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暮らしと法律

<弁護士に聞く>コロナ禍で「家賃が払えない」「支払われない」 借り主、貸し主が心掛けるべきポイントは

写真はイメージです  Photo by iStock
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 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、収入が減少した家庭や事業主にとって、借りている物件の家賃が重い負担になっています。人が暮らしていく上で欠かせない住居や仕事場を失わないようにするためには、どうすればいいのか。また、貸す側の対応策は。国の家賃補助制度の具体的な中身や、「借り主」「貸し主」双方が心掛けるべきポイントなどについて、札幌弁護士会の中村逸美弁護士に聞きました。(聞き手 梶山征広)

■現実的で有効だったあるケース

――コロナ禍に伴ってクローズアップされるようになった課題の一つに、家賃問題があります。収入減により、家賃の支払いができないケースが多発していると聞きます。

 私が所属する法律事務所で直接相談を受け、対応した案件の中に、札幌市内のビルのケースがありました。ビルに入居している複数の飲食店のテナントが営業休止に追い込まれたことから、家賃の支払いが苦しくなり、貸し手と話し合いを持ちました。事務所は、貸し手側の代理人として対応しました。

――協議の結果は。

 テナントによって、合意内容は異なりますが、貸し手側が家賃の支払いを猶予したほか、減額に応じた金額分を「敷金」で相殺するという対応が実現しました。敷金は通例であれば、退去時の原状回復費用に充てられる資金です。貸し手側の理解がなければ、この敷金と家賃の相殺は実現することがなかったでしょう。双方の話し合いでそういう結論に至ったとはいえ、非常に珍しいケースだと思います。

 家賃交渉が決裂した場合、物件からの退出を余儀なくされる店子(たなこ)側の損失はかなり大きなものになるでしょう。一方の貸し手側にとっても、一時的に生じた不都合から定期的な収入を失う事態は、長期的に見て得策とは言えません。家賃問題では、借りる側と貸す側の双方がしっかりと話し合い、解決を図りながら、国の支援制度を活用していく方法が、現実的かつ有効だと思います。
                 
――国の家賃支援制度には、どのようなものがあるのでしょうか。

■大きく2種類の制度

 大きく分けて2種類の制度が設けられています。個人向けには、生活困窮者自立支援法に基づく「住居確保給付金」があります。事業主や法人については、経済産業省が「家賃支援給付金」の導入を決め、2020年7月14日から申請を受け付けています。

――札幌市保護自立支援課によると、住居確保給付金については20年度(4~6月)、同市内で789件の申請がありました。前年同期比で約87・7倍の急増ぶりです。

 この給付金はそもそも、厚生労働省が従来から行っている生活困窮者自立支援制度の一つです。原則3カ月間、最長9カ月間の家賃相当額を支給する内容です。これまでは離職や廃業によって収入減となった世帯が対象でしたが、国は20年4月下旬、新型コロナウイルスの影響に伴う休業などによる収入減世帯にも対象を拡大しました。それが申請急増の大きな要因でしょう。

by iStock
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――具体的な要件や、家賃額について教えてください。

 支給要件となる月額の世帯収入(基準額)や、預貯金の合計額(資産基準額)、ひと月の家賃額の上限などは、居住する市町村や世帯人数によって異なります。受付窓口となる道内各地の「自立相談支援機関」や、市町村などで確認してもらえればと思います。

 ちなみに札幌市内の4人世帯が給付金を受ける場合は、月額の世帯収入基準額21万4千円と、ひと月の家賃の上限額を合計した金額が「26万円以下」でなければなりません。さらに、預貯金額が「100万円以下」という要件もあります。その上で、支給される家賃の上限は月額4万6千円になります。

 あと、家賃は申請世帯に支給されるのではなく、貸し手である家主に直接支払われるという点にも注意する必要があるでしょう。

■家賃支援給付金ポータルサイト

――今の話では、家賃の上限を支給されたとしても、支払うべき家賃を全額賄えないケースもあるかと思いますが…。

 ご指摘の通り、給付金の支給額が実際の家賃より安い場合があると思います。そこで、収入減に直面している方には、家賃のみならず、各種支払いを見直すことが大切でしょう。公共料金については支払いを猶予してもらえるケースがあるほか、新型コロナウイルスによる減収見込みであれば、国民年金・国民健康保険の保険料の減免が受けられる可能性もあります。また、道内各地の社会福祉協議会などが窓口となって、緊急小口資金や総合支援資金の貸し付けを受けられるケースもあるかと思います。

