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<訪問>「地形の思想史」を書いた 原武史(はら・たけし)さん

地形から思想へ 七つの旅

 「正直言って、(上皇は)ここをよく見つけたなあと思いました」。浜名湖(静岡県)に地元の人たちが「プリンス岬」と呼ぶ小さな半島がある。皇太子時代の現上皇は1968~78年、家族と夏に8回も訪れた。

 著者は放送大教授で日本政治思想史が専門の57歳。斬新な切り口による天皇制研究に取り組んできた。本書は地形の特徴からどんな思想が立ち上がってくるのかを探った紀行風の評論だ。鉄道ファンとしても知られる著者のしなやかな文体が旅情をかき立てる。

 「日本の国土は広くないけど多様性があって地形は複雑。実際に行って地形を観察し、住民の話を聞くことで初めて分かることがあると考えました」

 プリンス岬で、著者は一家が滞在した民間の保養所を訪ねた。ごく普通の大きさの海の家だった。現天皇を含め子供たち3人は「ここで川の字で寝たのだろうか」と想像が膨らむ。夫妻と子供たちはホタル狩り、七夕飾り、花火などを楽しんだ。

 「上皇夫妻は3人の子供を自分たちで育てるなど、皇室にようやくファミリーが成立しました。岬は一家で過ごす私的空間としてぴったり。戦後日本で核家族が確立する時期とも一致します。現地に来て、なぜ家族で訪ね続けたか見えてきました」

 のちに、皇后となった美智子さまは歌を詠む。

 われら若く子らの幼く浜名湖の水辺に蛍追ひし思ほゆ

 本書は「岬」「峠」「島」「麓(ふもと)」「湾」「台」「半島」の七つの地形から思想に迫る。麓編は宗派が点在する富士山麓を歩き、各宗派が富士山に思い入れを持っていると感じた。オウム真理教の施設があった場所について「『第一上九』から眺める富士山は巨大すぎた。グルと呼ばれた麻原の絶対性を脅かすほどの存在感があった」。

 著者は七つの旅をこう振り返る。「地形が織り成す風景を目にすると、そこにしかない風景が語りかけてくる瞬間がありました。行く前に頭で考えていた観念が木っ端みじんに砕けることが多く、その意外性が楽しかった」

編集委員 伴野昭人

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