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暮らしと法律

過労死を防ぐには? なりやすいタイプはあるか?

 広告大手・電通の新入社員が、過労などを苦に自殺したのは4年前の12月。働き方改革が声高に叫ばれるようになったものの、過労死を伝えるニュースは今もなお、後を絶ちません。過労死に至る背景は何か、そして、防ぐにはどうしたらいいのでしょうか。過労死防止北海道センター共同代表幹事を務める札幌弁護士会の佐々木潤弁護士に聞きました。(聞き手・くらし報道部 杉本和弘)


残業する男性(写真はイメージです)

■どんな場合に過労死と認められるか
■本人の性格より外圧の方が影響大
■「辞めたい」「休みたい」と思ったときが限界点

■どんな場合に過労死と認められるか

――過重労働や過労死等は、なかなか減りません。道内の実態はどうでしょうか。

 大きく報道され注目されているものでは、2012年12月に亡くなった札幌市内の医療機関の新人看護師の女性=当時(23)=の事案があります。

 大学を卒業後、2012年4月から看護師として勤務した彼女の労働実態ですが、タイムカードに打刻されている出退勤時刻上でも、同年5月1カ月間の時間外は90時間を超え、その後も平均70時間前後の月が続きました。新人なので、新しい薬やケア方法など習得すべき事柄が多く、自宅に持ち帰ってのいわゆる「シャドーワーク」も続きました。労基署は、休憩時間の実態などを再調査した結果、2012年7月の前後で月100時間を超える時間外労働があったことなどを理由に、業務に起因する自殺と認め、2018年10月に労災認定をしました。現在は、勤務先を被告として、民事訴訟が提起されています。

 国が労災の有無を判断するうえで着目するのは当該労働者の労働実態です。具体的には、疾病ごとに国が定める労災認定基準を用いて判断します。もっとも、労災認定制度の中では使用者側に法的責任を問う仕組みはないため、使用者の責任を問うには、別途、民事訴訟の提起などの方策をとる必要があります。精神障害や脳・心臓疾患については、例えば工事現場で作業車にひかれるというような事故とはやや異なり、疾病の発症と仕事との関連性が争いになることが多いのも事実です。

――他に特徴的な事案はありましたか?

 驚くような長時間労働をしていた人がいました。50代だった道内のある団体職員は、1カ月に約120時間もの時間外労働をしており。加えて上司からのパワハラもありました。その後、専門家に相談して、最終的に解決に至りました。

 少し前にはなりますが、金融機関のシステム統合に関する事案も忘れられません。ある金融機関におけるシステム統合に関連して、管理職の方が脳疾患を発症し亡くなられました。時間外労働は月50~60時間であり、この点だけを見ると国の認定基準には該当しないものでしたが、行政訴訟において、自宅への持ち帰り残業の存在などが認められ、最終的に労災認定されました。私が弁護士に成り立てのころに代理人をさせていただいた事案であり、大先輩の弁護士に誘われて一緒に取り組ませていただき、今に至るまで過労死等に取り組むきっかけとなりました。

――そもそも過労死は、法律ではどのように規定されているのですか。

 過労死は、過労死等防止対策推進法で規定されていています。この法律の第2条で「過労死等」とされており、いずれも業務上で、①過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡②強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺③死亡に至らないこれらの脳血管疾患・心臓疾患・精神障害-とされています。「過労死等」の「等」には、③のように、死亡に至らなくともこれらの疾病によって重篤な障害が残ることもあるため、それらを含めた定義となっているのです。

 長時間の勤務による過重労働は、疲労蓄積の重要な要因であり、脳・心臓疾患や精神障害との関連性があるという医学的知見が確立しています。国の労災認定基準では、具体的な判断要素が細かく定められています。

 例えば、①の脳血管疾患・心臓疾患の認定基準では、「発症前1カ月に100時間または1~6カ月間平均で月80を超える時間外労働」は、発症との関連性が強いとされています。

 また、②の精神障害に関する認定基準では、例えば「発病直前の3カ月間連続して、1カ月当たりおおむね100時間以上の時間外労働」があったかどうか-とされています。この他にも、判断基準は複数あります。これらの労働時間数はあくまで目安であり、この基準に至らない場合でも心理的負荷が強いと判断されることもあります。

 なお、脳・心臓疾患の労災認定基準については、2001年以降改定していないため、本年度までに収集した医学的知見などを踏まえ、2020年度に有識者検討会で基準全般の検討を行うとのことです。また、精神障害の労災認定基準はパワハラに関する出来事に関し、パワハラ対策の法制化を踏まえ、本年度中に有識者会議を設置し検討する方向にあります。

――全国や道内の過労死等の件数はどのくらいですか。

 厚労省の統計資料によりますと、2018年に労災認定(支給決定)されたのは、脳・心臓疾患が238件で、精神障害が465件です。道内はそれぞれ13件、20件です。ここ数年はほぼ同じ水準で推移しています。労災申請をしていない人はかなり多いと思われ、この数字は氷山の一角といえそうです。

