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<訪問>「生(き)のみ生(き)のままで」(上・下)を書いた 綿矢(わたや)りささん

女性同士の「実りある恋愛」

 彼女の肌が、吐息が、唇が、舌が、強烈な引力をもって私を誘う―。帯の言葉が、引かれ合う女たちの気持ちの高ぶりを物語る。「ほかの世界を一切書かず、2人の関係だけを書いた。完全に好きな物語です」。作品へのいとおしさが表情ににじむ。

 携帯電話ショップで働く逢衣(あい)と芸能人の彩夏(さいか)。彼氏と旅行中に出会った2人は東京に戻ってからも女友達として親しくするが、逢衣の結婚が現実的になると一転。彼女に一目ぼれしていた彩夏は理性を捨て、唇を奪う。

 「男女の恋愛が同性同士になるとどう変わるのか」。そう考え筆を進めたが、女性を恋愛対象として意識したことがない逢衣は当然のように拒否反応を示す。「激しい愛情がないと相手の気持ちを変えることはできない」のは、片思いから始まる恋ならでは。彩夏は逢衣の存在こそが自分を輝かせると、ストレートに気持ちをぶつける。

 物語には二つのステージがある。関係をスタートさせた20代と、彩夏の芸能活動を優先させるために離れ、再会した30代と。この間7年。あえて停滞期を設けたのは? 「20代と30代では考え方が変わる。30歳前後という女性にとって大切な時期を悶々(もんもん)と過ごさせ、以前の恋とは違う形で出会い直すことを書いてみたかった」

 19歳だった2004年に「蹴りたい背中」で芥川賞、12年「かわいそうだね?」で大江健三郎賞を受賞した。「主人公の内面の葛藤が大きなテーマで、相手に理解してもらえない怒りや未熟な自分に対する反省を書くことが多かった」と振り返るが、本作は「初めて相手を見据えて書いた。実りある恋愛を書けて本当にうれしかったです」と破顔した。

 太宰治のような文豪への憧れが作家の出発点で、一時期は「言葉を道具として使いこなす」ことに注力した。そうして培った表現力が登場人物を取り巻く描写に説得力を与えてきた。まだ30代。独自の世界観を持つ綿矢りさの作品に今後も目が離せない。

上田貴子

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