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【シリア 帰れぬ祖国】14 安田さん自己責任論で思うこと

 シリアで武装勢力に拘束されていたフリージャーナリストの安田純平さんが解放されました。このことに日本国内で「自己責任論」などさまざまな意見がありますが、シリア人としての私の考えを述べたいと思います。

 世界中はさまざまな問題を抱えています。でも、問題を抱えている以上に良くないことがあります。問題が誰にも知られていないことです。

 私はどこから来たのか。私がどこで生まれたのか―。それは選べません。でも、たとえどこで生まれ育っても、世界に目を向けて、どこで何が起きているのかを知る努力をしなければならないと思います。

 私はシリアから日本に来て、4年住んでいます。その間、シリアで起きている悲劇的な戦争は続き、ニュースにもなっています。でも、今も「どこから来たの?」と聞かれ、「シリアです」と答えると、「シリアってどこ?」という顔をされます。驚いています。日本は島国ですから、日本人は国境の問題や周辺国との争いのような問題には、あまり関心が無いのかもしれません。正直、とても悲しく思います。

 私はこれまで、高校や大学などでシリアについての講演活動を行ってきました。

 講演ではいつも「シリアは遠くない」と話しています。たとえ8000キロ離れていても、シリア国民はあなたの目の前にいる。そこから、あなたに何かを訴えかけているのです。「世界のことなんて関係ない」と考える人に伝えたいことは、世界はつながっているということです。世界の誰かに影響されない人生などあり得ません。そして、あなたは世界のどこかにいる誰かの人生を変えることができるのです。

 メディアは我々の生活に大きな影響を与えます。そのため、真実に迫ることが重要です。

 例えばシリア政府のメディアは、アサド大統領は英雄であり、中東で影響力を保持したいアメリカやイスラエルが支援するテロリストからシリアを守っている、と伝えています。本当でしょうか? 信じられるでしょうか? 

 世界の多くの人は、アサド大統領は英雄などではなく、シリア政府はプロパガンダを流していると思うでしょう。あなたも、アサドは英雄ではなく殺人者だと思っているかもしれません。では、どうしてそう思うのですか? それは、シリアの真実を世界中に伝えたいというジャーナリストが戦地に赴き、発信している情報に基づくものではないでしょうか。プロパガンダやフェイクニュースが溢れる世界では、ジャーナリストが実際に現地で何が起こっているのかを見て、そこで暮らす人々の声を聞いて発信する情報こそが貴重なのです。

 もし安田さんのような人がいなければ、死から逃れるために、祖国を脱出する人がいることを誰も知りません。祖国で生きることの危険が理解されなければ、世界は難民を受け入れないでしょう。

 私はシリア人として、シリアで取材するジャーナリストをサポートして欲しいと願っています。もし、安田さんのようにシリアで辛い時間を過ごさなければならなくなったなら、申し訳ないと思います。そして、たとえ拘束されても、なおも真実を追い求める姿勢を称賛したいです。

 安田さんの解放には、カタールが多額の身代金を支払ったと言われています。このお金がテロリストの資金源になってしまうのが問題だとの意見があります。でも、テロリストは今回の身代金に限らず、あらゆる方法で資金を集めています。テロリストを支持する人や国が、長年に渡り多額の資金を提供してきたのです。カタールだって、安田さんを拘束したのとは別の武装グループにずっと前から資金を提供しています。それは問題にしないのですか? それは論理的ではありません。

 私には難民としてヨーロッパに渡った兄弟がいます。今は、向こうで平和に暮らしています。シリアの現状を理解し、サポートしてくれている人たちに感謝しています。もし世界の人々がシリアの問題を知らなかったら、何も変わりません。一人でも多くの人にシリア問題を知ってほしい。そして、私自身も、これからも機会を与えられる限り講演活動を続けていきます。(原文は英語)

アスィー・アルガザリ 1992年、シリアの首都ダマスカス近郊のダルアーで生まれる。内戦が始まり、2014年1月に姉夫婦が住むサウジアラビアに、両親らと脱出。その後、インターネットの交流サイトで道内在住の女性と知り合い、結婚を決意する。15年に来日して結婚後、配偶者ビザを取得して道内で暮らし始めた。1年半で日本語を習得し、現在は札幌市内で妻と暮らす。(どうしん電子版のオリジナル記事です。随時掲載します)

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