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<第11部 登別温泉かいわい>7 熊舞 自然と温泉に感謝込め

 「父に比べると自分の舞はまだまだ雑ですね」

 登別市の郷土芸能「熊舞(くままい)」を演じた黒田竜矢さん(30)は、熊を模した黒い衣装を脱いで汗をぬぐった。

 昨年、父庄一さん(65)らが長年活動を支えてきた「登別温泉熊舞の会」に入会した。15人の仲間とともに演技の腕を磨く。

 熊舞は、山の中をさまよっていた狩人が偶然出合った大きな2頭の熊に導かれ、地獄谷にたどり着いたという地元の言い伝えをコミカルな舞で表現した。

■若者の創作原点

 温泉街で働く若者たちが1981年、登別の観光活性化を狙い、室蘭の舞踏家花柳衛信氏の指導を受けて創作した。熊は2人一組で演じ、竜矢さんは熊の後脚を担当している。笛と太鼓の演奏に合わせ熊が転がったり、立ち上がったりする際の要の役だ。

 「大自然の中、熊と人間は敵ではなく、心の通い合う友達であったという伝説に基づいている。自然と温泉への感謝の気持ちが込められている」

 旧登別温泉中時代、授業の一環で熊舞を踊ったことがあるが、熱心ではなかった。庄一さんが狩人役を演じている姿に「思春期だったから正直、『恥ずかしい』と思ったこともある」と振り返る。

 中学卒業後は登別を離れ、駒大苫小牧高、駒沢大では187センチの身長を生かしバスケットボールに打ち込んだ。飲食店や土産店などを営む家業の「黒田商事」を継ぐ考えも薄かった。

 「バスケットのプロ選手になりたいと思ったこともある。才能が違う選手に出会ってプロは諦めたけど、大学を卒業後はそのまま東京に残り、サラリーマン生活を送っていた」

 5年前、父から「そろそろ戻って家業手伝え」と言われた。郷里の父も祖父も寂しがっていることは痛いほど感じていた。

 「そろそろ安心させてやらないとダメかな…」

 営業先の熊本で知り合った妻の里香さん(33)を伴い、温泉街に戻った。

 熊舞に取り組んだのはひょんなことだった。熊舞の会が昨年9月、仙台市に初めて遠征することになったが、必要最低限の7人を確保できない。メンバーの1人から「中学時代やってたろ。手を貸せ」と言われ、遠征メンバーに加わった。

 父庄一さんからは「俺の居場所がなくなるから入らないでくれ」と憎まれ口をたたかれたが、父の表情はどこかうれしそうだった。

■強い結束力誇り

 竜矢さんは「父たちが一生懸命守ってきたんだなあという感慨があった。これからは自分たちが頑張らないとな、と素直に思えた」と打ち明ける。

 黒田商事の専務として忙しい日々を過ごしながら、熊舞の依頼が来ると、仲間とともにホテルの宴会場に駆けつける。昨年は多い月で15回出演した。

 「仕事があるから正直、大変。でも、郷土芸能を自分たちで守らないとという仲間の結束力は強い」

 妻と2歳10カ月になる長男恵佑ちゃんにはまだ自分が舞う姿を見せていない。「そろそろかっこいいところをみせないとね」。大柄な体を揺らして笑った。

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