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暮らしと法律

<弁護士に聞く>コロナ禍 かさむ借金や債務整理 自己破産も選択肢

写真はイメージです  Photo by iStock
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 新型コロナウイルスの感染拡大が長期化し、経済への打撃は世界的に「戦後最悪」の状況です。解雇や雇い止めも増えています。コロナ禍で職を失ったり、収入が激減したりしたことで借金が返せなくなり、自己破産など債務整理を余儀なくされるケースも。こうした場合、どう対応すればいいのか。札幌弁護士会の八木橋俊輔弁護士に聞きました。(聞き手 小林基秀)

――コロナ禍による経済への影響が深刻化する中、自己破産は増えていますか。

 相談に来る方の中には、生活費が足りないために借金をして、なんとかやりくりをしてきたが、コロナ禍で職を失ったり、大幅な減収となったりして返済が困難になり、自己破産を選択される方が一定数います。雇用条件が安定的ではなく、かつ収入が十分でない方が多いです。例えば、繁華街や接待を伴うお店で、基本給がなく日当や歩合制で働いていた人が、お店から「(客が減り)仕事がないから、もう来なくていいよ」と言われ、収入を失うケースもあります。

■個人再生、任意整理も選択肢

――借金が返せなくなった場合、自己破産以外の選択肢はあるのでしょうか。

 債務整理には、大別して自己破産と個人再生、任意整理の3パターンがあります。このうち、自己破産と個人再生は裁判所の手続きを利用する方法、任意整理は裁判所を通さず、債務者と債権者との話し合いで解決(和解)する方法です。

 自己破産は債務を0円にする手続き、個人再生は0円にはしないけれど債務総額を大幅に減額して支払う手続き、任意整理は債務総額は変えずに1回あたりの返済額を少なくして返済期間を長くする手続き、と考えると分かりやすいと思います。任意整理の場合、和解成立までの間に滞納した利息(経過利息)は遅延損害金として請求されることが多いですが、和解後から完済するまでの間の利息(将来利息)は減免されることが多いです。

――自己破産せざるを得なくなる分岐点は、どの程度の額ですか。

 債務者本人の支払い能力によって異なります。収入が少ない方だと100万~150万円で自己破産するケースもあり、収入がなく病気等で再就職の見込みもない方だと100万円未満でも破産するケースもあります。

――債務者とすれば、返済義務が残る個人再生や任意整理よりも、債務がゼロになる自己破産の方が良いけれども、債権者にはメリットがないのでは。

 自己破産の要件である支払不能であるか否かは最終的には裁判所が決めるので、この判断には債権者も従わざるを得ないこととなります。逆に、債務者が自己破産を申し立てても、支払い能力が一定程度あるとして裁判所から「個人再生や任意整理を検討できませんか」と言われ、再度検討した結果、申し立てを取り下げ、個人再生や任意整理を行うこともあります。ただ、私たち弁護士としてもこのようにならないためにも自己破産の相談を受けた際に入念にチェックさせていただくことにしています。

――債務者は自己破産の手続きをどう進めればよいのでしょうか。

 ①弁護士に相談②弁護士に業務を依頼(弁護士は受任)し契約③弁護士が債権者に受任通知を発送④債務者が資料を準備し、その資料の内容や破産に至った経緯、財産、収入の状況について弁護士が聴き取り⑤裁判所に破産免責申立書を提出⑥裁判所による審査⑦裁判所が破産手続き開始決定⑧免責決定-といった流れになります。

――弁護士への依頼から免責決定まで、どのくらい時間がかかりますか。

 受任から3~4カ月で申立、申立を受理した裁判所による審査に2~3週間を要し破産手続開始決定(いわゆる破産宣告)、開始決定から免責許可決定(借金が消滅)までは、2通りに分かれます。債務者に、売却等をしてお金に換える(換価)できる財産がない場合は「同時廃止」となり、この場合は2~3カ月。換価する財産があれば、破産管財人を選任する「管財事件」となり、この場合は3カ月以上、不動産等の財産がありこれの売却に時間を要する場合には1年以上かかることもあります。

 ただし、受任通知により貸金業者か債権回収会社等の債権者からの催告はなくなるので、弁護士に依頼すること自体でかなり負担は軽減します。

■精神的ダメージを軽減

――自己破産のメリットは何ですか。

 最大のメリットは債務が0円になるので、今後の経済的な更生がしやすくなることです。また、先ほどの③「弁護士が債権者に受任通知」をした時点で、貸金業者や債権回収会社等の債権者から債務者本人に連絡することが禁じられるので返済の督促が来なくなり、精神的な負担も軽くなります。債務者の中には、返済時期になると電話に出られない、郵便受けを開けられないなど、精神的に追い詰められている方もいます。

――昔のドラマで、取り立て人が家まで押しかけて、怒鳴ったり暴れたりといったシーンがありました。今でも実際にあるのですか。

 一部には、債権者が電話や自宅訪問で督促をすることもあるようですが、違法行為にならないよう「今月分の返済はどうなっていますか?」など、丁寧な言葉づかいをしているケースが多いようです。ただ、債務者にとっては督促が来ること自体が負担であり、弁護士事務所に相談に来た時点で既に精神的に不安定となり、冷静な判断ができなくなっている方もいます。

写真はイメージです  Photo by iStock
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■家電の多くは差し押さえされず

――自己破産のデメリットは何ですか。

 財産については、種類ごとで20万円を超えるものは、基本的には換価され、返済に充てられます。ただ、後で詳しく説明しますが、合計最大99万円相当まで保持できる場合もあります。この点については、各裁判所で扱いが若干異なることがあるので地元の弁護士の先生に相談されるのがよいかと思います。

