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<書評>加害者家族バッシング

佐藤直樹著

非難の背景に 「世間」の目線
評 永田浩三(武蔵大教授)

 事件が起きるたびに、犯罪加害者家族に対するバッシングが繰り返される。「一生謝り続けろ!」「おまえも死ね」。和歌山毒物カレー事件の被告の家の壁にはひどい落書きがされ、その息子は、素性がわかるとレストランでの仕事を追われた。秋葉原無差別殺傷事件では、なんの関係もない弟の人生が激変し、自殺に追い込まれた。

 なぜこんなことが起きるのか。謎を解く鍵を、筆者は日本社会が持つ独特の「世間」という関係性に求めた。実は、中世ヨーロッパでも、犯罪が起きると家族ともども追放された。住民たちは家を焼き、立ち木を引き抜く。しかし、近代化とともにそんな慣習は消える。一方、日本では今日まで同様の仕打ちが続けられてきた。「世間」という考え方が幅を利かせる、それが日本社会だ。個というものは存在せず、集団が重んじられ、外れると制裁が加えられる。互いが互いを縛りあい、出る杭(くい)は打たれる。

 われわれにとって基本的人権は絵にかいた餅でしかないのか。ネット社会で現実に起きているのは、ねたみ・やっかみであり、それをメディアがあおり増幅させる。

 本書では、英国や日本の犯罪加害者家族の支援活動が紹介されている。英国では支援者への攻撃はまれだが、日本では、支援者さえ厳しいバッシングの標的となる。筆者は、こうした現象の背後に「呪術性」に基づくケガレの思想があるととらえている。加害者家族は、世間様に迷惑をかけるものであり、「なにをされてもかまわない」存在だというのだ。これは今の新型コロナウイルス禍のなかで、被害者であるはずの感染者や家族を、迷惑をかけたとしてたたく事態と重なるのではないだろうか。

 本書は処方箋を示してはいない。そのかわり、この惨状がどこから来るのかを読み解く丁寧な見取り図が示される。日本で初めて加害者家族支援のNPO法人を立ち上げた阿部恭子の言葉が紹介されている。「本来、生きるということは、少なからず人に迷惑をかけること」。そう、お互いに迷惑をかけあってこそ、ほんとうに豊かな社会だといえるのだと思う。(現代書館 1980円)

<略歴>
さとう・なおき 1951年生まれ。現代評論家、九州工業大名誉教授。専門は世間学、現代評論、刑事法学

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