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<書評>ロマノフの消えた金塊

上杉一紀著

実証徹底 日本との関係も究明
評 大島幹雄(ノンフィクション作家)

 かつて帝政ロシアは、世界2位の金保有を誇っていた。このほとんどはロシア革命後、ボリシェビキ政権によって押収されるが、その中の一部500トンの金は奪還され、シベリアに樹立された反革命政府のものとなった。この金塊と金貨は、換金のためシベリア鉄道で西から東へ輸送され、さまざまな思惑を秘めながら、シベリア各地や中国大陸、さらには日本まで漂流することになった。

 本書はロマノフ金塊と呼ばれた、現在の価値でおよそ2兆5千億円にのぼる莫大(ばくだい)な資金源の行方を追ったノンフィクションである。戦争や革命、内戦という激しい時代のうねりの中で起こった事件だけにさまざまな説が飛び交い、事件の全貌はまだ明らかにされていない。ミステリー小説の格好の題材となっている、ある意味ロマンを秘めたこのテーマを、長年テレビ制作の現場で数々のすぐれたドキュメンタリーを作ってきた著者は、冷静に史実のピースを拾い上げ、そしてそのひとつひとつを丹念に検証していくことで事実に迫ろうとする。

 その徹底した実証主義によって、シベリアを横断する形で東に運ばれた金塊の複数の“地下水脈”を掘り起こすことになった。さらに一つ一つの水脈で流れていた金塊の実際の数量を割り出すことによって、500トンの金塊の流れをほぼ完璧につきとめることに成功する。この検証過程が、ミステリー小説を読むよりはるかにスリリングで、興味をそそられる。

 注目すべきは、白軍の司令官としてその名は知られているものの、ほとんどベールに包まれていたコルチャークとセミョーノフという2人の人物像が明らかにされたことである。そしてそこから2人が作り上げた大きな水脈が特務機関や軍部を通じて日本にたどりつくことも浮き彫りにされる。シベリア出兵により極東・シベリアに数万の軍を派遣していた日本がこの金塊の運命に深くかかわっていたのである。ロマノフ金塊の行方を追う中で、秘められた日露関係の闇の部分もあぶり出されることになった。ロマノフ金塊の謎を解く決定版となる一冊だ。(東洋書店新社 2420円)

<略歴>
うえすぎ・かずのり 1953年生まれ。北海道テレビ放送(HTB)で主に報道畑を歩き、ニュースやドキュメンタリーの制作にあたる。同社元取締役

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