PR
PR

<訪問>「魯肉飯(ロバプン)のさえずり」を書いた 温又柔(おん・ゆうじゅう)さん

台湾と日本の隙間 母娘の物語に

 この小説の鍵となるのが「ふつう」という言葉だ。母が台湾人、父が日本人で日本生まれの主人公・桃嘉(ももか)は「ふつうの女の子でありたい」と自分を押し殺し、「ふつうではない」片言の日本語を話す母を恥に思う。一方で、桃嘉にとって母の味として特別な台湾料理「魯肉飯」を、夫からは「ふつうの料理」じゃないと切り捨てられる。

 「日本人と台湾人の隙間みたいな部分で見える風景をどう描写できるか悩みながら探ってきました。ずっと書きたかった母と子の話が書けて、やっと小説家になれたという気持ちです」

 構想の出発点は自分と母の関係だ。台湾人の両親のもと、日本で育ち、桃嘉のように「(二つの国が背景にあることで)親子のぶつかり方がねじれた」こともあった。すぐには小説にならなかったが、2015年に日本エッセイスト・クラブ賞を受賞したエッセー集「台湾生まれ 日本語育ち」を書く過程で、「台湾とどう向き合うべきか覚悟が決まった」と言う。

 自分の視点だけで見ていた「日本社会でのざらっとした痛み」。外国人である母の立場を想像し、この小説を書いたことで、その痛みも相対化できた。「あちこちで書きかけてはやめた」日本統治時代の台湾も、母と娘の感覚を通し表現できた。
 桃嘉は最後、心の声を取り戻す。「桃嘉は私が歩んだかもしれない人生を体現する存在。彼女の人生を生ききって、書き終えたことで、たどり着くべきところに着いたと感じます」

 1980年に台北市に生まれ、3歳から東京で暮らす。台湾人なのに中国語ができず、日本人ではないのに日本語しかできない疎外感や不完全さを感じたこともあった。葛藤を抱えていた20代前半、文学の力に救われた。「世界を理解した気になりたくない。世界の複雑さをそのまま抱えながら、でも前に生きていく」。そのことを学んだ。「自分の当たり前が、隣人の当たり前とは限らないというほんのちょっとした感覚を、1人でも意識したらもっと優しい社会になるという夢を諦めたくない」

東京報道 大沢祥子

PR
ページの先頭へ戻る