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<書評>「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。

小川たまか著

性暴力に屈せず声上げる力
評 山家悠平(女性史研究家)

 日々の暮らしのなかで、うまく言葉にできない違和感を抱えることがある。とくに性についてメディアが伝える情報にふれたときに。この本は、そんな違和感を丁寧に言葉でほどいてゆく。なによりも、言葉を届けようと思う相手の顔をしっかりと想像しながら書いている文章だと感じる。著者は、1980年生まれのフリーライターで、性暴力の現状について積極的に取材をし、ネットニュース等で発信している。この本はウェブ連載を基にしていて、表現もやわらかく、とても読みやすい。

 内容は、容姿を褒められたら必死で否定しなければいけない雰囲気への嫌悪感や、欅坂46の歌う「スカートを切られた」という歌詞への批判的考察、性暴力被害を告発した伊藤詩織さんとの出会いなど多岐にわたる。そのなかで著者が繰り返し語るのは、性暴力の告発を、なかったことにしようとする社会的な圧力の強さである。ごく最近の統計でも、性交を強制された経験のある女性のうち、警察に連絡・相談にいったのは2.8%で、逮捕・起訴にいたるケースはさらに少ないという。そんな具体的な事実は、社会を覆う「男女平等」という薄いフィルムを剥ぎ取り、ジェンダー格差145カ国中114位(2017年)の悲惨さを見せつける。

 それでも、この本から伝わってくるのは、現状の暗さ以上に、言葉を発すること、声を上げること自体の強いエネルギーである。伊藤詩織さんが実名で本を出版したときの印象を著者は、「性犯罪の被害者に『恥』の烙印(らくいん)を押す世間が、彼女から名字を奪ったように感じていたから。名前を取り戻せたんだと思った」と書いている。名前を取り戻すこと。性暴力被害当事者の声を響かせることは、被害を矮小(わいしょう)化し、当事者の存在を否定しようとする現在の社会をかえてゆく大きな力になる。

 自分の言葉がだれか1人には届くかもしれない―勇気づけられる本だ。思春期を過ごす人たちにすすめたい。いまを生き抜くための知識がここにあるから。(タバブックス 1728円)

<略歴>
おがわ・たまか Yahoo!ニュース個人「小川たまかのたまたま生きてる」などで執筆

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