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<第9部 輪西町かいわい>1 笑顔生む工房 作り手の思い ボルタに

 室蘭のご当地人形「ボルタ」を作り続けたベテランが、この秋卒業する。「ボルタ君も、ガールフレンドのナッティさんも、本当にかわいい。ハンドメイドの温かさだね」。呼び捨てにしないところに、愛情がにじみ出る。

 福山善久さん(77)。輪西町1のボルタ工房で働くスタッフ12人の中で、最年長の一人。工房が現在の場所で開業した2007年から、製作に打ち込んできた。

 愛媛県出身。実家が工場を営んでおり、幼いころからハンダ付けに慣れ親しんだ。「自分の手でおもちゃを作るのが楽しくて、楽しくて」と振り返る。

 大学卒業後、日立製作所(東京)に入社し、照明器具の開発などを担当した。60歳で定年退職し「雑踏を離れて暮らしたい」と、妻の実家がある室蘭に移住した。

 定年後の夢は、天体望遠鏡を自作して星を観測することだった。木材で枠を作り、鏡を磨いて、数年で完成させた。次は何をしようかと思案していたころ、ボルタ製作スタッフを募集する新聞記事を見て、応募を即決した。以来、堅実な仕事ぶりと気さくで穏やかな人柄で、仲間の尊敬を集めてきた。

■鉄のまちを象徴

 地域おこしを志した市民団体「てつのまちぷろじぇくと」(現・NPO法人テツプロ)が製作した人形が、公募で「ボルタ」と名付けられたのは2006年のこと。

 当初は輪西町の時計店の2階の部屋で、メンバーらが肩を寄せ合って作っていたボルタは、現在、年間の製作数が約3万個。ステンレスのボルトやナットをはんだ付けしたシンプルな人形は、「鉄のまち」を象徴する土産物となった。

 福山さんは「ボルタがなぜ愛されたか。みんなが楽しみながら思いを込めて作っているから、冷たいステンレスが温かくなる」と語る。体力の衰えを感じ、引退を決めた。最後の勤務は20日だ。

■時間忘れて熱中

 楽しみながら、思いを込める―。三上めぐみさん(57)は、先輩の言葉をかみしめる。「今までのパートでは、早く終わらないかなって思っていた。工房では時間がたつのを忘れる」と笑う。16年10月に工房に入った。スタッフの中で、キャリアは最も浅い。

 パートを探していて、ボルタ工房と出合った。趣味は折り紙。手先は器用な方だと思っていたが、採用試験で作ったボルタは「受かるわけない」と諦めるほど不格好だった。「これはとんでもないところに来てしまった、と思った」と苦笑する。

 あれから、もうすぐ2年。福山さんに比べると、作業のスピードは半分くらい。「やりがいを感じるなんて、まだまだ。修業中です」と話す三上さんの心を、ボルタとナッティが勇気づける。「目を付けると、急に愛着がわく。ねじ穴のちょっとした角度で、表情が違うのが面白い」。その熱意が、工房の次の10年につながっていく。

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