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暮らしと法律

相続のトラブルを回避するために 知っておきたい遺言書の種類や効力、作り方


 相続に伴う親族間の争い、トラブル防止のためには、遺言書が重要な役割を果たします。一方、遺言書も決して万能ではなく、遺産分割が必ず書かれた通りに行われるわけでもありません。遺言書の効力とは、どのようなものでしょう。相続人がリスクを避ける秘策はあるのでしょうか。札幌弁護士会の橋本健志弁護士に聞きました。
(聞き手 升田一憲、イラスト 柿崎ぜんこう)

--そもそも遺言書とはどのようなものですか。ないと困るものなのですか。

 財産を相続される人、つまり残す人(被相続人)が、自分の財産を自分の死後にどう処分してもらうかについて、亡くなる前に自らの意思を示しておくことを遺言と言います。民法は、ごく一部の例外を除きこの遺言を書面で行うことを求めています。そのような民法のルールに従って遺言を記された書面が遺言書です。

 例えば、遺言書を残さずに被相続人が亡くなった場合、残された相続人は現金や土地・建物、車などの相続財産を、どうやって分けたら良いか一から話し合わなければなりません。一方、遺言書が残っていれば、遺産分割をする際のベースが既にあるため、無用の混乱を避けることができるでしょう。

写真はイメージです
写真はイメージです


 遺言書がない場合、相続人の範囲や優先順位、相続割合は民法の定めるルールに従うことになります。遺言者がそのルールと異なる形で遺産の分配を望むのであれば、遺言書を残しておくことが必要です。

■自筆証書遺言と公正証書遺言の違いは

--遺言書は代表的なものとして、自筆証書遺言と公正証書遺言があるそうですね。違いは何ですか。

 遺言の効力自体は両者に特段の違いはありません。それでは、どちらが良いか、それぞれに短所と長所がありますから、分かりやすく解説しましょう。

 自筆証書遺言は、名前の通り、自筆で作成した遺言書です。遺言を残したい人は遺言書の全文、日付、氏名を自ら書いた上で押印をしなければなりません。財産の目録を添付する場合、その目録は自署である必要はありませんが、目録の各ページにも署名と押印をする必要があります。もし書いた後に気が変わって内容を変える場合、少しややこしい作法が民法で定められています。このやっかいな方式ゆえ、変更箇所の効力を巡ってトラブルが生じることもあります。内容を変更する際は、可能であれば一から書き直しをする方が望ましいでしょう。

ーー欠点はあるのですか。

 遺言書をなくしてしまったり、他者による偽造、変造がなされたりする可能性があることです。「故人がこんな遺言書を書くわけがない」と相続人から言われる恐れもあります。筆跡では作成者の特定が難しかったり、「遺言者が終末期には字を書くことができなかったはずだ」という問題提起がなされたりという例もあり、注意が必要です。

 ちなみに、7月10日から、自筆証書遺言を法務局で保管してもらう制度も始まります。費用は3月31日付で法務省のホームページ(HP)に公表されております。安価ですので、自筆証書遺言の欠点が気になる方は、これを利用すると良いでしょう。

--では、公正証書遺言はどうですか。

 公証役場で専門家である公証人が関与し、作成する遺言書です。作法の不備で無効になる恐れが小さく、公証役場で保管されるため、偽造や変造の危険も少ないです。信頼性が高い半面、費用が数万円は掛かる例が多く、財産の価値や相続人の人数で費用はさらに上がることがあります。

■「長男に全遺産をー」 次男は?

