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<書評>隠された悲鳴

ユニティ・ダウ著

社会の矛盾問う女性の努力
評 粟飯原文子(法政大准教授)

 南部アフリカ、ボツワナ発のサスペンス小説である本書では、ジャンルの特徴が最大限に生かされて緊張感に満ちたストーリーが展開されるとともに、ジェンダーや階級、権力の腐敗などさまざまな社会問題があぶり出されてもいる。その中心に据えられているのが「儀礼殺人」である。現在ボツワナの外務国際協力大臣を務める著者は、高裁判事時代に出くわした現実の事件に着想を得たという。

 物語は僻村(へきそん)で起きた少女の失踪・殺人事件の謎から始まる。事件解決の手掛かりが見つからないまま、警察は野生のライオンによる被害として早々に捜査を打ち切ってしまう。実のところ、12歳の被害者ネオ・カカン、「毛のない子羊」はさらなる富と権力を求める有力者の男たちの「刈り入れ」の犠牲となっていたのであり、人びとはその事実にうすうす気付いていたのだった。

 5年後、インターンでこの村の診療所にやって来た研修生アマントルは偶然、「ネオ・カカン」と記された箱に入った血塗れの衣服を見つける。強い意志と自立心をもつアマントルは警察権力をものともせず、弁護士の友人らの協力も得て、事件の真相解明に乗り出す。彼女たちは村人の心情に寄り添いながら、真実と正義の探求に身をささげるが、最終的には強大な陰謀に阻まれてその勇敢な試みは失敗に終わる。

 本書は儀礼殺人という陰惨なテーマを扱っているにもかかわらず、全体として暗鬱ではなく扇情的な印象はない。確かに社会は大きな矛盾と分断を抱え、村は恐怖に支配されている。だが真相解明の努力を通して浮かび上がるのは、村人たちのたくましさと国家権力に対する団結力、そしてアマントルらの勇気と誠意である。農村の貧しい出自ながらも都市部で高い教育を受けたアマントルは素人探偵の役割を果たすだけでなく、社会の亀裂を埋め、国の明日を担う希望の象徴でもある。若く有能な女性たちの知性と献身から予見されるのは、近い将来のボツワナ、さらにはアフリカの内在的な変革の力と可能性だろう。(三辺律子訳/英治出版 2200円)

<略歴>
ユニティ・ダウ 1959年生まれ。ボツワナの外務国際協力大臣。弁護士で、同国女性初の高裁判事を務めた

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