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<デジタル発>胆振東部地震 今も続く林道工事

 緑の稜線(りょうせん)をかろうじて残し、山肌がむき出しになった光景は今も変わらない。2018年9月6日に発生した胆振東部地震。広大な山林が土砂崩れで失われ、その規模は明治時代以降の国内の地震災害では最大とされている。特に被害の大きかった胆振管内厚真町では、未曽有の山林被害から再生しようと試行錯誤が続いている。森林の整備に欠かせない林道の復旧状況を取材した。

 画像データ処理などのコンテンツ制作は、酪農学園大(江別)教授の金子正美さん、同大農業環境情報サービスセンターの小野貴司さん、地図情報システム開発の「MIERUNE(ミエルネ)」(札幌)の古川泰人さんらに協力してもらいました。


■斜面もろとも崩壊

①地震直後の厚真町内の被害状況

出典
酪農学園大学
北海道 オープンデータポータル/平成30年北海道胆振東部地震による林地崩壊及び土砂堆積箇所(平成30年度 厚真地区)
国土地理院/淡色地図

②地震直後の幌内高丘線の被害状況


①②ともに酪農学園大の分析に基づいて作成

 最大震度7の揺れに見舞われた道内では、各地で山林の土砂崩れが発生した。道によると、国有林を除く山林の土砂崩れは、4302ヘクタール。このうち、厚真町は約75%の3236ヘクタールを占める。

 地震直後、行政が林道の被害状況を把握するのは困難だった。そこで、酪農学園大(江別市)の金子正美教授らのチームが、地震発生から3日後に被害状況の分析に乗り出した。デジタルの地図上にさまざまな情報を表示して解析する「地理情報システム(GIS)」を活用した災害支援に取り組んでいる。

 国土地理院が地震後に撮影して公開した空中写真と、町から提供された林道の地図を照らし合わせ、林道や枝分かれする作業道の被災状況を分析。さらに、道職員の喜多耕一さんが、個人の立場で公開情報をもとに作成・公開している崩壊地の地図データも活用した上で、「被害なし」「崩壊」「道路脇斜面が崩壊」「土砂が堆積」に区分し、デジタルの地図に落とし込んだ。町の管轄外も含め、町内の林道・作業道10以上の路線を精査したところ、総延長約4万2千メートルのうち約2割が被害を受けていた。地図は町に提供し、その後の被害状況の把握に役立てられた。

 その地図を基に、地震から2年を控えた8月下旬、厚真町の林道に向かった。

 大規模な土砂崩れが集中した町北部の幌内地区と高丘地区を結ぶ林道「幌内高丘線」。延長8417メートルのうち、土砂崩れで林道そのものが崩れたり、路上に土砂や流木が堆積したりするなど、約5割の4462メートルが被災した。被害額は、この林道だけで約9億1千万円に上る。

 林道は通行止めで、復旧工事が行われている。町の担当者の案内で幌内側から車で入った。カーブが続く山道を上っていく。斜面が崩れ、沢筋に土砂や木々が流れたままの場所もある。林道は斜面もろとも流されたようだが、土砂を削り取って路面を新たに造成。さらに斜面が再び崩落しないように、石を詰めた金網を道路脇に積み重ねていた。土砂被害の大きさと、復旧工事の難しさを実感した。車で10分ほど進むと、工事中で折り返せる場所がなくなるため、引き返した。

 次は、高丘側から林道に入った。土砂崩れで流れ出た木々が大量に集められた場所がある。流木を無駄にせず、木材チップなどに加工して利用するために集積しているという。現場の工事に携わる藤田裕樹さん(68)が語る。「当初は林道が土砂や流木で埋まっていて、ひたすらダンプで運び出した」。そして、「ここの山は粘土質で水はけが悪いので、雨が降るとぬかるんで大変」。そう話しつつ、「厚真のためにもいち早く元に戻したい」と張り切っていた。高丘側からも車で10分ほどしか進めなかった。

 林道の復旧工事は道や被災町の事業として行われており、幌内高丘線を含めて18路線を約27億円かけて2021年度までに完了させる計画だ。森林内に張り巡らされた作業道については、道の担当者は「森林整備に合わせて作業道を復旧したり新設することになる」と説明している。

 緑に覆われたかつての山の姿を取り戻すには、数十年、数百年の時間がかかるかもしれない。それでも地元では山林再生の道のりを歩み始めた。背景には、山の恵みによって豊かな暮らしが育まれてきた地域の歴史がある。

 厚真町は、総面積の約7割が森林だ。製材業、炭焼き、しいたけ栽培など森の資源を活用した産業が営まれてきた。山々から流れ出る厚真川の流域には広大な水田が広がる。豊かな自然環境を発信する移住政策の先進地としても知られている。町産業経済課の担当者も「厚真にとって重要な森を守るために、林道の復旧を進めたい」と力を込める。

「森林管理のために林道は重要」と話す厚真町産業経済課の担当者
「森林管理のために林道は重要」と話す厚真町産業経済課の担当者

■住民の合意形成が重要

 一方で、道や町の限りある財源の中で、山林再生の事業にどれだけの資金を投じられるかは難題だ。厚真町の支援活動に取り組んだ金子教授は環境分析の専門家でもある。「林道の維持管理には多大な費用がかかる。林業への影響や生態系の保全などの視点からどこまで復旧させ、どこまでそのままにするのか。町がどう住民の合意を得ていくのかが重要」と指摘する。

 「町民の合意形成のため、議論の基となるデータの提供を続けていきたい」

 金子教授は、今後もドローンや人工衛星の画像を利用し、被災した山林を分析していく。
文・写真・動画/佐藤圭史(報道センター)
動画/畠中直樹(デジタル編集委員)

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