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<デジタル発>新型コロナ禍 シビックテッカーの4日間


文・写真/岩崎 志帆(報道センター・デジタルチーム)

<第1章>4日間の早業

 新型コロナウイルスの感染が広がる北海道。先行きの見えない不安に覆われる中、地元のIT(情報技術)エンジニアたちが立ち上がった。最新の感染動向が一目で分かる「北海道 新型コロナウイルスまとめサイト」を3月9日に公開。行政の公表する一次情報が視覚的に分かりやすく整理され、ユーザーから注目を集めている。提案から完成まで、わずか4日間。この試みは、市民や自治体、企業などが連携し、ITなどのテクノロジーを活用して社会貢献する「シビックテック(Civic tech)」としても注目される。それを実践した「シビックテッカー」たちの4日間を追った。(敬称略、年齢・肩書などは掲載時)

■「北海道版、作れないですかね?」

 3月5日。札幌市中央区のIT企業「infinite loop(インフィニットループ)」の執行役員を務める森雄大(44)は、新型コロナウイルスを巡る状況について憂慮していた。

 北海道内の感染者は100人に迫り、全国で最多。インターネット上では連日、不安ばかり強調する情報や、デマが飛び交っていた。

 「1人の道民としても、今の状況をしっかりと知りたい」。そんな思いが募る。

 3月5日午前10時10分。フェイスブック(FB)に、こんなメッセージを投稿した。

 「今こそオープンデータの活用タイミングなのではと思うのだが。。。。」

 公開されている正確な情報を、誰にでも分かりやすく伝える。そのことが、誤った情報やデマの拡散を防ぐ。そんな思いを込めた。

 すぐに反応があった。「東京都の、いい感じですね」

 そのころ、IT業界で話題になっていたのが、東京都の「新型コロナウイルス感染症対策サイト」だ。2日前の3月3日に開設されたばかり。患者数などが分かりやすくグラフ化され、今、どんな状況にあるのか、素人にも一目瞭然で分かる。

東京都の「新型コロナウイルス感染症対策サイト」
東京都の「新型コロナウイルス感染症対策サイト」


 制作した東京都は、サイトを設計するのに必要なプログラム(コード)を公開し、全国の各自治体にも制作するよう、呼びかけていた。

 別な人物も、このサイトに注目していた。

 3月5日午後4時2分。札幌のIT技術者グループ「CODE for SAPPORO(コード・フォー・サッポロ)」が情報交換用に開設しているチャットアプリ「Slack(スラック)」に、メンバーの1人、北海道職員で情報政策課の喜多耕一(48)が書き込んだ。

 「東京都のコロナサイト、フォーク(分岐)して北海道版作れないですかね?」

 公開されている東京都版のプログラムをもとに、北海道版を作ろう、という提案だ。

 メンバーで、全国グループ「CODE for JAPAN(コード・フォー・ジャパン)」のアドバイザーも務める古川泰人(45)が、すぐに反応する。

 「FB(フェイスブック)でも招集かけますー」。仲間に参加を呼び掛けた。

 古川は、札幌市白石区のIT企業「MIERUNE(ミエルネ)」の取締役で、「総務省地域情報化アドバイザー」として、オープンデータの普及や啓発にも努めている。

 3日5日午後6時すぎ、森もチャットに合流し、書き込んだ。

 「我々も同じことやろうとしてたところで、ならばご一緒にと」

 「情報をきちんとだして変な噂とかデマとか不安とかそういうのを緩和できたら」

 プロジェクトの参加者は、この時点で6~7人に増えていた。

 3日5日午後8時55分。当初からチャットの議論に参加していた渡島管内森町職員の山形巧哉(40)が、自身のツイッターでつぶやく。

 「今から始めよう、北海道のためのITを」

 「Do」に「道」を引っかけ、ハッシュタグを付けた「#JUST道IT」がチーム名となり、プロジェクトのイメージが固まる。

 「Just Do It」とは、「行動あるのみ」。

 山形は、ITを活用したまちづくりを先導する全国に知られた行政マンで、「内閣官房オープンデータ伝道師」や「総務省地域情報化アドバイザー」を務める。

■「見た瞬間、しびれた」

 北海道版サイトの構築は3月6日の金曜日夜から、3月8日の日曜日にかけて、一気に進んだ。

 東京都は、まとめサイトのプログラムを「GitHub(ギットハブ)」というインターネット上のプラットフォームで公開。「JUST道IT」のメンバーもここにアクセスし、共同で作業した。

 北海道などがインターネット上で公開している新型コロナウイルス関連のデータを、自動で読み込むシステムを開発。ウイルス検査で陽性となった人数や、札幌市保健所への相談件数など3項目のグラフと、患者の居住地・年代・性別の一覧表を作った。さらに、相談窓口などの連絡先にもネット上でアクセスできるよう、リンクを張った。

