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マイナンバーは社会に受け入れられたのか―住基ネットとの比較 新聞報道から探る世論の変化―

富士通総研経済研究所主席研究員
榎並利博


■国民総背番号をめぐる世論の変化


 マイナンバーなど番号制度はかつて国民総背番号と揶揄され、国民から大いに嫌われた。住基ネットでは訴訟が数十件も起こされ、ようやく実現した住民票コードは使われない番号となってしまった。その後、失われた年金納付記録問題で番号制度の必要性が再認識され、あらためて作り上げられたのがマイナンバーだ。

 2018年7月に当初計画されたマイナンバー機能がすべて稼働し、税の申告で記載するだけでなく、社会保障関係の添付書類が省略されるようになった。そして同年10月がマイナンバー法施行からちょうど3年となり、法律の附則では見直しをする時期とされている。

 今後、マイナンバーをより積極的に展開していくべきか、あるいはまだ慎重に扱うべきか、番号制度に対する世論の動向を分析しておくことは重要だろう。

 住基ネットに関する世論ついては、以前にその分析結果を研究レポートで発表(注1)していることから、マイナンバーについても同じ手法を用いて分析し、住基ネットとマイナンバーでの世論の違いを検証することにした。全国紙5紙(読売、朝日、毎日、日経、産経)の番号制度に関する記事見出しを分析対象とし、このデータを使って量的分析と質的分析を行った。

(注1)榎並利博「住基ネットはなぜ『悪者』となったのか (共通番号[国民ID]を失敗させないために)―住基ネット報道におけるセンセーショナル・バイアスと外部世論の形成に関する研究―」FRI研究レポート№368 2011年3月
http://www.fujitsu.com/downloads/JP/archive/imgjp/group/fri/report/research/2011/no368.pdf

■新聞記事 見出しの量的分析

 まず、番号制度に関する記事の件数を見てみよう。記事件数の全体的推移では、住基ネットの場合、2002年の内部稼働と2003年の全面稼働というイベントにおいて件数が突出しており、マイナンバーの場合も2015年の通知カード配布と2016年のマイナンバー制度開始というイベントにおいて件数が多く、このあたりの事情は変わっていない。そしてピーク年における記事件数は、住基ネットが3,908件、マイナンバーが3,254件であり、ほぼ同じ程度と考えてよいだろう。

 しかし、記事件数の新聞社別推移(図1が住基ネット、図2がマイナンバー)を見ると、ピーク年における事情がかなり異なっている。住基ネットではその報道特性によって新聞社が3グループに分かれたが、マイナンバーではその3グループの相対的な位置関係が変化していた。


▼第1グループ(朝日・毎日)と第2グループ(読売)の入れ替わり

 住基ネットでは、朝日が1307件、毎日が1240件と、この2紙が第1グループで突出した件数の記事を掲載していた。第3グループの日経や産経と比較すると、実に数倍から10倍もの記事の量だ。

 ところが、マイナンバーになると第1グループと第2グループの入れ替わりが起きる。第1グループは読売1紙だが、833件から963件とそれほど増えているわけではない。つまり、住基ネットの第1グループである朝日と毎日が大きく件数を減らしたことが原因である。実際に、朝日と毎日はほぼ記事件数が半減している。

▼第3グループ(日経・産経)
 
 住基ネットの時、日経と産経は件数的に控えめな報道をしていた。マイナンバーでも第3グループを形成しているが、住基ネットと比べると記事の量が倍増もしくは3倍強に増えている。つまり、住基ネットの時の第1グループと第3グループの件数比率が数倍~10倍だったのに対し、マイナンバーでは約2倍となり、5紙の差がかなり縮小していることがわかる。

つまりこの分析から言えることは、住基ネットに比較してマイナンバーでは、特定の新聞が量的バイアス(大変なことが起きている)をかける傾向がなくなったと解釈できる。

■新聞記事 見出しの質的分析

 量的バイアスは確認できたが、問題はその内容が番号制度に「好意的」なのか「否定的」なのかである。それぞれ新聞記事件数がピークであった2年間の新聞記事見出しを対象に、5紙ごとにテキストマイニングを使って分析した。新聞記事見出しから上位50の重要キーワードを抽出してマップを作成し、「否定性テーマ」と「否定性キーワード」を抽出してその数を比較した。テキストマイニングのサンプルを図3(マイナンバーにおける朝日新聞の例)に示す。

