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暮らしと法律

疎遠、音信不通、不和… 親族間で遺産分割協議がもめるケースと対処方法

 関係が疎遠だった親族が亡くなり、「あなたは相続人です」と突然連絡が来たら、どうすればいいのでしょうか。あるいは、音信不通の親族が見つからないために、遺産分割協議が始められない状況もあります。何十年も顔を合わせていなかった親族との話し合いは難航することも。具体的にどのような事例があるのか、どう対処すればいいのかを、札幌弁護士会の小林加弥弁護士に聞きました。(聞き手 小林基秀 グラフィック 髙橋智子)

写真はイメージです Photo by iStock
写真はイメージです Photo by iStock

――まず、法定相続人の範囲と遺産分割の割合をおさらいしたいと思います。

 亡くなった人(被相続人)の配偶者は常に相続人です。その上で、子(第1順位)、子がいなければ父母(第2順位)、父母もいなければきょうだい、つまり兄弟姉妹(第3順位)の順に相続権が発生します。

 配偶者と子の場合は、配偶者が2分の1、子が2分の1で、子が複数いれば、この2分の1をさらに均等割りします。

 配偶者と父母の場合は配偶者が3分の2、父母が3分の1で、両親ともいれば3分の1をさらに折半します。

 配偶者ときょうだいの場合は配偶者4分の3、きょうだいが4分の1で、きょうだいが複数いれば、この4分の1をさらに均等割りします。
配偶者が被相続人よりも先に亡くなっていれば子、子がいなければ父母、父母もいなければきょうだいという、同じ順位の中で均等割りします。

 配偶者のほかに相続人がいない、つまり子も父母も兄弟姉妹もいなければ、配偶者がすべて相続します。

■こじれるケース①

――突然、「あなたが相続人ですよ」といわれるのは、どのようなケースが多いのでしょうか。

 よくあるのは、疎遠の親族が亡くなった場合や、子供の頃に離婚して連絡を取っていなかった親が亡くなった場合です。

――その中でも、遺産分割協議が複雑になる、こじれてしまうのはどんなケースですか。

 被相続人に子供も父母もおらず、配偶者ときょうだいに相続が発生したとします。しかもそのきょうだいが被相続人より先に死亡していたら、死亡したきょうだいの子たち(甥や姪)に相続が引き継がれます(代襲相続)。

 ただでさえ甥や姪にとっては唐突な相続なのですが、その相続が決着しないうちに、被相続人の配偶者も亡くなった場合、配偶者の持っている被相続人の相続分が今度は配偶者のきょうだいにいってしまい、被相続人の甥姪と被相続人の配偶者のきょうだいが相続人となるといったケースは、こじれやすいですね。


――それは、遺産が不動産などすぐに現金化できず、遺産分割が速やかにできない場合ですか。例えば遺産が現金またはすぐに現金化できるものばかりであれば、法律に基づく割合で遺産分割するのは難しくないのでは。

 確かに、現金よりも不動産など分割が難しい遺産の方が協議は大変ですが、現金だけの場合でも、もめるケースはあります。例えば、音信不通だった相続人が、法律で決められた通りの割合で財産分与を求めた場合、被相続人が亡くなるまで近くで面倒を見ていた相続人が「何も世話をしなかったのに権利だけ主張するのは納得いかない」と抵抗するケースがあります。

■世話した程度では難しい

――その場合、どうやって解決するのでしょうか。

 面倒を見たと主張する相続人に多く配分することに、その他の相続人が同意すれば決着しますが、実際には「世話をしたかに関係なく、法定分をもらう権利がある」と主張して決裂することも多いです。決裂した場合、遺産分割をするためには家庭裁判所に対して遺産分割調停を申し立てることになります。調停員が「実際に面倒を見た人に配慮してあげたら」という話はするかもしれませんが、他の相続人が納得しなければ審判に移行し、審判で決着を付けます。

