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<林瑞絵の欧州だより>オービュッソンのタペストリー 英仏の文化つなぐ貴重な試み

 仏中部のクルーズ県オービュッソンは、タペストリーの代表的名産地。5世紀半にわたり連綿と伝わる伝統工芸は、2009年にユネスコ無形文化遺産にも登録された。この名誉の決定を追い風に、2016年には専門博物館「国際タペストリー都市」がオープンした。

■トールキンの絵

 現在、同博物館が指揮を執る企画「オービュッソンがトールキンを織る」が進行中だ。2017年から4年をかけ、英国人作家J・R・R・トールキン(1892~1973年)作品の挿絵を、13枚のタペストリーと1枚のカーペットに写し、織り上げる。あまり知られていないが、トールキンは絵の心得があり、自作の挿絵も手がけている。今回は「指輪物語」「ホビットの冒険」など代表作を含む4作品から挿絵が選ばれた。期間中は作家の子孫も出席し、作品完成披露の式典を実施。筆者は2、3枚目を同時公開する式典に参加した。幻想的で自然の表情が多彩なトールキンの世界観は、鮮やかな糸で織り込まれるタペストリーによく映える。エマニュエル・ジェラール同博物館ディレクターは、オービュッソン産タペストリーを、「アーティスト、下絵職人、そして作品解釈の責任者である織物職人による対話の果実。長い時間をかけ向き合える温かみのあるテキスタイル素材は、鑑賞者を作品世界への没入へと誘(いざな)う」と表現している。

 伝統工芸のデザインに外国人作家の作品を選ぶのは、少々意外に思えるかもしれない。しかし、映画「ロード・オブ・ザ・リング」の原作者であるトールキンは、世界中で若いファンを生み続けている。つまり、伝統を次世代につなぐ橋渡し役として期待されているのだ。

 また、トールキンと言えば偉大なファンタジーの巨匠だが、文学史の正統派とは見なされにくい面もある。だからこそ伝統工芸とのコラボレーションは、トールキンにもある種の箔(はく)を付けることになるかもしれない。うまい具合に、双方にメリットのあるプロジェクトと言えそうだ。

■伝統工芸に活力

 近い将来、イギリスはEUから離脱する。それに伴い、英仏の協力関係はあらゆる分野で退行するとみられる。だが本企画は、文化の深いレベルで両国が繋(つな)がり続ける貴重な試みだろう。

 20世紀前半にはオービュッソンと近郊で約2千人を数えたタペストリー産業の従事者。現在、その数は150人まで落ち込んだ。本企画は職人たちに大きな仕事をお膳立てし、未来志向で伝統を活性化させる大切な意義もある。(はやし・みずえ=映画ジャーナリスト)

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