PR
PR

<みなぶん>ヒグマ対策 駆除と保護のはざまで(2) 人里に入られたら負け

 世界自然遺産知床。世界有数の生息数を誇るヒグマの保護管理に当たる知床財団(オホーツク管内斜里町)のハンターが道路脇の斜面に座ったヒグマにゴム弾を命中させ、森に追い払う動画を見せてもらった。ヒグマはビクンと跳びはね、ものすごい速さで斜面を駆け上がって逃げ去った。

 財団はクマを保護する観点から駆除は必要最小限に抑え、人里に近づく前に森に追い払う対策を積極的に取り入れてきた。

 追い払いは《1》手をたたく、大声を出す《2》大きな音を出す火薬玉を投げる《3》トウガラシ入りの撃退スプレーを噴射する《4》散弾銃で花火弾を発射する《5》散弾銃で硬質ゴム弾を当て痛みを与える―の5段階で行う。動画を見る限り、最も威力があるゴム弾の効果は絶大だ。

■痛さにも慣れる

 しかし、そのゴム弾ですら、人里を怖がらせる「教育的効果」が長続きするかというとそう単純ではない。「痛さは一時的でたまたまの出来事と感じるのか、何度追い払っても人里近くに出没してくるクマは少なくない」。財団の葛西真輔保護管理係長(40)はこう指摘する。まして人里にある食べ物の味をしめた「問題グマ」を人里から遠ざけるのは至難の業という。

 財団も人身被害などを避けるため、例年10頭から70頭近くはやむなく駆除する。「出没を繰り返せば最終的には銃で駆除するしか道はない」(葛西さん)

■山に戻しても…

 「滋賀県内に放獣したと連絡せず、住民の皆さんにご心配、ご迷惑をおかけしました。あり得ない対応があったことにおわび申し上げたい」。2015年5月29日、三重県の鈴木英敬知事は記者会見で平身低頭だった。

 発端は三重県が5月17日、箱わなで捕獲したツキノワグマを無断で滋賀県側に放ったこと。同27日には滋賀県内の女性がクマに襲われ大けがを負い、クマを放った三重県の対応が批判を浴び、謝罪に追い込まれたのだ。最終的には別のクマの仕業と判明したが、県は放獣は県内の捕獲した市町村内に限ると対応マニュアルを見直す結果となった。

 今年8月、札幌市南区の住宅街に出没を繰り返したヒグマの駆除を巡っても、市には市民から「眠らせて山に戻すことはできなかったのか」と疑問の声が多数寄せられた。

 だが、近隣の山林に戻せば再び住宅街に出没しかねない。かといって遠く離れた場所に移せば、三重県と滋賀県のような地域間のトラブルになりかねない。箱わなで捕獲したヒグマもほぼ射殺している。山に戻すのは基本的に研究目的だけで、08年~17年の10年間でも18頭にとどまる。

 南区のクマの場合、家庭菜園のトウモロコシや果樹園のプルーンを味わって「問題グマ」となったあとだっただけに山に戻しても出没を繰り返すことが予想され、道立総合研究機構環境科学研究センター(札幌)の間野勉自然環境部長も「住宅街や畑など人の生活圏に一度入られたら完全な負け戦」と指摘し、駆除はやむなしだとみる。人の生活圏に入らせない水際作戦をいかに徹底させるか、人とクマの知恵比べが続く。

 北海道新聞は、読者のリクエストに記者が取材して応える「みんなで探るぶんぶん特報班」(みなぶん)をスタートさせました。
 この手法は「オンデマンド調査報道」(JOD=Journalism On Demand)と呼ばれ、読者と記者が会員制交流サイト(SNS)やメールなどを通じて情報交換しながら取材を進めていく双方向型の新たな調査報道として注目されています。
 読者の皆さんが日々の暮らしの中でキャッチした疑問や声を取材の出発点に、記者と共同作業で謎を解き明かしていきます。
 情報提供や取材依頼のほか、取材をサポートする「みなぶん通信員」への登録をお待ちしています。詳しくは「どうしん電子版」特設サイトをご覧ください。ヒグマの駆除や保護のあり方についても、特設サイト下段にある専用のフォームやファクス、無料通信アプリ「LINE(ライン)」、郵便にて意見を募っています。

北海道新聞 購読の申し込みはこちらから
新聞配達スタッフ募集
PR
ページの先頭へ戻る