 審判では、被相続人の財産を維持または増やしたということに通常期待される程度を超える程度に寄与したと立証ができるレベルでないと配分増はなかなか認められません。世話をしていたという程度では難しいでしょう。それでも審判まで行くケースには、法律論と言うよりは、気持ちの面でこじれるケースもあります。

■こじれるケース②

 さらに、「突然、相続人になる」というよりは、「突然、相続分が降ってくる」ケースもあります。例えば、Aさんの夫Bさんの兄Cさんが亡くなったとします。BさんとCさんは2人兄弟で両親は既に他界。Cさんには妻Dさんがいて子供がいない場合、Cさんの遺産は配偶者のDさんが4分の3、Cさんの弟であるBさんが4分の1を相続します。BさんとDさんの遺産分割協議が終わらないうちに、Bさんが死亡したとすると、Aさんには夫のBさんが相続するCさんの遺産の4分の1が相続されることになります。Aさんにとって夫Bさんの相続は突然ではありませんが、血のつながりがないCさんの遺産4分の1の相続分が降ってくる、ということになります。


――夫婦のどちらが先に死ぬかで、相続額が大きく変わるのですね。例えば、共働き夫婦がそれぞれ1千万円の財産を持っているとします。子供はおらず、共に両親は他界し、夫には弟1人、妻には妹1人がいる。夫が先に死亡し、直後に妻が亡くなった場合を考えます。夫が死亡した時点で、妻が夫の財産1千万円の4分の3の750万円、夫の弟が残り4分の1の250万円を相続します。その直後、妻が死亡した時点で妻の妹が妻の全財産1750万円を相続することになり、夫の弟の相続額250万円と1500万円もの差が出る計算になります。死亡時刻の差が1分でもあれば、これが適用されるのでしょうか。

 その通りです。亡くなった瞬間に相続の権利が発生するという概念なので、わずかなタイミングの差であっても、夫婦のどちらが先に亡くなったかで相続分は変わります。

■こじれるケース③

 また、2人同時に同じ事故や災害に遭遇した場合などで、どちらが先に亡くなったかがわからない場合は「同時死亡の推定」といって、法律上、同時に死亡したものと推定され、推定を受ける人同士は互いに相続が発生しません。互いに存在しないものとして相続分を考えます。この事例では、妻の妹、夫の弟がそれぞれ1千万円を相続します。もっとも、どちらが先に死亡したのかがわかる証拠があれば、この推定を覆すことは可能です。


――そもそも、亡くなった配偶者(被相続人)のきょうだいが何人いるか、どこにいるか把握していなかった場合、どうやって調べるのでしょうか。戸籍謄本ですか。

■自分の知らない前妻の子 認知した婚外子

 はい。亡くなった配偶者の戸籍謄本、そこから配偶者の親の戸籍謄本を取得して、きょうだいの存在を調べます。詳しく説明すると、通常はまず被相続人の出生から死亡までの戸籍を取得し、子(第1順位の相続人)がいないことが判明したら、第2順位の相続人である親の戸籍を取得し、生存している直系尊属がいないことが判明すれば、被相続人の両親の出生から死亡するまでの期間すべての戸籍謄本を取得して、第3順位であるきょうだいの存在を調べます。そして、死亡しているきょうだいがいれば、甥や姪の存在を戸籍謄本で調査します。

 被相続人の配偶者としては、自分たちの間に子がいなことがわかっていても、死亡した被相続人には自分の知らない前妻の子や、認知した婚外子がいることもありますので、いきなりきょうだいが相続人であると決めつけるのではなく、被相続人の出生から死亡までの戸籍を取り寄せて、順を追って調べていきます。

 なお、きょうだいの住所は戸籍の附票で調べます。ただし、戸籍の附票が請求できるのは、本人またはその配偶者、父母、子、など直系の親族に限られており、相続調査であっても他の相続人の戸籍の附票まで当事者の委任状なしに取得することができないケースもあります。

