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③公立はこだて未来大教授 美馬のゆり氏

 急速な人口減少など苦境が続く北海道の活性化に向けたヒントや、それを実行するために必要なこと、人材育成のあり方などについて、公立はこだて未来大の美馬のゆり教授(59)に聞いた。(聞き手・合津和之)


就業機会の少なさ、人口減少生む

 ――道内は全国の中でも人口の減少幅が大きいなど危機にひんしています。なぜでしょう。

 「就業機会の少なさが問題です。札幌周辺は別として、多くの町村では企業自体が少なく、大卒者の最大の就職先は役場というところもたくさんあります」

 「また、道内の4年生大学への進学率は全国に比べて低く、特に女子の低さが目立ちます。大学に行くだけが人生ではありませんが、高等教育を受けるということは生涯賃金が上がるなど個人の利益になりますし、知識を持った人が増えることは社会的利益にもつながるのです」

豊富な資源と専門的研究結びビジネスに

 ――働く場がないなら起業すれば良いという指摘もあります。

 「日本では起業するというと『アイデア一つで一発逆転』という印象がありますが、米国では博士号を持っている人が経営の専門家と一緒に起業する事例が多い。専門知識を持ち、自分の研究分野の将来をある程度展望しつつ、ビジネスにつなげています。道内でも、観光や農林水産物などの資源が多くあり、例えば、そうした分野での専門的な研究と商品開発を結び付ける人を育てたり、支援したりする仕組みが必要です」


イタリアの大学に「ワインバンク」

 ――参考になる事例はありますか。

 「イタリア北部のブラ市には、スローフード協会が設立した食科学大学があります。付属研究機関として『ワインバンク』があり、イタリア各地のワイナリーのワインを貯蔵して管理する。適切な段階まで熟成して価値が高まった時点で、生産者に出荷を促します。世界中から学生が集まるだけでなく、ワインバンクの講義を受講する訪問者も多い。宿泊施設も併設され、活気があります」

「ガストロノミーツーリズム」の流れ

 「スペインの美食の街として知られるサン・セバスチャンの『バスク・クリナリー・センター』という大学では、学生が作ったコース料理と配膳サービスを提供するレストランが学内にあるほか、世界中から集まった学生が実習として、企業から依頼を受けて研究しながら、高級ハーブ塩などの加工食品を開発し、企業は大学の認証マークを付けて販売しています」

 ――経済効果は。

 「企業が集積しつつあり、世界各地からの観光客も増えています。現在、観光分野では、地域の食文化に根付いた食材や料理を体験する『ガストロノミーツーリズム』が世界の流れとなってきています。人口約18万人のサン・セバスチャンは三つ星シェフが3人いるほか、地域のレストランが競い合って料理人のレベルが底上げされています。バル街が日常的に開催されて観光客は回遊し、美食のマチとして知名度が高まって国際会議や学会も数多く誘致しています」


 ――道内で取り入れるために考えるべきことは。

 「付加価値や生産性を高めるのはもちろんですが、賃金を上げなければならないと思います。現状では安すぎるため、一定以上のサービスができる人材が不足しています。また、企業経営者の先端技術やICT活用への関心が低いのも問題です。新しい技術を理解して活用していくなど、デジタル化に対する投資を継続的に行う必要があります。調理人のスキル向上も不可欠。産学官が協力してこれらを学び足す仕組みや制度を作っていくことが、北海道が生き残るために必要ではないでしょうか」

多様性ある凡人集団で新たな価値を

 ――北海道には豊かな資源や魅力があるのに、こうした取り組みが進まないのはなぜですか。

 「20年後の将来ビジョンを描いている人がいない。この危機的な状況にあって、複数の人がチームとなって進むべきグランドビジョンを描いて共有しつつ、その方向に向かってみんなで進もうとすることが重要だと思います」

 ――人材も必要ですね。

 「業種、年齢、文化などの違いを理解しつつ、新しい価値を生み出していくリーダーが必要。現在は、課題を見つけて共同で解決していくリーダーシップが世界中で求められています。凡人の集団は孤高の天才に勝ります。チームだからこそ出てくるアイデアがあります。北海道を変えるチームを作るなら、『俺についてこい』というリーダーではなく、多様性を持つ集団として、しなやかに変えていくチームがいいでしょう」


<略歴>みま・のゆり 1960年、東京生まれ。ハーバード大大学院、東大大学院修了。専門は教育工学、情報工学、学習環境デザイン。公立はこだて未来大、日本科学未来館(東京)の設立計画に携わる。

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