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山の神と川の神

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春になると、山の神は里に下り、川の神となって田植え作業を見守った。秋になると、瑞穂(みずほ)の実りを確認して山に帰り、炭焼きを手伝ったという。熊本県の球磨川に伝わるヤマンタロウ、カワンタロウの民話である▼時に悪さも働くカッパはカワンタロウの化身だそうだ。そこには、氾濫を繰り返しながらも、森林の栄養分を運び、肥沃(ひよく)な土地を作った球磨川に対する地域の人々の畏れと感謝の念がある▼自然の摂理に順応し謙虚に生きてきた日本人の自然観は、助けてくれる神と災難をもたらす荒ぶる神という矛盾を受け入れることであったという(「洪水と水害をとらえなおす」大熊孝著)▼緩やかな氾濫で被害を分散し、軽減する越流堤「野越(のこし)」は壊滅的災難を避けるという発想に基づく。盛り土して床上浸水を防ぐ「水倉」は水の力を受け流す工夫といえよう。いずれも治水の限界を直視した知恵だ▼九州を中心に記録的豪雨で多数の犠牲者が出た水害は、被害が集中した球磨川の氾濫から1カ月が過ぎた。コロナ禍の影響もあり、復旧は道半ばだ。今後は、台風への備えも急がねばなるまい▼近代的科学技術の導入で自然の制御にかじを切った明治以降、見失ったことはないだろうか。「自然と乖離(かいり)した日常生活の快適さは見せかけにすぎず、非日常の災害という形でしっぺ返しを受ける」。大熊氏の警鐘が重く響く梅雨明けの列島である。2020・8・4

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