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虐待防止には「地域力」が不可欠 函館中央病院・石倉亜矢子医師に聞く

 【函館】児童相談所(児相)や医療機関、警察、保育施設、学校などの関係機関が、子供の虐待防止などについて学ぶ勉強会「チャイルドファーストはこだて」(CFH)は、今年で5年目を迎えた。当初は児相や病院関係者のみで始めたが、今では検察官や弁護士など、多彩な職種の100人前後が毎回参加している。CFH発起人で、道内唯一の医療機関向け虐待対応プログラムBEAMS(ビームス)講師として虐待や性暴力被害の防止に取り組む函館中央病院(函館市本町)の小児科医長・石倉亜矢子医師に、これまでの取り組みや地域全体で虐待を防ぐ重要性について聞いた。(西本紗保美)

 ――小児科医として、虐待問題にどのように関わってきましたか。

 子供が日常のアクシデントではあり得ない部位や程度のやけど、骨折などを負って来院する場合があります。虐待が疑われる場合、小児科だけでなく病院全体で幼い子供の命を守ることを考えなければと思い、函館中央病院で2010年に「院内児童虐待防止委員会」を立ち上げました。

 ――最初は乳児や幼児の保護が目的だったのですね。

 当時は死亡リスクの高い乳幼児の命を守ることを最優先に考えており、性暴力やドメスティック・バイオレンス(DV)などについては「大人の問題は扱えない」と思っていました。ところが、12年に思春期のメンタルについて考える勉強会に参加した時、性虐待を受けて非行に走る思春期の女の子と、育児に問題を抱えた若い母親像が重なりました。「幼い子供を救うだけでは不完全ではないか」と気付き、性暴力被害についても学び始めました。

 ――性虐待の被害が疑われる子供への聞き取り調査の手法「RIFCR(リフカー)」を学ぶ研修にも力を入れています。研修を始めたきっかけは?

 私は12年に神奈川県で初めて自主的にリフカー研修を受け、「函館にもぜひ広めて、市民全体で性暴力の被害者を拾い上げたい」と思いました。そこで14年にNPO法人チャイルドファーストジャパン(神奈川県)の講師を函館市内に招き、初めて実施。その後も毎年実施する中で、警察官や自治体職員、弁護士、検事、保育士、教員、ソーシャルワーカーなど、多くの職業の人たちが虐待への関心を強く持っていることがわかりました。

 ――CFH設立の経緯は。

 院内で虐待が疑われるようなケースがある際は児相と連絡を取るのですが、以前は児相の仕事内容や法律についてよく理解していなかったため、「子供を守るために必要なことを全部やってくれる」といった理想像を勝手に作っていました。その結果「なぜちゃんとやらないのか」という怒りをぶつけてしまい、よく電話口でケンカになりました。ただそれでは何も良くならないので、児相と医療機関がお互いによく理解しあうことが肝心だと思い、虐待に関する勉強会を15年に始めました。これがCFHのスタートです。その後、徐々に幅広い職種の方が参加するようになりました。中には里親関係者もいます。

 ――どんな内容の勉強会を行っていますか。

 8月21日に行った23回目の勉強会では、子どもがさまざまな暴力から自らを守るための教育プログラム「CAP(キャップ)」のワークショップと、医療機関向けの虐待対応プログラムBEAMSについての講座を行いました。歯科医師がネグレクト(育児放棄)により虫歯が多い子供の事例について語ったり、精神科医が自傷行為の依存性について話したりするなど、さまざまな分野の関係者が話者として登場しています。現在では2カ月に1回の開催で、毎回70~100人前後の参加者がいます。

 ――虐待防止のために、関係機関の連携がなぜ重要となるのですか。

 当初は子供を中心に虐待問題を考えていましたが、家庭でのDVや経済的困難、発達障害などによる「育てにくさ」など、複合的な要因が関係してくるのが虐待問題です。このため、関係機関が横のつながりを強めて家庭を支援し、解決に取り組む「地域力」が不可欠です。児相に丸投げするのではなく、地域が児相の役割を補完していかなくてはならないと考えます。そして、さまざまな関係者のの横のつながりを強める役割が、CFHにはあると感じます。

 ――今後の展望は。

 函館の例を参考にしてもらい、釧路でも昨年「チャイルドファーストくしろ」が発足しました。今年のリフカー研修には札幌や苫小牧などからも参加者が来るなど、他地域との連携も深まっています。私たち医療機関も、地域の児童養護施設や子ども食堂などを見学するなどして、CFHで培ったつながりを現場でも強めていきたいです。


<略歴>いしくら・あやこ 神奈川県出身。東北大医学部卒業後、宮城県内の病院を経て北大病院小児科に入局。市立旭川病院や千歳市民病院、五稜郭病院を経て、08年から函館中央病院勤務。15年からCFHを運営。趣味はダイビング。

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