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第九章 本心

 「すごいですね。……朔也(さくや)さんが書いてくれたんですか。」
「ああ、ええ。」
「はい、これだったら、わかりやすいです。」

 ティリは、印刷された文章を少し読んで言った。
「妹さんやご両親とも、よく話し合ってみてください。」
「はい、お父さんのユニオンの人も、この学校のこと、知ってました。」
「あ、本当ですか?」
「はい、いい学校だと言ってました。」
「良かった。見学して気に入らなければ、別の場所を探してもいいですし。調べてみた限りでは、ここが一番、評判が良さそうでした。応対してくれた代表の方も親切でした。」

 前菜のサラダが来たので、細かな説明は、一旦(いったん)後回しになった。

 僕は、NPOの代表に連絡を取った際、併せて、僕自身もインターンとして働きたいという希望を伝えていた。女性の代表は、意外そうな反応だったが、福祉への僕の関心を、母子家庭という自分の境遇と併せて説明すると、
「そうですよ、日本人対外国人の問題じゃなくて、社会の格差の問題ですから、これは。」

 と溌剌(はつらつ)とした声で言われた。僕は、その声の響きに打たれ、自分は、こういう人たちと関わりながら生きていくべきなのだと感じた。他でもなく、僕自身が変わるためにも。

 イフィーとの仕事の準備として、僕は慈善事業について調べ始めていたが、すぐに、自分が、今のままではほとんど役に立たないことを痛感させられた。福祉についての基本的な理解も、財政的な知識もなく、実務経験も欠いていた。

 僕は初めて、自分が本当にしたいと思っていることのために、高校を中退してしまったことを後悔した。そして、大学で福祉について学ぶための貯金を始め、昨日、予備校のオンライン講座の申し込みをしたところだった。

 そのためには、イフィーとの仕事も辞めざるを得なかった。明日、僕はそのことを彼に伝えるつもりだった。いつか彼と、対等な立場で、改めて一緒に仕事をするために。

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