--では、具体的に聞いてみます。父の死後、残された相続人が長男と次男の2人だけで、遺言書には「献身的に介護をしてくれた長男に全遺産を相続する」、次男には「何も与えない」と書かれていた場合、効力はどうなりますか。

 遺言書の効力自体には問題がなく、有効です。しかし、法定相続人(民法で定められた相続人。配偶者のほか第一順位は子や孫、第二順位は父母や祖父母など)には一定の遺産取得割合である「遺留分」が保障されています。遺留分は、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に認められています。被相続人の死亡で生活が困窮するおそれのある法定相続人を救う趣旨だと考えれば分かりやすいでしょう。遺留分は権利者の主張ではじめて具体的に問題となる性質の権利です。次男が何も言わなければ特段の問題は生じませんが、次男が長男に支払いを求めてトラブルとなる可能性もあります。

 仮に父親が死亡した時点で土地が1200万円、建物が800万円、車、預貯金がそれぞれ200万円の遺産があるとします。相続人が長男、次男の2人の場合、それぞれの法定相続分は2分の1ずつですが、被相続人の子に認められる遺留分割合は法定相続分に2分の1を掛けて算出するため、結論として次男に認められる遺留分割合は、2分の1掛ける2分の1で4分の1となります。今回の例では、総額2400万円の4分の1で遺留分相当額は600万円となります。

 ただし、次男が請求できるのは、金銭の支払いのみで、不動産の共有持ち分の移転や車の所有権を請求することはできません。もちろん、長男が600万円の現金をすぐには用意できない事態も想定されます。その場合には、支払期限の猶予を裁判所に求めることができます。


--遺言書に「社会福祉法人に全額を寄付する」と書かれていた場合はどうでしょうか。

 遺言で遺産の受取人として指定できるのは法定相続人に限らず、個人でも法人でも構いません。その遺言書も効力は有効です。遺言によって特定の人に遺言者の財産を無償で譲ることを遺贈と言います。ただし、先ほどの兄弟2人に当てはめて考えると、社会福祉法人への遺贈により遺留分を侵害されたことになります。兄弟2人は侵害された遺留分の限りでそれぞれの取り分を確保することが可能です。

--では、遺言書が2枚出てきた場合、どちらが有効になるのですか。

 出てきた遺言書の内容がお互いに両立するものなら、いずれも有効となります。例えば、1枚目で「車を長男に譲る」と車の処理についてのみ定められている一方、2枚目で「預貯金は次男に譲る」と預貯金の処理についてのみ定められている場合です。この場合、お互いに両立するため、いずれも有効なものと扱われます。一方、2枚を比べ、相続割合が異なる書き方をしていれば、両立しないため、日付が古い遺言書は新しい日付の遺言書で撤回されたことになります。この場合、新しい遺言書に従い相続することになります。

■遺言書の執筆を切り出すには

--遺言書は残された者がトラブルを回避するためにも大事なことがよく分かりました。最後に改めて注意しておくべきことがあれば教えてください。

 ご遺族に対する愛情が強すぎ、ご遺族への思いを手紙のように遺言書に書き連ねる方もおられます。それを優先するあまり法的に効力の生じない遺言書になっては元も子もありません。最も大切なことは残された方に面倒なことが起きないよう自身の財産状況をきちんと整理した上で法的に有効な遺言書を書くことです。残される方がトラブルを回避して円満になるような遺産の分け方を記した遺言書を生前のうちに残しておくことは、結果としてどんな言葉にも勝る最高の愛情表現となるのではないでしょうか。自らの思いをご遺族に残したい方は遺言書とは別に手紙を書いておけば良いのです。

--高齢の両親に遺言書の執筆を切り出すのは、ちょっと難しい気もしますが。

 高齢世代なら、本人の両親の相続で2回は相続を経験している方が多いのではないかと思います。「大変だったね」と共感を示しながら、寄り添うように話をしてみるのはいかがでしょうか。最近は終活がブームで、エンディングノートも広く知れ渡っています。ひと昔前と比べれば話しやすくなっているかと思います。お元気なうちにきちんと遺言書を書いておき、遺産分割の道しるべを残しておくことを推奨します。

橋本健志(はしもと・たけし)弁護士> 1991年生まれ。福岡市生まれ。福岡県立修猷館高、北大法学部を卒業。北大法科大学院修了。四季のはっきりした道内の風景に魅了され、2018年に札幌で弁護士登録。幼少時からサッカーに親しみ、ポジションはゴールキーパー。憧れはいずれもサッカー元日本代表の川口能活さんと楢崎正剛さん。


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