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隣のうちが空き家になったら? 空き家を相続したら?

 人口減少や地方の過疎化を背景に、全国的に空き家が増えています。2015年に「空家等対策の推進に関する特別措置法(空家対策特別措置法)」という法律が施行され、対策が本格化しましたが、今のところ増加の傾向は変わっていません。放置され荒廃した空き家は、地域の住環境にさまざまな悪影響を及ぼします。さらに、この問題が厄介なのは、自分や肉親が家を持っていれば誰でも「空き家の所有者」になってしまう可能性があるという点です。空き家問題は決して他人ごとではないのです。空き家をめぐるトラブルに直面したとき、あるいは未然にトラブルを防ぐため、私たちはどう対処すればいいのでしょうか。札幌弁護士会の諸星渓太弁護士に聞きました。(報道センター・三浦辰治)


放置された家(写真はイメージです)

■増え続ける空き家、地域に深刻な影響

――4年前に施行された空家対策特別措置法の狙いや内容を教えて頂けますか?

 空き家は多くの弊害をもたらすといわれています。

 まず、法律に挙げられているのは、防災面、衛生面、景観面などにおける地域の住環境への深刻な影響です。台風などの災害で建物が倒れたり、害虫や害獣の繁殖源になったり、ごみの不法投棄を招いたり、景観を損ねたり、といったリスクです。このほか不審者が入り込むなど治安面の懸念や、地価への影響も指摘されています。

 国土交通省の調査では、全国の空き家の数は法律施行前の2013年に820万戸。18年には846万戸となっています。ここまで増えると既存の法律では対処するにも限界がありました。そこで、これらの弊害から地域住民の生命・身体、財産、生活環境などを守り、さらに空き家の有効活用に向け、行政がより積極的に関与できるようにしようというのが、この法律の最大の狙いです。

 ただし法律は大前提として、まずは空き家の所有者や管理者が適切な管理に努めるよう、その責務を明確に定めています。その上で、それが十分になされない場合に行政が関与できる範囲を広げた形になっています。

――行政が関与できる空き家の定義は決まっているのですか?

 法律の第2条に定義されています。空き家とは「居住その他の使用がなされていないことが常態」となっている建物などとされています。さらに、その中でも①倒壊など著しく保安上危険となるおそれがある②著しく衛生上有害となるおそれがある③適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている④その他、周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である―といった状態にある空き家を「特定空き家」と定義しています。

 こうした定義を前提に、空き家について、地方自治体は、空き家対策の計画を策定したり、所有者などを把握するために調査や情報収集を行ったり、売買を促すためのデータベースを作ったりして、その適切な管理や有効利用を促進します。

 さらに、特定空き家については、自治体が必要な手続きを経て最終的に取り壊すことができる措置も定められています。

<図>「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針=概要版
https://www.mlit.go.jp/common/001090532.pdf

――特定空き家について地方自治体が行う一連の措置の流れを教えてください。

 仮に、自治体が近隣住民からの苦情などにより危険な状態の空き家が存在していることを知ったとします。

 自治体は、具体的な判断基準を定めた国のガイドラインなどを参考にしながら、その空き家が「特定空き家」に該当すると判断した場合には、その所有者などに対して、段階的に「助言または指導」「勧告」「命令」という措置を行うことができます。

 「助言または指導」とは、建物の修繕、取り壊しや草木の伐採など周辺の生活環境の保全を図るために必要な対応をするよう促すもので、法的な強制力はありません。

 それでも改善されない場合は「勧告」となります。これを受けると、住宅用地に通常適用されている固定資産税の優遇措置が受けられなくなり、土地の広さにより3倍ないし6倍の固定資産税を支払わなければならなくなります。

 それでも対応が十分でない場合は「命令」となります。助言・指導・勧告までは、いわゆる「行政指導」で、強制力はないのですが、命令は「行政処分」といわれる強い措置です。違反すると罰則も定められています。

 命令の後もなお改善が図られない場合は、行政が所有者に代わって建造物の取り壊しなどを行い、費用を所有者側に請求する「行政代執行」という措置がとられることになります。

 さらにこの法律では、行政は、所有者が分からない特定空き家についても行政代執行で取り壊すことができる仕組みになっています。

■隣近所の空き家に危険を感じている場合

――空き家問題の「当事者」は2通り考えられます。ひとつは隣近所にある空き家から影響を受ける人。もうひとつは自分が空き家の所有者である人です。まずは前者、身近な空き家に不安や危険を感じている場合、その解決のため、どのように対処するのがよいでしょう?