 このような場合、弁護士や司法書士、行政書士は職務上請求で取り寄せることが可能ですので、専門家に依頼することをお勧めします。

――戸籍謄本で法定相続人を確認できたとして、どうやってその人に連絡するのですか。謄本に電話番号は書いていないので、手紙を書くのでしょうか。

 一般的には手紙を書いて、被相続人が亡くなったことやその人が相続人であることをお知らせして、遺産分割の協議を申し出ることになります。

――法定相続人を探し出せなかった場合、あるいは通知したけど返事がない場合、他の相続人はどのような対応をすればいいのですか。

 分割協議をするには、すべての相続人が協議に参加しなければならず、連絡の取れない相続人を除外して協議することはできません。相続人が行方不明で連絡が取れない場合には、家庭裁判所に対し不在者財産管理人選任の申し立てをして、行方不明の相続人にかわって不在者財産管理人に遺産分割協議に参加してもらいます。

 また、行方不明となってから7年以上経過している場合には、家庭裁判所に対して失踪宣告の申し立てを行います。失踪宣告を受けた人は死亡したものとみなされます。

 また、行方不明ではないものの、通知をしたけど返事がないような相続人がいる場合は、家庭裁判所に対して遺産分割調停の申し立てをして、裁判所での話し合いをします。ただ、調停はあくまで話し合いなので、話し合いが成立しない場合や調停に出てこない相続人がいる場合には、調停は不成立となり、審判手続に移行します。

 遺産分割協議には期限はありませんが、相続を放棄する場合には相続があったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所で手続きをする必要があります。突如として自己が相続人であることを知らされた人であれば、知った時から3か月以内に相続放棄の手続きを行えば大丈夫です。

暮らしと法律2019年10月3日公開「相続と放棄、どちらがお得?」

■資産家が死亡した場合

――資産家が死亡したとします。相続人の誰かが死亡に気付けば、遺産分割のために他の相続人を探すでしょうが、相続人全員がその資産家と音信不通だとすると、誰が相続人に資産家の死亡を知らせるのでしょうか。

 法定相続人がいるかいないか分からない場合は、利害関係人から家庭裁判所に対し、相続財産管理人選任の申し立てがあれば、家庭裁判所が相続財産管理人を選任し、相続財産管理人が相続人や受遺者(遺言により財産を受ける人)、相続債権者(亡くなった人にお金を貸していた人など)を探します。

 相続人がいない場合、亡くなる前に療養看護など世話をしていた人や内縁関係にあった人などの「特別縁故者」は、家庭裁判所に対し、特別縁故者に対する財産分与の申し立てをすることができます。家庭裁判所が特別縁故者と認めれば、財産分与されます。法定相続人も特別縁故者もいなければ、遺産は最終的に国庫に入ります。

――この場合、相続財産管理人の選任を裁判所に申し立てる人がいないこともあり得るのでは。

 自分が特別縁故者に当たるのではないかと思う人が申し立てるケースもあるでしょう。また、この資産家にお金を貸していた人がいたとすれば、相続人に返済を求めるために申し立てることもあり得ます。ただ、こうした利害関係者がまったくいなければ、遺産が宙に浮くことはあり得ます。

――突然、相続人といわれるケースとしては、亡くなった人が、今の配偶者との子供のほかに、離婚した前の配偶者との間にも子供がいた場合が考えられます。この場合も戸籍謄本で確認して連絡するのでしょうか。

■出生から死亡まですべての戸籍が必要

 はい。法定相続人のうち一人でも遺産分割協議に参加していなければその遺産分割協議が無効となってしまいますので、離婚した前の配偶者との間の子供にも連絡をしなければなりません。このように、亡くなった人が離婚した前の配偶者との子供や認知した婚外子がいるかを確認する必要がありますので、被相続人に出生から死亡までのすべての戸籍を取得して調べる必要があります。