 サイトを周知する「アイキャッチ」も、一足早く誕生した。手がけたのは、札幌のグラフィックデザイナー木藤允博(39)。会員制交流サイト(SNS)で森の投稿を見て、手を挙げた。

 3月6日夜、デザインしたイラストをチャットに投稿。バットを手に脅威に立ち向かうキャラクターに、メンバーたちはうなった。

 「見た瞬間、しびれた」

木藤允博の作った「北海道 新型コロナウイルスまとめサイト」のアイキャッチ(illustlation by LITTLEKIT)
木藤允博の作った「北海道 新型コロナウイルスまとめサイト」のアイキャッチ(illustlation by LITTLEKIT)


 木藤はデザインの狙いを、こう語る。

 「僕はエンジニアではないけど、自分が貢献できることがあるなら、勇気を持って飛び込もう。そう思い、その勇気を表現した」

 このアイキャッチにひかれて参加したのが、最年少のメンバーで、旭川工業高専3年の吉沢太佑(18)だ。独学で学んでいたITのスキルを生かし、主にデータの変換などを担った。

 「これだけ大きなサービスをリリース(公開)するのは初めての経験で、勉強になりました。最初は緊張したけれど、メンバーはみなさん話しやすい方ばかりで、すごく楽しみながら参加させていただきました」と語る。

 一連の作業は、総勢十数人が手分けし、3月8日夜、サイトはおおむね完成した。

 喜多が3月5日夕にチャットで北海道版の制作を提案してから、約80時間。4日足らずの早業だった。

 週明け3月9日の月曜日正午、サイトを公開した。多くの人に知ってもらうため、拡散用に立ち上げたツイッターに、メンバーたちは、こう投稿した。

 「週末物凄いスピード感で進み、ついに本日、みなさんに公表できることになりました!!」

 高揚感あふれるその行間に、完成させた手応えと達成感がにじむ。

完成時のツイート画面。万感の思いがこもる
完成時のツイート画面。万感の思いがこもる


 反響は大きかった。サイトの閲覧数は、公開後2週間の23日時点で29万回を超す。「素晴らしい」「こんなデータも載せてほしい」―。さまざまな声が寄せられた。

 患者数などのグラフは、「累計」「日別」のタブをクリックするだけで表示が切り替わる。二つの視点から視覚的に、現状を把握できる。

 3月9日の公開後も更新し、検査数や治療終了者数などのグラフを追加した。

「北海道 新型コロナウイルスまとめサイト」のトップページ(3月23日)
「北海道 新型コロナウイルスまとめサイト」のトップページ(3月23日)


 3月11日午後3時ごろ、「JUST道IT」の森、古川、山形がビデオ通話アプリを通じ、顔をそろえた。記者も、森の会社で通話に参加した。

 「顔を見るの、2年ぶりかな?」

 森と山形は、久しぶりの「対面」だ。サイトの構築中、メンバー同士、誰も顔を合わせていない。

ビデオ通話で顔を合わせた森雄大(右)と、古川泰人(画面)
ビデオ通話で顔を合わせた森雄大(右)と、古川泰人(画面)


 北海道版開設の意義を、3人はどう考えているのか。

■「シビックテック」が形に

 情報共有の場となったチャットを運営する「CODE for SAPPORO」は、主に市民が主体となり、テクノロジーで地域課題を解決する「シビックテック」に取り組む。

 今回のプロジェクトは、まさに「シビックテック」の好例と言える。「CODE for SAPPORO」の運営メンバーも務める古川は、まとめサイトの実現を、こう総括する。

 「世界共通の脅威に対し、テクノロジーとデータで立ち向かおうという思いで連携できた」

 行政がホームページで、せっかく情報発信しても、聞き慣れない行政用語が多く使われていたり、デザイン的に見にくく、必要な情報にたどりつけなかったり、市民に十分伝わりにくいことも多い。

 古川は「現状をいつまでも把握できないと、社会にモヤモヤが広がる。広く公開された『オープンデータ』を即座に分かりやすく伝えることは、データの透明性や信頼性を高める」と強調する。

 森も「患者数だけではなく、治った人の情報もしっかりと発信したかった」という。

 山形は、ビデオ通話の画面の向こうで、熱っぽく語った。

 「今回の経験を生かすことで、災害などの困難に社会が直面したとき、オープンデータを活用した支援に、多くの人が関われるかもしれない」


 なぜ、北海道版が生まれたのか。第2章は、その原点とも言える9年前の東日本大震災にさかのぼります(3月31日午前11時に公開します)。

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