです。この複雑なトピックは5分間で話せるようなものではありませんが、端的に言えば、「アイヌ民族のため」ではなく、「アイヌ民族と一緒に」行動すること。そして、彼らの心に寄り添って動くことが大切で、「彼らのため」の「for」ではなく、「彼らと共に」の「with」、そして「彼らの今後のため」の「after」を念頭に行動することが正しい姿勢であると思います。

 田中さん われわれが最も念頭に置かないといけないのは、「効率という言葉からの解放」だと思っています。世の中、効率的に物事を進めるには、「均質化した方がやりやすい」となりがちです。「ダイバーシティー(多様性)」と「インクルージョン(包摂)」。これらは、共にないといけない言葉ですが、それぞれの多様性を認めた上で、その多様な人たちの個性を失わないまま一緒に動けるようにすることが極めて重要です。でも、今、起こっている動きは二つあると思います。「均質化」もしくは「分断化」です。多様性を認めた上で、それをいかに「インクルージョン(包摂)」するか、これをセットで考えなければいけないのです。

古川さんのトーク解説 インクルーシブとは?
 「インクルーシブ(包摂的な)」という言葉は、シビックテックやSDGs(エスディージーズ=2030年の達成を目指す国連の「持続可能な開発目標」)など、社会の課題解決のテーマでよく用いられます。「お互いの落としどころを寄り添って考える」「折り合いをつける」という意味です。インターネットには、感情を増幅させるネガティブな側面がある一方で、物理的な距離を超えて不特定多数の人が前向きに一緒に考えていける特性もあります。「インクルーシブ」と「テクノロジー」は、関係のない言葉のように聞こえますが、作業をデジタルに転換することで生み出せる時間や労力を、人と人との対話に費やそうという考え方で通じています。

3.開かれたコミュニティー

多様な意見を取り込める柔軟な組織づくりについて語るオードリー・タンさん(NoMaps提供)
多様な意見を取り込める柔軟な組織づくりについて語るオードリー・タンさん(NoMaps提供)


 今回のセッションを通して何度も話題に上ったのが、「コミュニティーのあり方」だった。行政と市民、それぞれの世代…。豊かな社会を実現していくために、あらゆる壁を取り払ったコミュニティーが求められている。

 オードリーさん 台湾には、若手が先輩に教える「リバースメンターシップ制度」という仕組みがあり、それぞれの大臣に通常、35歳以下のメンター(助言者)が2人付きます。私もメンターを務めた経験があります。この制度は、年長者である閣僚と、デジタルネイティブとのコネクションを持つ若者との間に「世代を超えた連帯」を築きました。台湾の場合、その中心がシビックテックグループの「G0v」(ガブゼロ)でした。日本の場合は、シビックテックグループの「Code for Japan」が、その変化を起こせるのではないかと思います。

 古川さん 日本には、若い世代が年上の世代に対して意見をしたり、ディスカッションをしたり、目上の人に対して物言うことについて遠慮する文化もあります。

 オードリーさん 例えば、「リバースメンター制度は(年長者を重んじる)儒教思想よりも尊重されます」と明確に示せば、より簡単だと思います。このような宣言をベースに、誰にでも理解できる仕組みをつくってしまえば、たとえ年長者であっても、平等な立場で若者やメンターに対して必要な資源や支援を提供するでしょう。そうすると、より多くの人々が年功序列よりも、この制度を規範とするようになります。制度を明確に「書き出す」ことが、とても重要です。

古川さんのトーク解説 キレのあるアンサー
 リバースメンター制度の存在は事前の予習で知っていたので、目上の人に遠慮してしまう日本社会の現状を考えながら、オードリーさんにアドリブでさらに斬り込んでみました。とてもシンプルで秀逸な答えがすぐに返ってきて、個人的には、今回、一番好きな対話となりました。


 古川さん 今、ティーンエージャーだったら何をしてると思います?

 オードリーさん 初めて「インターネットガバナンス」というインターネット上のプロジェクトに参加した時、私はメールで、参加者の皆さんとコミュニケーションを取っていました。ですが、当時、まさか、私がまだ15歳か16歳だったということは、誰も気付いていなかったでしょうね。つまり、インターネット上では「誰も、あなたの年齢を知らない」ということです。もし私が今、ティーンエージャーだとしても、今と変わらず閣僚として働いているでしょうし、もしかしたら、最近設立された「オープン・ガバメント・パートナーシップ・ナショナル・アクションプラン評議会」という政府の透明性を高める組織のメンバーにもなっているかもしれません。

 皆が、何かしらの形で貢献するソーシャルイノベーション(社会改革)においては、ティーンエージャーや大人、年長者の間に、何ら区別や違いはないのではないか、ということを伝えたいです。私はレナード・コーエンのこの詩をよく引用します。「全てのものにはヒビがあり、そして光はそこから差し込んでくる」。先入観をあまり持たない人は、そのヒビをただの建物の一部としてではなく、生命が入り込んでくる何か、として見るでしょう。新鮮な視点を持つことはもちろん大切なことですが、だからといってティーンエージャーである必要はありません。自分にとって安全で快適な場所から飛び出して、あなたが知らない人と一緒に働いてみてください。そうすると、あっと言う間に彼らは、あなたの中にひび割れを見つけ、あなたも彼らの中にひび割れを見つけるでしょう。そして、そこから光が一緒に差し込むのです。これが私のメッセージです。

 田中さん 私も10代の時から仕事をしていて、「アパッチ」というウェブサーバーのコミッター(運営支援者)だった時もティーンエージャーでした。なので10代だから何もできないってこともないし、18歳から今の仕事をしているので、たぶん、もう1回人生があるとしても、またアパッチにコミットしてるだろうし、仕事してるだろうと思います。ただ一つだけ、今までいろいろつくってきた人脈や知識をそのまま10代の自分に授けられるなら、もっと早くに政府を動かすぐらいの大きなことができたんじゃないかな、と思います。今の若い人たち、10~20代の人たちに、僕の人脈や、関わってきたノウハウをもっと伝えていきたいと思っています。これからは若い人が本当に活躍できる社会が将来を伸ばすし、現場の人たちが中央集権ではなく、分散型でどんどん活動できる社会がよい世界を作ると思っています。

古川泰人さん(左)と、オードリー・タンさん=2018年、台北で撮影(古川さん提供)
古川泰人さん(左)と、オードリー・タンさん=2018年、台北で撮影(古川さん提供)

■オープニングセッションを終えて
かねて台湾のイベントに足を運び、北海道でシビックテックに取り組んできた古川泰人さんに、オープニングセッションを終えた感想を聞きました。

 社会において、デジタルが特別に「偉い」わけではありません。その問題意識が以前からあって、オードリーさんが同じ意識で行動していることを実感できました。人と人とのコミュニケーションが、何よりも大切なのです。シビックテックに取り組む仲間たちと、こんな話をすることがあります。企業の利潤だけを追求する「会社人」ではなく、直接的な利益がなくても、長期的に社会全体にとってプラスとなる活動に関わっていく本当の「社会人」が増えてほしい、と。そういう意識を持つ個人、そして組織が増えていくことが、より良い社会の実現につながると信じています。3人で対話しながら、「こうあってほしい」と思う社会の方向性が同じだと再確認できました。イベントで立ち話しながら盛り上がるように、いいパス回しができた気がします。今回の対談は、北海道に暮らす人たち、若い世代の人たちに希望を持ってもらえる内容だったと思います。


(年齢・肩書は掲載時)

NoMaps公式サイトでセッションの動画が視聴できます。

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