――本来は法定相続人である人が、自分が知らないうちに他の法定相続人だけで遺産を分割したことを後で知った場合、どうすればいいのですか。時効はありますか。

 遺産分割無効確認訴訟を起こすことになります。時効はありません。そもそも無効な遺産分割ですから、やり直さなければなりません。

――今の配偶者、前の配偶者の子供の相続割合は同じですか。さらに、配偶者とは別の人との間にも子供(婚外子)がいた場合、相続割合は同じですか。

 今の配偶者の子であっても、前の配偶者の子であっても、子である以上、相続割合は同じです。また、認知した婚外子については従来の民法では嫡出子の相続分の2分の1とされていましたが、2013年(平成25年)にその規定が違憲として撤廃され、現在は婚外子も相続割合は同じです。

――亡くなった人が、前の配偶者との間の子供や、婚外子への養育費を払うと約束していたのに、その義務を果たしてこなかったとします。その場合、前の配偶者や婚外子の親は、債権者として、遺産から養育費を後払いせよと請求することはできるのでしょうか。

 被相続人の未払いの養育費については債務として相続の対象となります。もっとも、養育費は5年で消滅時効にかかりますので、死亡までの直近5年分に限られることになります。支払いを求めることができる養育費は、あくまで被相続人の生前に協議や調停・審判で養育費の金額が定められていた場合に限られると思われます。

 また、今後の養育費については、養育費は一身専属権とよばれるもので、被相続人の死亡とともにその支払い義務も消滅しますので、相続人に対して支払いを求めることはできません。

■相続でもめないために

――相続でもめないためのポイントは何でしょうか。

 1点目は、遺言書をつくっておくことです。特に子がいない場合は特にお勧めします。亡くなった人(被相続人)の配偶者と、きょうだいの折り合いがいいとは限りません。これだけでもめる空気が出てくる。被相続人のきょうだいや甥、姪など相続人が多く、関係が疎遠な親族が多く出てくることも多く、トラブルになりがちです。

 2点目は、亡くなったら速やかに相続を完了させることです。先ほどの例のように、遺産分割協議が決着しないうちに、相続人の誰かが死亡すると、その相続の関係者が増えるので、協議がより複雑になります。
3点目は、相続人を戸籍で調べるのに時間がかかりそうなケース、相続人同士でもめそうな雰囲気がある時は、最初から専門家に依頼した方が良いと思います。

 <小林加弥(こばやし・ますみ)弁護士> 1986年旭川市生まれ。旭川東高から北大法学部に進み、北大法科大学院修了。2014年1月に弁護士登録。19年に現在のクラーク法律事務所を開設。趣味は料理や読書、美術館・博物館めぐり。特に宗教画に興味を持ち「絵の美しさだけでなく、描かれた人物や持ち物、場面などから絵に隠された画家の意図を探る謎解きが楽しい」。化石や鉱物、ミイラにも関心が高く「子供のころ三笠で採掘した化石は今でも宝物です」。今年2月には、東京で開催されたミイラ展にも足を運んだ。


<取材を終えて>

 「故人のそばで世話をしてきた親族も、音信不通だった相続人も、法律上の遺産相続の割合は同じ」。理屈は分かっていても、割り切れないのが人情というもの。小林弁護士が語った通り「遺産分割協議は、縁が遠いほど、ふだん交流がない人同士ほど、こじれる」のは理解できます。

 自分に置き換えて考えました。おじ、おばや、その配偶者、つまり義理のおじ、おばは面識があり、身内の意識もあります。ただ、義理のおじやおばのきょうだいにはお会いしたことはありません。そもそも何人いてどこに住んでいるのか知りません。そうした間柄で遺産分割協議をする際、自分が生活に困っていても「私は故人の世話をしなかったので相続は辞退します」と即断できる人ばかりではないでしょう。

 そこで、実際に私に財産が降ってくる親族がいるか考えてみました。結果は「可能性は限りなくゼロに近い」。取り越し苦労でした。(小林基秀)

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