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<書評>52ヘルツのクジラたち

町田そのこ著

虐待や孤独、友情 まっすぐに
評 柴田聡子(シンガー・ソングライター)

 読んでいる間、ずっと涙が出た。この物語に描かれていることは虐待、孤独、友情など、そのような言葉で端的に表現することが出来(でき)るだろうし、そうしたことの実情について私たちが知り得る機会が増えてきたからこそ、こういう物語に出会ったなら、ひと時でも構わないから真剣に想像してみろ、自分、と言いたい。暗に、次に手に取るあなたへのプレッシャー。こんな風に言うけれど、作者が勇気を持ってまっすぐ親密に、かつ欲望を持ってエンタテインして(楽しませて)くださっているので、緊張せずスッと物語に入ってみてください。

 私の場合はちょっと身に覚えのありすぎる話だったので大泣きだったけれども、それが本の良いところでもある。思わぬところで響き合い、びっくりする。思い出す。じりじりした九州の夏の日。一人で暮らす女性の姿。恋はもう十分です、というため息。死んでしまった友人と殺したかもしれない私。それを責めない友人。ひどく傷つけ合ってお互いを最果てまで連れて行かんとした恋人。自身と誰かのために作戦を練り、ついに大冒険に出る。情熱の向かう先を諫(いさ)めてくれて、ほっとする現実。ついでに小倉には縁があり、自分も物語の中に出てくるあの観覧車を、呆然(ぼうぜん)とした気分で遠巻きに何度か眺めた。爆竹の破裂を見るような筆致には、すごく「今」の匂いがする。過去の物語も良いけれど、今の物語を体験することは大切だと思う。

 登場人物みな、確かな答えが出せない道のりを、人と人同士で一緒に居るということで何とか歩いていく切なさのリアリティーは堪(こた)える。そんな中、たった一人毛色の違う人がいたのでよく覚えている。独り寝を貫く美音子(みねこ)ちゃん。彼女の愛情にはしっかり答えが出ていた。そしてそれは賢く正しく、心の底から同感。だけど、生きてきてこの方、美音子ちゃんのような人に出会ったことが無い。どこに居るのかな。私は、彼女のような愛情を実践したくてシングルベッドを買って部屋に置いた日から、いつもどこか、やっぱセミダブルにしたらよかった、と思って暮らしている。(中央公論新社 1760円)

<略歴>
まちだ・そのこ 1980年生まれ。「カメルーンの青い魚」で「女による女のためのR―18文学賞」大賞。著書に「うつくしが丘の不幸の家」など

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