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「陰性の父を助けられず」娘苦悩 85人感染の札幌・アカシアハイツ

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 新型コロナウイルスが集団感染した札幌市の介護老人保健施設「茨戸アカシアハイツ」。感染者は16日までに入所者64人、職員21人の計85人に上り、感染した入所者の多くは施設内にとどまる。行政が対応に苦慮する間にも、入所者の安否に苦悩する家族がおり、人員不足に追い詰められる職員たちがいる。今、何が起きているのか。

 「助け出せなくて、本当に申し訳なくて…」。父親が施設で暮らす女性は絞り出すように言った。

 施設によると、16日現在、施設内には入所者が71人おり、このうち40人が検査で陽性と判定されている。

 女性は4月下旬、父親が検査で陰性だったと施設から連絡を受けた。陽性の入所者は2階に隔離され、父親は今も1階の4人部屋で暮らす。「なぜ、同じ施設に」との思いは消えない。

 道のホームページ(HP)で、日々増え続ける施設の感染状況を確認。「いつ父の『陽性』連絡が来るか」とおびえながら暮らしてきたが、「泣き疲れ、苦しくて」、開けなくなった。

 数日前、母はようやく、父と電話で話すことができた。口数の少ない父は「もう、しっちゃか、めっちゃかだ」と言い、心配する母には「大丈夫だ」とも。

 女性は思う。「どんな対応が正解か、答えはないんだ」と。それでも「必死に頑張る職員の方や家族が、少しでも希望を持てるような、対策や言葉を聞かせてほしい」と願う。一人でも多くの命を救うために―。

■患者移せずコロナ拡大

 札幌市は最初の感染者が報告された先月下旬から、施設で療養させる方針をとり続けた。秋元克広市長は会見などで「介護が必要な方を入院させられる医療機関が非常に少ないのが現状」と強調。感染が拡大した4月下旬から5月上旬は市内の病床が逼迫(ひっぱく)していたことも挙げ、「施設で医療体制を維持し、介護サービスを受けてもらうことが良いと判断した」と釈明した。

 市は医師を施設に派遣し、国のクラスター対策班も感染防止策を指導した。だが施設は4人部屋が大半で、防止策は「カーテンを閉めるくらいしかできない」(施設関係者)。その後も感染は広がり続け、市保健所は「結果的にうまくいかない部分があった」と認める。

■人手不足 食事は2回

 「まるで戦場のような状況だ」。施設を運営する社会福祉法人札幌恵友会の幹部は言う。これまで介護士40人、看護師10人ほどが勤務していたが、感染や退職で看護師は全員不在に。現在は、札幌市から派遣された看護師ら計4人で対応し、介護士も通常の3分の1だ。

 人手不足から、入所者の食事は3回から昼夜2回に減らした。感染を広げないため、2週間以上風呂にも入れない状況が続く。感染を恐れ、車中で寝泊まりする介護士もいる。施設で亡くなった入所者は11人。幹部は「入所者が衰弱していくのに、できることは限られる。介護士の精神的負担も計り知れない」と嘆く。

■必死に介護 「もう限界」

 ある介護士は、感染が怖くて「逃げたい」と思ったことがあるという。だが、周囲で職員が次々感染する中、「自分まで抜けたら誰が入所者のお世話をするのか」と踏ん張ってきた。「みんな必死にやっているが、もう限界。感染者の入院が難しいなら、せめて医師や看護師を増やし、病院並みの態勢をとってほしい」

 市は、陰性の入所者を別の施設に移す検討に入り、16日には施設内に対策本部を設置。法人もHPで全国に向け、介護士や寄付の募集を始める。助言のため、4日に施設に入った北海道医療大の塚本容子教授は「医師や看護師を施設に派遣する手法が最も現実的だが、対応を施設任せにしすぎてきた。市は派遣態勢を改めて検討し、介護士の確保も主導すべきだ」と話す。(五十嵐俊介、川崎学、斉藤千絵)

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