 テキストマイニングによって抽出された「否定性テーマ」と「否定性キーワード」について、住基ネットとマイナンバーを比較したのが本記事冒頭に掲載した表だ。数が減少しているだけでなく、使われているキーワードの質が変化していることがわかる。住基ネットでは「拒否、反対、離脱」など番号制度自体を否定するキーワードが多かったが、マイナンバーではそのようなキーワードは消失し、番号制度運用の問題点を指摘するキーワードとなっている。

 量的バイアスを含め、質的バイアスである否定性テーマおよび否定性キーワードの数の調査結果が図4である。否定性テーマの数こそ変わらないが、否定性キーワードは住基ネットの41からマイナンバーの25へと半分近く減少している。特に朝日・毎日・日経は否定性キーワードの使用が大きく減少している。

 そして、住基ネットの時には朝日と毎日において量的なバイアス(大変なことが起きている)と質的なバイアス(番号制度を否定)が見られたが、マイナンバーではそのようなバイアスが消えていることがわかる。

 全般的には、政府に対する批判的姿勢がジャーナリズムの性格であるため、否定性キーワードが相変わらず使われているものの、マイナンバーでは住基ネットよりもその数がかなり減少しているとともに、否定性キーワードの内容が「番号制度の否定」から「運用の問題指摘」へと大きく変化していることがわかる。

 結論としては、住基ネットの時は各紙で異なった報道姿勢を取っていたが、マイナンバーではその差がかなり縮小し、番号制度に関して国民的合意が形成され、社会的に受容されつつあると言える。また、番号制度の否定ではなく、運用上の問題を指摘するという報道姿勢に変化しており、番号制度を認める一方で政府に対しては確実な運用を要請する世論が形成されている。

■「川柳」出現の理由は

 そのほか、インターネットを対象とした世論動向について、Google Trendsというツールを使った分析についても触れておきたい。マイナンバーに関する世論の関心を、Google Trends(ウェブ検索)とGoogle Trends(ニュース検索)で調べてみたが、その結果は新聞報道件数と比較して特筆すべき傾向は見られなかった。インターネットと新聞報道では世論の関心において大きな隔たりは無いと言える。

 また、Google Trends(ウェブ検索)で「国民総背番号」というキーワードの使用状況を調べると図5のグラフが示された。この番号制度に対するネガティブなキーワードは、明らかに住基ネットの時から一貫して減少しており、「国民が国家に番号で監視される」という意識が国民のなかでだいぶ和らいでいることがわかる。

 今回の新聞報道における特異な現象としては、図3のなかに「川柳」というキーワードが出現していることだ。これは住基ネットの時には見られなかった現象で、読売と朝日の2紙に現れている。(注2)

(注2) いずれの作品も、第29回「第一生命のサラリーマン川柳コンクール(略称 サラ川(せん))」(募集期間2015年10月~12月)全国優秀100作品から

 当時の状況を調べてみると、「キミだけは オレのものだよ マイナンバー」(マイナ)、「マイナンバー 国より厳しい 妻管理」(我流)、「冷蔵庫 オレのビールに マイナンバー」(ダメ亭主)など、マイナンバーが川柳のテーマとして国民に取り上げられていることがわかった。川柳ではマイナンバーに対する忌避感や拒否感は表現されておらず、むしろ受け入れ態勢ができつつあるようだ。

 そのほか、「マイナンバー」は2015年の「ユーキャン新語・流行語大賞」候補10位以内にもランキングされるなど、住基ネットの時とは大幅に状況が変化している。国民のプライバシーが侵害される、国民が国家に監視されるという住基ネット時のような否定的イメージはかなり希薄になっているといえる。

 マイナンバー3年目の見直しに当たり、国民のためにより積極的にマイナンバーを活用する政策へと、そろそろ転換しても良いのではないだろうか。

えなみ・としひろ 1981年東京大学文学部卒業、同年富士通株式会社入社。住民基本台帳など自治体システムの開発を担当。1996年株式会社富士通総研へ出向し、電子政府・電子自治体および地域活性化分野の研究に従事。マイナンバー関連の著書:『医療とマイナンバー(共著)』日本法令 、『実践!企業のためのマイナンバー取扱実務』日本法令、『マイナンバー制度と企業の実務対応』日本法令など。


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