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<書評>凶暴老人

川合伸幸著

危うい 社会からの「よそ者」視
評 佐藤直樹(九州工業大名誉教授)

 なんとも挑発的なタイトルだ。一応私も高齢者の端くれだが、地下鉄の自動券売機に「ボタンを押して下さい」と何度も注意され、「バカにするな」と怒鳴ったことがある。

 近年、高齢者の犯罪が増加しているとする統計の数字がある。ところが本書によれば、それは日本全体の人口に占める高齢者の割合が増え、少子化で若者の数が減っているせいで、そのバランスの変化を反映しているにすぎない。ようするに人口が増えたので、数字の上で高齢者の犯罪が増えているようにみえるだけなのだ。

 ただし、暴行だけは若干増えている。本書は、認知科学の実験データを駆使し、高齢者になると脳の前頭葉の機能低下がおき、イライラしたり若干キレやすくなると指摘。だが、暴言や暴行につながる怒りの感情は、有酸素運動などによって抑制できるという。

 つまり、巷(ちまた)でいう「老人の凶暴化」は言い過ぎである。この問題の本質は、高齢者が増加し若干キレやすくなっていることで、相対的に目立つようになった乱暴な行動を、ことさら問題にするようになった社会の側にこそある。いまや高齢者を「よそ者」とみなし、社会から排除しようという「非人間化」が進んでいるからではないかと、本書は言う。

 思うに欧米と比較すると、総じて日本の高齢者は不機嫌にみえる。本書によれば、高齢者の約36%が「望ましい退職年齢」を「70歳以上」と答えるそうだ。これが男性に限ると約45%。ところが欧米では、米国で約17%、ドイツやスウェーデンは2%程度。欧米では早く退職して家族とゆっくり過ごしたい、と考えるのが普通だからだ。

 不機嫌なのはこの辺に理由がありそうだ。高齢者が排除される背景には、働いていないとまさに生産性がないと、社会から「よそ者」視される最近の不寛容な空気がある。最後に本書は「高齢者との共生」を訴える。ごく当たり前に聞こえるかもしれないが、その実現は危急の課題だ。(小学館新書 842円)

<略歴>
かわい・のぶゆき 1966年生まれ。名古屋大大学院情報学研究科准教授。専攻は比較認知科学など

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