 過労死に限らず、パワハラ、いじめなど、さまざまな相談を受けていますが、仕事を原因とする精神障害の発症は年々増加しているのではと感じています。

■本人の性格より外圧の方が影響大

――頑張る人とか、責任感が強い人とか、働き手の方で多くみられるタイプはありますか。

 過労死等については、いろいろな事案がありますが、過労死等になりやすい人という類型はないのではないか、というのが私の考えです。タフで丈夫と思われがちなタイプの人でも強い負荷がかかれば、うつ病や適応障害などを発症する可能性があります。本人の性格という要因よりは、与えられた仕事に関連するプレッシャー・外圧などのほうが、影響が大きいのは間違いないと思います。

 「責任感が強く、仕事に細かく、完璧主義の傾向」などの人が精神障害を発症しやすいと言うこともありますが、関係ないと思います。こうした人は、むしろ使用者にとって業務遂行上では、いてほしい人でしょう。しかし、使用者は、労働者がいざ精神障害などを発症すると、それは個人的な要因によるものだと主張することがあります。電通では、1991年にも新入社員の過労死が発生しているのですが、この件について、会社側はうつ病発症が個人的な要因によるものとして、「執着気質で自尊心も強く、仕事について人一倍気にする性格である」などという主張をしていました。

――過労死に至る前に、前兆みたいなものはありますか。職場や周囲が気を付けることは何でしょうか。パソコンでの作業が多く、社屋外での仕事が増えていますね。

 職場の管理職は、これまでは営業成績を上げたり、業務を円滑に進めたりとか、人材育成などが主な役割でしたが、今では、労働者の健康管理や職場環境の維持・改善という重要な役割も担うに至っています。過労死等の兆候については、管理職として把握すべきことを求められているのです。もちろん、管理職にとどまらず同僚の方々にも兆候を感じ取った段階で上司への相談などの対応をしてほしいと思います。職場全体として、疲れている様子とか、口数が減ったとか、いつもより仕事の処理が滞りがちとか、普段とは違う様子・サインを見逃さないようにする必要があると思います。

 職種によってはパソコンでの仕事はどこででもできるので、時間管理などが難しいことがあるかもしれませんし、近年の人手不足の影響も大きいところです。いずれにしても、まずは、使用者において、労働者の働いている時間や業務内容を正確に把握し、適正な管理をすることが必要です。

 フランスには休日に上司が連絡してはいけない、などという法律も制定されています。休日などプライベートな時間に仕事を持ち込まないという考え方は、日本でも浸透しつつあるようです。一方で、人手不足などにより業務量が増えています。外国人人材の活用やITによる効率化が叫ばれていますが、労働者の健康管理や職場環境の維持・改善は必ず取り組まなければならない問題です。使用者としても、労働環境に問題があると就業してくれる人が来なくなりますから。

■「辞めたい」「休みたい」と思ったときが限界点

――働き手本人が気を付けるのはどんなことでしょうか。

 私は、本人が「会社を辞めたい、休みたい、これ以上仕事ができない」と思った時が限界点であり、これを過ぎると正常な判断が困難になると思います。

 お子さんが仕事により発症した精神疾患のため自殺されたご両親の話が思い出されます。お子さんが「会社を辞めたい」と言ったときに「頑張れ」と言ってしまったと後悔しているというものでした。

 過労死で亡くなった方に関して、「そんなに大変なら仕事を続けないで辞めればよかったのに」と言われることがありますが、本人は既に正常な判断が出来なくなるまで追い込まれていた、ということを理解する必要があると思います。

 労働者自身も、身体の不調はもちろんのこと、仕事が進まない、納期が守れないなどといった業務遂行上の不調に気がついたら、ぜひとも周囲の人や会社が設置している健康に関する相談窓口のほか医師などの専門家に相談された方が良いと思います。

 ※働き方改革については、8月に公開された「暮らしと法律~非正規の働き方はどうなる?」(https://www.hokkaido-np.co.jp/article/333573)で札幌弁護士会の迫田宏治弁護士が詳しく解説しているので、参照してください。


<労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト>

出典:厚生労働省ホームページ「STOP! 過労死」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/h30_karoushi_zero.pdf


――相談の窓口はどんなところがありますか。

 札幌弁護士には法律相談センター(https://www.satsuben.or.jp/center/)があります。全国の弁護士会で唯一、法律相談を全面的に無料としています。弁護士が直接ご相談に乗ります。事前の予約が必要ですが、電話はもちろん、パソコンやスマホからもインターネットで予約ができます。

 他にも、過労死防止北海道センター(電)011・215・1925がありますし、NPO法人いのちと健康をまもる北海道センターではホームページから相談の予約が可能です。

佐々木潤(ささき・じゅん)弁護士>1967年、後志管内岩内町生まれ。日大大学院法学研究科博士前期課程修了。北海道庁に入庁したが、3年後に弁護士を目指すため退職。1999年司法試験合格。2001年札幌弁護士会に登録し、三木法律事務所入所。2018年から三木・佐々木法律事務所に。札幌弁護士会雇用と労働に関する委員会委員長のほか、過労死防止北海道センター共同代表幹事、NPO法人いのちと健康をまもる北海道センター副理事長。趣味はスキー、読書、映画鑑賞。

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