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<訪問>「夏物語」を書いた 川上未映子(かわかみ・みえこ)さん

産むか産まぬか 逡巡と選択描く

 子どもを産むか、産まないか、どう産むか。主人公・夏子の逡巡(しゅんじゅん)や選択を描き、この世に生まれる意味を問いかける長編小説だ。死と同様に、「生まれてくることのとりかえしのつかなさ」を幼い頃から考えていたという著者。「人が生まれてくることから全てが始まっているのだとしたら、そこの物語を書いてみたいと思いました」

 2008年の芥川賞受賞作の短編「乳(ちち)と卵(らん)」を基に「再創作」し、登場した夏子ら3人の8年後を描く。38歳の夏子は性行為は嫌だが「自分の子どもに会いたい」と相手のいない妊娠、出産を考える。第三者の精子提供から生まれた男性、逢沢との出会いを経て夏子は最後にある道を選ぶ。

 登場する女性たちの価値観はさまざまだ。娘を愛するシングルマザー、子どもを持つことを否定する独身編集者。逢沢の恋人は「子どもが、生まれてきたことを心の底から後悔したとしたら、あなたはいったいどうするつもりなの」と夏子に問い、親たちは自分のことしか考えずに産んでいると非難する。

 本書の結末には賛否両論があり、これまでになく強い反応があったという。「人生をかけて、私を問うてくる。こういう距離感で読まれる作品はなかった」。産んだ女性も産まなかった女性も、相手の立場を「そうだったかもしれない自分のこと」と捉え、もう一人の自分に問い掛けるような熱を帯びていた。

 著者自身は12年に男児を出産した。「素晴らしい体験だったと思うことも含めて、いったい自分は何をしたのかということは考えています。ずっと」

 世間では、なぜ産まないの、という問いが飛び交う。だが、妊娠や出産で体は変化するし、死に至る危険すらある。「産むことが不自然とは言わないが、産むことが自然とも思わない」。なぜ産むのか、と著者は思考を重ねる。

 妊娠を目的とする医療行為もある今、子どもは「授かりもの」とは限らず「選択」でもある。「人の数だけ、妊娠と出産の価値と文脈がある。不思議なことを繰り返していますよ、人類は」

東京報道 大沢祥子

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