――事業者向けの「家賃支援給付金」は、どんな制度ですか。

 これは、新型コロナウイルスで20年5~12月の月間売上高が前年同月比で半減するなどした法人(資本金10億円未満)に最大600万円、フリーランスも含む個人事業主に同300万円を支給する制度です。オンライン申請が原則で、経済産業省が専用のホームページ「家賃支援給付金ポータルサイト」を開設し、申請を受け付けています。

 申請期間は21年1月15日までです。電子申請が困難な人向けの「申請サポート会場」も、道内各地に設けられています。完全予約制なので、開設される場所や時間などをポータルサイトで確認し、申し込んでください。

■貸主には固定資産税減免制度も

――これまでは借りる側を中心に話をうかがってきましたが、コロナ禍の影響は貸す側にも及んでいます。冒頭の案件のように、双方の話し合いで解決策を見つけるのがベストだと思いますが、何の相談もなく、家賃滞納に直面するケースもあるかと思います。

 家賃の滞納があった場合、貸し手は賃貸借契約上、借り手に対して家賃の支払いを請求できます。しかし、賃貸借契約は、貸し手と借り手の信頼関係に基づいて行われるものと考えられているため、支払いが1カ月滞ったからといって、退去が即刻認められるわけではありません。

 一般的には、賃料を2カ月から3カ月ほど滞納すると「双方の信頼関係が崩れた」と考えられることが多いかと思います。これを法律の世界では「信頼関係破壊の法理」と言います。その場合、貸し手が借り手に対し、契約解除を主張し、退去請求ができるようになります。

――もし、借りている側から家賃の減額や、支払い猶予などの申し出があった場合、貸し主が取るべき対応は?

 賃貸借契約書に、家賃の減額や支払い猶予について協議する旨の条項があれば別ですが、一般的にはそのような条項は想定されていないでしょう。そうであるならば、貸し手が借り手の申し出に必ず応じなければならないという義務はありません。

 ただ、中小事業者などの不動産所有者らがテナントの賃料の支払いを減免したり、猶予したりした場合は、国の固定資産税減免制度を利用できる可能性があります。

――減免制度の具体的な条件は?

 この減免制度を受けるためには、3カ月分以上の賃料を、それぞれの賃料の支払期限から3カ月以上猶予していることが必要になります。元の賃貸借契約書とは別に、新型コロナウイルスの影響で賃料の支払いを猶予したことを明らかにする覚書などの文書を用意する必要があります。

 国土交通省がホームページで紹介している覚書の一例をみますと、「新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、収入が減少していること等に鑑み、甲(不動産所有者等)が乙(取引先)を支援する目的において、以下の通り合意した」「第1条 原契約第●条に定める賃料について令和2年▲月▲日より令和2年■月■日までの間の賃料の×割(全額)の支払いを猶予する」などの文言が記載されています。

■支援策は日々更新 情報収集を

――新型コロナウイルスに起因する経済の停滞は今後も続く恐れがあります。家賃問題に関連して、今のうちから準備しておくことはありますか。

 貸し主が既に家賃の猶予や減額を行っている場合は、書面に実施期間を明示して残しておくことが大切でしょう。また、これは借り主にも言えることですが、新型コロナウイルスの支援策は日々、更新されている状況です。コロナ関係の情報を公開している省庁・自治体などのホームページや、新聞などの報道を日ごろから注視するなど、情報収集を心掛けることが大切だと思います。

――情報収集を進めつつ、実際に法律に絡む問題が発生した場合は、どこに相談すればいいでしょうか。

 各弁護士会では、新型コロナウイルスに関連する法律相談を受け付けています(札幌弁護士会は無料相談あり)。手始めとして、まずは窓口で相談してもらう形がいいかと思います。

中村逸美(なかむら・いつみ)弁護士>札幌市出身。北海道大学法学部から同大法科大学院に進み、16年に司法試験合格、17年に弁護士登録。札幌ポラリス法律事務所所属。同級生の男性と昨秋、結婚し、同市内で暮らす。歌手は福山雅治、俳優は大泉洋のファン。中学時代に陸上競技に取り組んだことから、駅伝やマラソンなどのスポーツ観戦を楽しんでいるほか、現在放映中のTBS日曜劇場「半沢直樹」など、テレビドラマの観賞が余暇の息抜きとなっている。


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