 ここでいう財産とは現金や預金だけでなく、不動産、株券、生命保険の解約返戻金、自家用車、将来受け取る予定の退職金の一部も含みます。

 不動産は持ち家であってもよほど価値が低いような場合を除いて売却し、退去しなければなりません。ただ、買い主が物件を購入後に賃貸することを認めてくれれば、家賃を払って住み続けることは可能です。

 賃貸住宅の場合、自己破産そのものを理由に退去を求められることはありません。ただし家賃を滞納していた場合、未納家賃も破産債権となるので結果として賃料不払いによる契約解除をされ、退去を求められる可能性はあります。また、新規で賃貸住宅に入る場合、保証会社の利用が困難となる場合はあります。

 なお、親などが遺産を遺して亡くなり、遺産相続の手続き中の場合は相続分が対象となります。親が存命中の場合は、その親がいくら資産を持っていても、保証人等になっていない場合には、子供の借金を肩代わり返済する義務は法的にはありません。その他の親族や配偶者も同じです。

 その他のデメリットとしては、任意整理や個人再生といった他の債務整理も同様ですが、いわゆるブラックリストに載りますので、カードローンは使えなくなり、インターネット決済もできなくなることが多いかと思います。ただ、弁護士事務所に相談に来た時点で、2回以上返済を滞納して既にブラックリストに載っている方がほとんどです。

 また、自己破産の手続き中、正確には開始決定から免責決定確定までは仕事ができない職業があります。具体的には弁護士や司法書士、税理士など他人の財産を扱う専門職、保険外交員、警備員、古物商など多岐にわたります。破産法に規程されているのではなく、弁護士法や司法書士法、税理士法、保険業法、警備業法、古物営業法など、それぞれの業種の法律に規定があります。

――自己破産のデメリットで、誤解されていることはありますか。

 先に触れた通り、財産は換金され借金返済にあてられますが、前述のとおり、すべての財産が換価されるわけではありません。特に預金、保険、車、退職金の一部等については20万円以下であれば原則換価されません(ただし、個々の価値が20万円以下であっても多数ある場合は換価されることもあります)。例えば車も価値が20万円以下なら持ち続けられます(ただし、ローンを完済していなければローン会社に引き上げられることはあります)。

 例えば車も価値が20万円以下なら持ち続けられます(ただし、ローンを完済していなければローン会社に引き上げられることはあります)。それ以上の価値があり手放さなければならなくなったけれども仕事などで車が必要な場合、親族、知人から借りて使用することは許されています。自己破産決定後は、生活保護とは異なり、親族等から援助を受け現金で車を購入することは可能です。

 また、洗濯機や冷蔵庫等の家電は、「差押禁止財産」となっており換価されませんし、個別の事案によって異なりますが、破産した人が自由に処分できる「自由財産」と裁判所が認めれば最大99万円相当の財産まで手元に残せます。

 裁判所から職場や親族に自己破産の通知がなされるようなことはありません。ただ、勤務先や親族が債権者に含まれるケース、親族が保証人となっているような場合は通知されます。職場に知られたとしても、従業員が自己破産をしたことのみをもって解雇することは通常は不当解雇となります。

 選挙権・被選挙権は憲法上も重要な権利とされており、停止されません。戸籍や住民票にも記載されません。年金受給にも無関係です。


■生活保護受給者は注意を

――その他の注意点はありますか。

 借金が膨れた理由がギャンブル・飲酒飲食・投資などの浪費でありこれが極めて高額な場合には、債務が免責されない場合もあります。ただ、債務者が借り入れの経緯や財産の状態について嘘偽り無く説明し、真摯(しんし)に反省の態度を示せば、裁判所の裁量で免責を認めるケースが多いです。

 また、生活保護を受けている人が、受給しているお金を借金返済に充てた場合、生活保護が停止される場合があります。生活保護は最低限度の生活を保障するための費用です。借金を抱えた状態で生活保護を希望する人は、申請をする前に債務整理(特に自己破産)をした方がよいでしょう。

――最後に自己破産するか悩んでいる人にアドバイスをお願いします。

 借金の原因はさまざまで一概にはいえませんが、努力をしてもすでに返済が不可能な状態となってしまった借金の事で思い悩み、心身まで悪影響を及ぼすのはよくありません。保証人や連帯保証人に迷惑をかけたくないと自己破産をためらう人もいます。また、いわゆるヤミ金から借入をしてしまう方もいます。しかし、ヤミ金融に手を出せば、状況はさらに悪化します。確かに安易に自己破産をするのは勧められませんし、自己破産によって迷惑をかける人がいるかもしれませんが、いま清算をして新たな人生の中で社会に還元できればよいのではないでしょうか。借金をしてしまった事情を反省しながらも、前を向いて新たな一歩を踏み出していただきたいと思います。

 <八木橋俊輔(やぎはし・しゅんすけ)弁護士> 1977年、胆振管内洞爺湖町(旧虻田町)出まれ。伊達緑丘高校から早稲田大学法学部に進み、日本大学法科大学院修了。2009年に弁護士登録 。札幌の「すずらん基金法律事務所」を経て、2011年12月、登別市内に「のぼりべつ法律事務所」を設立した。趣味は読書。愛読書はイスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス全史」や、行動経済学のベストセラー「予想通りに不合理」(ダン・アリエリー著)、老荘思想の本など。休日は地元の登別温泉や豊浦町の日帰り温泉に通う。最近、山歩きも始めた。今秋はニセイカウシュッペ山(1883メートル)や大雪山系緑岳(2020メートル)などに登った。


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