 行政に動いてもらうのが最も良い方法だと思います。まずは市町村の相談窓口にご相談されてはいかがでしょうか。ただ、行政が動くには、その空き家が特定空き家に該当することが前提になります。

 また、特定空き家に該当しても、行政がすぐに動いてくれるとは限りません。行政も限られた予算や人員の中で対応をしていますから、他により危険な状態の空き家があれば、そちらが優先されることも考えられます。

 行政の手を借りず、空き家の所有者を相手取って民事訴訟を起こすこともできます。所有権に基づく妨害予防請求、つまり近隣の空き家が今にも倒れそうな時、自らの所有権が将来的に侵害されるおそれがあるとして、その危険を取り除くよう求めるわけです。

 ただし、この方法にはいくつかデメリットがあります。まず、空き家の所有者を自分で特定しなくてはなりません。また、訴訟なので手間も費用もかかります。それに、この方法では、3軒隣、4軒隣の空き家に対して「治安が悪くなる」「景観が悪くなる」といった理由で訴訟を起こすことは困難と考えられます。自分の所有権が侵害される具体的なおそれがあることが必要なので、隣接、またはそれに準じる状態でないと民事訴訟の提起は厳しいといえるでしょう。

――空き家の所有者の側が、まず留意すべき点はどんなことでしょうか?

 とにかく念頭に置かなければならないのは、所有する空き家が壊れて通行人にけがをさせた、または近所の家を損壊した、といった場合には損害賠償の義務を負う可能性があるということです。

 複数の相続人のうちの1人だったり、共有持分権者の1人だからといって安心はできません。10分の1しか共有持分がない人でも、その空き家がトラブルを引き起こした際に請求される賠償額が必ずしも10分の1になるとは限らないのです。「共同不法行為」というのですが、これが成立すると、被害を受けた側は、加害者が複数いる場合であっても、そのうちの1人を選択して100%の損害賠償を請求できます。複数の自動車が絡む玉突き事故などでしばしば聞かれる概念ですが、これが空き家が倒壊した場合にも適用される可能性があります。1人が100%の賠償をしたあとは、共有者の間で持分に応じて賠償金の分担を決めることになりますが、他の共有者が見つからなかったり、お金が無かったりした場合には、そのリスクを最初に被害者に支払った人が負うことになります。これは、空き家を一部でも所有している人にとっては大きなリスクといえるのではないでしょうか。

■管理が難しければ処分の検討を

――所有する空き家について、具体的に何をしたらよいでしょう?

 まずは適切な管理に努めて下さい。もし管理ができないなら処分を考えるべきです。売却や賃貸ができれば、それに越したことはありません。難しければ解体を検討することになります。問題になるのは解体費用でしょう。きょうだいなど複数人で共有している場合は、よく話し合って分担を決めるのがいいと思います。

 解体のための費用の一部を行政が助成する制度も増えています。額に限りはありますが、少しでも支えになるはずです。市町村などの相談窓口に尋ねてみてください。

 なお、札幌市では札幌商工会議所にも「空き家の相談窓口」が開設されています。専門家や業界団体が連携してワンストップで相談に乗ってくれます。

 いずれにしても管理も処分もせず、放置したままという状態が最も良くありません。時間が経てば経つほど、相続が積み重なり、相続人の範囲が広がって、処分や取り壊しが難しくなります。先延ばしせず、できるだけ早く対処することが重要です。

 なお、親族が亡くなり新たに空き家を相続することになった方については、相続放棄を検討するのもよいでしょう。

――自分や親が高齢になり、その持ち家が近い将来、「空き家になるのでは」と心配している方が少なくありません。そのような方々にアドバイスはありますか?

 ご自分や親御さんがご健在なうちに、すぐに行動を起こすべきです。所有者が亡くなり、空き家になった自宅が相続されてしまってから行動を起こすよリも、その方が格段に労力は少なくて済みます。

 例えば、遺言書を作成しておき、遺産でまず建物を解体してから、残った遺産を相続させることもできます。また、「民事信託」という形で、あらかじめ管理する受託者を決めておき、売却や賃貸の処分権も含めて委ねておくという手もあります。

 自分や肉親が亡くなった後の話を持ち出すのは、なかなか抵抗があることかもしれませんが、亡くなった後で空き家問題に向き合う深刻さとは比べ物になりません。将来が心配な方はできるだけ早く行動を起こし、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。

 <参考>札幌市空家等対策計画
  https://www.city.sapporo.jp/toshi/k-shido/akiya/akiyakeikaku.html

 <参考>道のデータベース「北海道空き家情報バンク」
  https://www.hokkaido-akiya.com/

諸星渓太(もろほし・けいた)弁護士>1982年、埼玉県生まれ。早稲田大学卒業後、北海道大学法科大学院入学に伴い札幌に。札幌での暮らしに魅了され、2012年に札幌で弁護士登録。弁護士法人清水法律事務所に所属。趣味はテニス。週1回スクールで練習を重ね、市民大会や草トーナメントにも積極的に挑戦している。最近少しずつ結果が伴うようになってきており、37歳にして成長を実感している。

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